表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忘れられた盾の勇者は護りたい  作者: たてみん
第1章:忘れられた盾の勇者
15/131

15.朝練も慣れてきました

 騎士団の朝練に参加するようになって早くも3月が経とうとしていた。

 騎士団員のみんなは最初こそ腫物を扱うような雰囲気だったけど、慣れてきたのか今ではすっかり気軽に話しかけて来てくれる。

 

「よっ。おはようアル坊。サラちゃん」

「あ、おはようございます」

「おはようございます~」

「今日も早くから精が出るな」


 朝、日の出前からやって来て訓練場の整備を行っていた僕達に挨拶してくれる騎士団長のティースさん。本人は顔が怖いのを気にしているらしいけど、僕からしたらちょっと強面だけど愛嬌もあるし良いとおもう。


「よし、ではいつも通りランニングからだ」

「「はい!」」


 集まった団員の皆と一緒に訓練場の外周を走る。今日まででだいぶ体力も付いてきたのでもう遅れる事も無い。そんな僕をなぜか皆不思議な顔で見てくるんだけど。


「おまえ一体どういう身体の作りしてるんだ」

「え、何か変ですか?」

「いや普通3月でそんな成長出来ないからな?」

「最初は1周付いてくることも出来なかったのにな」


 そ、そうだったのか。

 確かに訓練中の魔力強化は切ってる代わりにその後の回復には力を入れていた。お陰ですごくお腹が空くんだけどね。でもそれしないと今度は疲労で動けなくなるし筋肉痛で次の日に動けなくなるとか効率が悪すぎるから。

 ともかく無事に体力づくりに成功しつつある僕だけど全く問題が無いわけではない。


「では次。素振り200本」

「「はいっ」」


 みんなが刃引きした剣を用意するのを眺めながら僕だけは大型の盾を取り出した。


「……やっぱり剣は持てないのか」

「改めて試してはいないですが多分」

「まぁ試しだ。昨日の訓練で1本ヒビが入っちまったのがあるからな。それを持ってみろ」

「はい」


 ティースさんが投げてよこした剣を危なげなく右手で受け取った。すると。


バキッ!

「……ダメか」

「ですね。しかもこれ、ヒビが入ってたのと別の所が折れてます」


 そう、なぜか僕が剣を持つと途端に剣身にヒビが入り折れてしまう。剣以外にも槍は持ち手が折れるし弓は弦が切れる。一般的に武器と呼ばれる物はほとんど持てないようなのだ。大丈夫だったのはこん棒とナイフ。そして盾。

 その様子を見てティースさんが顔を顰める。


「いったいどんだけ強力な呪いなんだよ」

「まあまあ呪いと決まった訳でもないですし。

 それに僕は盾が持てれば十分ですから」


 盾の勇者としては盾以上の武器は存在しない。だから何も困ることは無い。

 ティースさんにも何も心配要らないと示すように僕は手に持った盾で素振りをしてみせる。


「ほら、剣なんて持てなくても盾があれば防御も攻撃も出来ますよ」

「いや確かに、かなり重量のあるはずのその盾を軽々と振り回されるのは脅威だけどな」


 ブォン、ブォンと突風を纏いながら振り回せば飛んでくる矢はもちろんのこと、軽戦士だって近づくことは出来ないだろう。

 素振りが終われば次は組手だ。

 ランダムで2人1組になって軽く武器を合わせることになる。ただし前述のとおり僕は盾しか持てないので専ら防御に徹することになるのだけど。


「よろしくお願いします」

「よろしく、アル君。お手柔らかに頼むよ」

「?」


 お手柔らかにと言われても僕はただ防ぐだけなんだけどな。

 ともかく組手が始まった。相手のお兄さんが振り下ろしてきた剣を盾の上を滑らせるようにして流し半歩前に出る。


「うぐっ」

「ん?」


 お兄さんは焦る様に飛び退き、今度は素早く連撃を繰り出してきた。その1つ1つを丁寧に受け、捌き、更に半歩半歩と前に出てみればやっぱりお兄さんは飛び退くので中々距離が詰まらない。いや別に距離を詰める必要も無いんだけど。

 でもお兄さんだって受けの訓練が出来た方が良いだろうし、そうなれば盾しか持っていないが殴りかかろうとするにはもうちょっと距離を詰めないと届かない。もちろん一気に距離を詰めても良いんだけど組手だしお兄さんはこんなに分かりやすい剣筋で来てくれるのだから、それに応えるのが礼儀というものだろう。

 しかしお兄さんは真っすぐ後ろに退くものだから、気が付けば訓練場の壁際まで来てしまった。


どんっ

「ま、まいった」

「え、あれ?」


 背中が壁に付き、それ以上退けなくなったところでお兄さんの降参宣言。いやこれただの組手だから別に勝ち負けじゃないんだけど。汗だくでガックリと腰を下ろした姿はこれまで組手をしてもらった人たちと同じだ。

 そんな僕たちの様子を見ていた周りの同僚から声が聞こえてきた。


「やっぱあれ怖いよな」

「ああ、こっちがどんなに頑張って攻撃しても平然と受けきってくるんだよな」

「それ以上に盾を持ったアル坊は何というか迫力が違うんだよ。

 なんというかまるでオーガか何かと対峙してるんじゃないかって錯覚を覚える」

「分かる。目とかあったら逃げたくなるよな」


 いや、そんな事無いと思うけど。


「サラ、僕怖い?」

「いえ。アル様はとても素敵だと思います」

「そっか、良かった」


 サラがそう言うなら間違いないだろう。

 っと、まだ訓練中なんだから雑談している場合じゃないよね。


「お兄さん。今度は攻守交替ね」

「えっ」

「今度は僕が小盾で攻めるから僕の盾を短剣だと思ってしっかり防いでね」

「お、おぅ。今度こそお手柔らかにな」

((がんばれ。生きろよっ))


 数分後、なぜか土下座で謝るお兄さんの姿があった。おかしいなぁ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ