表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忘れられた盾の勇者は護りたい  作者: たてみん
第1章:忘れられた盾の勇者
14/131

14.バックラー騎士団の朝練

 俺の名はティース。バックラー伯爵領で騎士団長をしている。34歳独身だ。絶賛恋人募集中なのだが何故か女性は俺に近寄って来ない。俺は騎士団長だから経済力はそれなりにある。危険が迫ったら守ってやるだけの力もある。

 なのになぜ……ってそこ。顔が怖いからとか言うな。泣くぞ?

 こほん。それはともかく、昨日伯爵から直々に指令が下った。なんでも先日こちらに来た貴族の子供とそのメイドが騎士団の朝練に参加したいと言い出したそうだ。1度は騎士団は女子供の遊び場ではないと断ったのだが、俺達の訓練の邪魔はしないこと、俺の指示に従うことなどを条件に受け入れることになった。


「今日から皆さんと一緒に訓練に参加させて頂く、アルと言います。こっちはサラ。

 恐らく最初の1月くらいは皆さんに付いていくことも出来ないと思いますがご迷惑にならないようにしますのでよろしくお願いします」


 朝一でやって来た5歳くらいの少年は、歳に似合わない堂々とした態度で皆に挨拶をしていた。その後ろに控える年頃の少女、恐らく少年付きのメイドなのだろう、も静かに頭を下げた。


(あの顔、どこかで見たことがあるような?)


 そんな疑問が沸いたが、それよりまず釘を刺しておかないといけなさそうだな。


「あー、まず最初に言っておく。幾ら女日照りでも間違ってもこの2人に手を出すなよ。特にベック」

「だだ、出しませんよ団長。ってか何で俺なんですか」

「先日西地区のとある店から遊び方が乱暴だと苦情が入ったんだが?」

「げげっ」


 まったく。

 西地区は飲み屋を始め夜の店が集まってるんだが、あそこの元締めのおばばは怖いんだって。最悪闇に葬られるぞ。俺の所に苦情が来たって事はまだ見逃すけど改善の兆しが見えなければ分かってるなってことなんだからな。


「よし、ではいつも通りまずはランニングで訓練場の外周を10周だ」

「「はいっ」」


 そうして始まった朝練。特にこの2人の為に何かを変えたという事は無い。なので団員から特に苦情が出ることも無い。まぁそれはいいんだ。ただまぁ案の定あの少年は全くと言って良い程、付いて来れてない。驚きなのはメイドの女の子の方か。かなり厳しそうではあるが何とかついて来ている。


「はぁっ。はぁっ」

「あ、アル様。大丈夫ですか?」

「だい、じょう、ぶ。

 最初から、魔力強化しないと、こうなるのは、分かってた、から。

 サラは気にせず、皆について行って」


 魔力強化?……いやそれ自体は特に珍しい技術ではない。全身に魔力を流すことで身体能力を強化する初歩の魔法とも言えるし、魔法を習う前に身に着ける必要のあるものだ。騎士団員なら全員が使える。

 だが、5歳の子供が使えるものだったか?俺が覚えたのは確か10歳くらいだ。それも使えるようになったのが嬉しくなって、それ以上にコントロールが難しくてすぐに魔力切れで倒れてたはずだ。それをあの少年は意識的に切っているというのか。


(まったくどういう英才教育をしたらそうなるんだ)


 ま、それでも所詮は子供だ。団員が10週する間に2周しか出来ていない。あれじゃああと1周もしたらぶっ倒れるな。そうなれば嫌気がさしてすぐに来なくなるだろう。


「ランニングが終わったら素振り200本。遅れるなよ」

「「はいっ」」


 メイドと思われる少女は、かなりきつそうだがそれでも付いて来ているな。しかしやっぱりどこかで見たことがあるような。

 ……ってそうか。領主様の奥様と顔が似てるんだ!

 そういえば下の娘が王都に奉公に行ったと聞いたことがあるが、それが帰ってきていたのか。しかしならなんで俺達の訓練に参加しているんだ?どっちかというと護られる側だろうに。

 まぁ上の考えは気にしても仕方ないか。あの少年が辞めれば一緒に辞めることになるだろうし。

 2時間ほど訓練を行った後は朝食だ。全員汗を拭いて軽く手を洗って食堂へと移動する。結局あの少年はランニングで5周したところで終わった。最後まで足を止めなかった事だけは評価に値するが、普段から運動不足なのが分かる体力の無さだ。


「いただきます」

「「いただきます」」


 食事は基本的に全員無言で食べる。マナーという訳ではなく、口を開くのも億劫だと言うだけだ。なにせここの料理は不味いからな。

 ちょっと意外だったのはあの少年少女も俺と一緒のテーブルで食事を摂ろうとしていることだ。てっきりお貴族様は別室で上手い料理を食べるものだと思っていた。なにせここの食事は。


「これ不味いね」

「そう、ですね。これはちょっと」


 そう、何度でも言うが不味いんだ。以前確認したら栄養は満点らしいんだが如何せん味が酷い。俺達はもう慣れたけど普段美味いものを食べてるなら2口と耐えられないだろう。


「うん、やっぱり不味い」

「文句言ってないで食え。残すのは厳禁だからな。ってもう空かよ!」


 驚いたことに文句を言いつつもしっかりと自分の分を食べきってみせた。これには周りに居た団員もびっくりだ。


「これお替り貰えるのかな?」

「え、あ、まぁ残ってたら貰えるんじゃないか?」

「良かった。あ、ティース団長。僕はしばらくは朝しか訓練に参加出来ないので、また明日よろしくお願いします」

「お、おう」


 そう言って少年は自分の皿を持って元気に厨房へと行ってしまった。食堂に来るまではランニングでへばっていたはずなのにいつの間に回復したのか。少女の方は、少年の行動を見て慌てて自分の分を口に詰め込んでいる。顔色が悪いのは、やっぱり不味いからな。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ