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忘れられた盾の勇者は護りたい  作者: たてみん
第1章:忘れられた盾の勇者
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17.ティーラの悩み

 ある日、僕の朝練の組手相手はティーラだった。


(丁度いいタイミング、かな)


 ここの所ティーラは何処か悩んでるみたいだったから何があったのか聞こうと思ってたんだ。視察で護衛に付いてもらってる時でも良かったけど、剣は口程にものを語るとも言うし、彼女と手合わせすれば何か分かるかもしれない。


「お願いします」

「お願いします!」


 一礼してお互いに武器を構える。僕は左手に持った小盾を前にして半身になり、ティーラは両手で持った槍を水平に構えた。


「行きます!」

「いつでもどうぞ」


 基本的に僕は受けだ。ティーラが大きく踏み込んで来るのを適度に力を抜いて待ち構える。

 そしてビュンと力強く突き出された槍は、しかし僕にかすりもしなかった。

 ティーラの突きはお世辞ではなく速い。だけどそれだけだ。避けるだけなら盾を使う必要すらない。


「くっ」

「……」


 悔しそうに呻き、更に2撃3撃と続くがどれも僕を捉えられない。それを見てガクリと膝を突いてしまった。

 慌ててティーラのそばに駆け寄って声を掛ける。


「大丈夫?ティーラ」

「はい。すみません、アル様。

 無様な姿をお見せしました」

「それは良いけど何か悩みがあるの?

 今も随分と身体に力が入ってたみたいだけど」


 ティーラの今日の槍はどこか怯えているようにも見えた。まるで何かに追い詰められているようだ。


「あのアル様。私はどうしたら強くなれるでしょうか。

 最近はアル様もサラもお強くなられて、もう私が護衛する意味もないのではないでしょうか」

「いやそんなことないけど」


 ってそんなこと言っても気休めにしかならないか。

 どうやらティーラは僕達が訓練に付いてこれるようになって焦っていたようだ。

 僕もサラも見た目はか弱い女子供のままだ。街の人達を怯えさせない為に敢えてそうしている部分もあるし当分変える予定はない。

 その代わりティーラやグントが護衛ですよって格好で近くに居てくれるので小悪人達も僕達に手出しすることはない。


「ティーラ。僕はティーラが護衛に付いてくれて凄く助かってるよ。

 ただそうは言っても安心出来ないよね」

「はい……」

「じゃあ僕が知ってる最強の槍使いの話をしようか」

「お、お願いします」


 ティーラは藁にも縋る勢いで僕に頼み込んできた。

 ちなみに僕の知る最強の槍使いと言えば200年前の槍の勇者だ。体格とか全然違うけど参考にはなるだろう。

 

「その人は特訓の為に蜂の巣を突付いて飛び出して来た大量の蜂を手に持った1本の槍で全て突き倒してたそうだよ」


 そうして訓練しながら蜂蜜を売って路銀にしていたんだけどね。


「あのそれはどこの勇者のお話ですか?」

「うん、普通は無理だよね」


 普通なら槍で蜂と戦ったりしない。魔法で制圧した方が圧倒的に楽だし。

 やっぱりティーラに合ったアドバイスじゃないと駄目か。


「ティーラの槍はさ、素直過ぎるんだよ」

「素直、ですか」

「そう。多分ずっと基礎に忠実に訓練を重ねてきた証拠なんだけどね。

 そのせいで狙いが読まれやすい。

 さっきだって僕は槍が動き出す前に何処に飛んでくるか分かったから簡単に避けれたんだよ」

「そうだったのですね。ではどうすれば良いのでしょうか」

「方法は幾つかあるけど、1つは読まれても関係ない速度で突きを放つことかな」


 槍の勇者が『これぞ究極』とか言ってたけど、つまり力押しだ。ティーラに出来ないとは言わないけど相当の修練を積む必要がある。

 なのですぐに体感できる成長を望むなら別の策を立てないといけない。


「ティーラの場合は囮作戦が良いと思う」

「囮?」

「うん。これは実際にやってみた方が早いよね。

 という訳で今から僕が拳を突きだすから、狙われたと思った場所をガードしてね」

「わ、分かりました」


 神妙に頷くティーラに対し、僕は右手に剣か槍を持ったイメージでティーラの肩目掛けて拳を突き出した。


「えいっ」

「ぐっ!!」


 呑気な掛け声の僕とは対照的に、お腹をガードしたティーラは、しかし本当に肩を貫かれたように大きく仰け反った。

 痛そうに肩を押さえて顔を顰めるので見ているこっちが心配になってしまう。


「大丈夫?ティーラ」

「はい、何とか。しかし今のはなんだったのですか?

 私はてっきりお腹を狙われたとばかり思ったのですが」

「一言で言えばフェイント。

 本命の肩を狙う前にちょっと魔力をお腹に当てたの」


 騎士団員ともなれば全員魔力強化が使える。なので魔力を当てられるというのはそのまま攻撃が来ると思ってしまう。そこを逆手に取った訳だ。

 ちなみに魔力じゃなくて殺気とかでもいい。


「じゃあ次はティーラの番。

 理屈は分かったでしょ?なら次は実践」

「今の今でですか?!」

「うん。ティーラなら出来るよ」


 僕の言葉を聞いて覚悟を決めたティーラが改めて槍を構えて突きを放つ。だけど、うーん。


「まだ中途半端だね」

「ううっ」


 何となく本命の突き以外に魔力が飛んできたけど、ボワッとした感じで特に狙われた気がしない。なにより本命の槍が精彩を欠いてしまっていては意味がない。


「こればっかりは反復練習あるのみだから頑張って。

 最初の目標は同時に3箇所にフェイントを出せるようになること」

「が、頑張ります」

「ティーラなら2ヶ月もあればマスターできるよ。

 それが出来るようになったら次の段階ね」

「は?」


 なぜかぽかんとするティーラ。

 いやこんな子供騙しの技じゃ簡単に捌かれちゃうし。ティーラにはもっと強くなって貰わないとね。



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