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忘れられた盾の勇者は護りたい  作者: たてみん
第1章:忘れられた盾の勇者
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13.汚れ仕事

 夕食と入浴を終えて後は寝るだけとなった夜。僕の部屋には僕を除き3人分の人影があった。そのうちの1人は街の案内をしてくれたグントだ。


「こんな夜に呼び出してごめんね」

「いえお気になさらず」


 そう、彼らを呼び出したのは僕自身だ。むしろそうじゃなかったら大問題だけど、3人とも僕が何を言い出すのかと膝をついた状態で静かに僕の様子を伺っている。


「それにしても初日から汚れ仕事をさせてしまったね」

「ご安心を。あれが我らの任務ですので。

 むしろ私としては彼らのリーダーを王子が躊躇いもなく殺したことに驚いてますが」

「グントだけに汚れ仕事をさせる訳にはいかないでしょ。あと王子じゃなくてアルって呼んでね」

「はっ。あの1つお聞きしてもよろしいでしょうか。

 アル様はいつから私達の事を気付いていたのですか?」

「多分最初から?」


 私達の事っていうのはつまり、グントがただの案内役の騎士では無かった事。それと後ろの2人が今日の視察の間ずっと影ながら護衛に付いていてくれた事だろう。

 昨日は魔力切れで寝ていたから知らないけど今日は領館を出た時から隠れてこちらを見ている気配には気付いていた。悪意の類は感じられなかったから伯爵が付けてくれた護衛なんだろうとすぐ分かった。


「グントに関しては、最初僕に会った時に『王子』って呼んだでしょ?」

「はい。あっ」

「僕が王子だって誰から聞いたのかな」

「……陛下からです」

「だよね。よかった。サラとティーラには僕の事を王子とは呼ばない様に伝えてあったからさ」


 あの2人がうっかり口を滑らせていなくて良かった。

 夕食の時に確認したけど僕が王子だと知っているのは伯爵家の家族を除けば執事長とメイド長など限られた数名だけ。僕が半分お忍び状態だというのは伯爵たちも熟知している。だから騎士団長でもないグントが僕の事を王子だと知っていたのはおかしい。考えられるのは僕の専属の護衛、それも影ながら活動出来る者だ。

 王都を出た時には彼らの気配は無かったから僕らが馬車でゆっくり移動している間に先回りしたのだろう。


「伯爵たちはグント達の事を知っているの?」

「私の事と、他に2名活動していることは伝えてあります」

「そっか、それでここの騎士団にも紛れ込めたんだね」


 もし仮に伯爵に何も伝えていないのだとしたら活動しにくいだろうから僕からそれとなく伝えておこうかと思ったけどその必要はなさそうだ。


「そういえば後ろの2人の名前を聞いてもいい?」

「ガントとお呼びください」

「ギントです」


 ガント、ギント、グント。3兄弟って感じでも無いし、まぁ偽名なんだろうね。本名を無理に聞きだす必要も無いし彼らがそれで良いというのだからいいか。


「じゃあガント、ギント、グント。これからよろしく。

 今日1日見てわかる通り、自分に降りかかる火の粉くらいは自力で払えるから気楽に構えて欲しい」

「「……」」

「アル様。それは何とも笑える冗談ですね。我々一同、今日1日だけでもより一層気を引き締めねばと思っております」

「あ、あれ?」


 おかしいな。あのおじさん達の事だって所詮碌に訓練していない小悪党だ。仮にグント達が居なかったとしても自力で殲滅出来たし、1度通った道は大体覚えてるから迷子になることだってない。

 今日1日見て回った感じ、治安は良さそうだし多分あと数回掃除をすればこの街から重犯罪はほぼなくなるんじゃないかと思ってる。

 そんなことを思ってたらグントからため息をつかれた。


「アル様。お顔にまたご自分から危険に飛び込むと書いてありますが」

「ソ、ソンナコトナイヨー。

 と、そんな冗談はさておき。

 僕はこの世の中が綺麗ごとだけでは回らないことは知っている。

 今日消した彼らのように魔力が濁りきってしまった者まで救うのは今の僕では無理だ。

 今後も表立って人には言えないようなことを何度も繰り返して、それでもなお本当に護りたいものを僕1人では護れないだろう。

 だからグント達にはこれからも汚れ仕事を手伝ってもらうことになると思う」

「はっ。承知しております。

 むしろ王子のお手を汚させない為に私達が居るのです。存分にお使いください」

「ありがとう。……それにしても何で僕の周りの人は同じような事を言うかな。

 僕の事なんかよりももっと自分のことを大事にしようよ」


 サラも先日似たような発言をしていたし、みんなして自分を後回しにし過ぎだと思う。


「僭越ながら、それは類は友を呼ぶというものではないでしょうか」

「いや僕はちゃんと自分を大事にしてるし」

「「……」」


 どうして黙るかな。これでも僕は自分を大事にしながらやりたい事をやってるんだけど。

 サラもティーラも年頃の女の子なんだしいつも僕のお世話なんてしてなくてもっとお洒落とか趣味とかに時間を使ってくれても良いと思ってる。まぁサラに関してはそのやりたい事が変な方向に行ってる気がするけど。


「と、そうだ。グントに1つお願いがあったんだ」

「なんでしょうか」

「サラがさ。護身術を学びたいっていうんだ。

 僕が教えられたら良かったんだけど基礎以外はそうもいかないから、グントの手が空いてる時間で良いから指導してあげて欲しい」

「はっ、承知しました」

「だって。良かったねサラ」

「はい」


 僕が声を掛ければカーテンの傍からサラの返事が聞こえてきた。それを聞いてギョッとするグント達。どうやら気付いていなかったみたいだね。さっきからずっとそこに居たのに。


「ま、まさか君はただのメイドの振りをして実は凄腕の暗殺者だったのか」

「いえ、無いです無いです。

 これ全部アル様の差し金ですからっ」


 ぱたぱたと手を振って否定するサラ。

 実際サラは貴族の子供として多少魔力操作を学んだだけの女の子だから。

 だけど差し金って、それじゃあまるで僕が悪の親玉みたいじゃないか。


「僕は大した事はしてないよ。

 ただ3人の意識からサラの存在を護っただけだし」

「それは……王家の秘術ですか?」

「ち、違うよ? これただのかくれんぼに便利な魔法だよ」


 まあ便利というかかくれんぼで使ったら怒られる魔法だけど。過去にはこれで何度も追手を撒いた大変ありがたい魔法だ。


「じゃあ今日話したかったのは以上だから。明日からもよろしくね」

「「はっ」」


 短く答えてグント達は音もなく部屋から去って行った。

 そして僕も、日中と良い感じに魔力を消費出来て眠くなってきた。

 明日からは体力づくりもしないと、ね。



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