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忘れられた盾の勇者は護りたい  作者: たてみん
最終章:世界は勇者を求めている
127/131

127.天罰覿面……ん?

 僕の言葉を聞いて、良し分かったとなれば良いのだけど、そんなに物分かりが良いヒト達ならそもそもここに来ることも無かった。

 少しの間目をつぶり無言になった精霊たちはカッと僕を睨みつけた。


『かつて邪神龍を退けし者ゆえ話くらいは聞いてやろうと思ったが』

『我等を脅すなど』

『その傲慢さ、許し難し』

『『身の程を知るが良い。人間よ』』


 ゴゴゴゴと振動を伴って魔力の嵐が巻き起こる。

 老いて依り代を失ったとは言え精霊だ。魔力の扱いは人間をはるかに凌駕する。何も無かった空間に突如暗雲が立ち込めたかと思えば僕の頭上を覆った。


カッ!!


 落雷が僕を切り裂く。地上ならゴロゴロとか派手な破裂音を響かせて降り注ぐ雷だけど、ここには破裂する空気が無いし、何より至近距離すぎて音を聞く間もなかった。なんというか。


『どうだ人間。我らに口答えすればこんなものでは済まさんぞ』

「……」

『む、ちとやり過ぎたか』

『地上に居る時と違い精神体のみだからな。消滅せずに居るだけ大したものだ』


 なんというかただただ眩しい。

 眩しさに閉口していたら何か勘違いされたようだ。


「まさか目潰し攻撃をされるとは思わなかった」

『なに!?』

『まさか無傷だというのか』

『ええい、ならばこれならどうだ!』


 精霊の掛け声に合わせて暗雲から雹、いや氷の礫が降り注いだ。

 う~ん、粒が大きいな。仕方ない。


「ていっ」

パキパキパキッ


 近くに落ちてきた礫を叩いて砕いて綺麗なダイアモンドダストに変えて行く。手が届かない範囲は無視したのであっという間に氷の壁が僕を包み込んでいた。


「邪魔」

ゴンッ。ガラガラガラッ。


 氷の壁を殴って砕いて抜け出した僕の手には、氷で出来たグラスとかき氷。


「シロップ掛けて食べたら美味しそうなんだけど、ここにはないよね」


 こういう時、サラならスッと出してくれるんだけど、ここの精霊に言っても無理だろうな。まったく使えないヒト達だ。


「はぁ」

『な、なんだその残念そうなため息は!』

『くそ、こうなれば必殺をお見舞いしてくれるっ』


 暗雲が消え、代わりに足元から何かがせり上がって来た。それは地面? まさか土魔法で大地を用意したのか。地面は見る間に大きく高くなり僕の身長の倍くらいになった。イメージはミニチュアの山だ。よくよく見ると山肌には森の模型や花畑まである凝り具合。子供たちが見たら喜びそうだな。


「ってこんなものを僕に見せてどうするの?」

『ふんっ、のんびり見ていられるのも今だけだ。これをくらえっ』


 精霊の合図と共に山頂が爆発して噴水のようにマグマが噴き出した。そのマグマは山肌を焼き僕の方へと流れて来た。


『ふはははっ。1000度近いマグマだ。

 流石の盾の勇者と言えどこれには耐えられまい』

『……』


 高笑いする精霊の隣でひとりだけ悲しそうに山の景色を眺めている精霊が居た。多分あの山の設計をした精霊なんだろう。妙に作り込まれていたしそれなりに愛着があったんじゃないだろうか。それが今はマグマに押しつぶされて無残に灰になってしまっていた。

 そうこう言ってる間にマグマは僕の足元まで流れて来た。けどなぁ。


「ちなみに邪神龍のブレスは温度換算で言えば1万度を超えるんだけど」


 1000度のマグマを前に温いなぁとは言わないけど、耐えられない温度ではない。ちょいと足で掬って蹴り上げてみれば『ひぇっ』と情けない声を上げて精霊たちが逃げた。何だかなぁ。

 それとちょっと勿体ないなと思ってしまった僕は柏手を打ちながら魔法を行使した。


「はいはい。遊んだ後はお片付けね」


 僕の魔力を受けて、まるで時計の針が逆回転するようにマグマが山頂へと吸い込まれて行き、焼け焦げた山肌も元通りとまでは行かないまでも無事だった森が再生していった。


「輪廻転生。焼け跡からはまた新たな草花が芽生えるんでしょう」

『ッ?!ッ!!』


 さっきの精霊が僕の言葉に何度も頷きながら打ち震えている。しかし残りの精霊はといえば怒りに身を震わせているようだ。


『ええい、こうなったらお前の肉体の方を脅かしてくれる』

『精神体の抜けた肉体などセミの抜け殻も同然』

『さあやれ!』

『……』


 怒る精霊が映し出された地上に向けて声を掛けるも、何も起きない。


『何をしておる。聞こえぬのか』

『天変地異を起こし、この者の肉体を地割れの底に叩き落すなり竜巻でバラバラにして吹き飛ばすなり早くしろ』

『……』


 再三呼び掛けるも変化なし。僕の肉体がある精霊樹の周囲には穏やかな風が吹いて過ごしやすそうだ。


『我々の呼びかけに応じぬとはどういう了見だ!』

『無駄ですよ』

『む、誰だ!』


 突如、僕の後ろから声がした。振り返ってみればそこにいたのは精霊樹の少女を大人にしたような美しい女性だった。慈愛に満ちた眼差しで僕を見ていたと思ったらそっと僕を抱きしめた。


『私の娘を救って頂きありがとうございます。

 そしてこの度は大変ご迷惑をおかけしました。

 さぞご苦労されたことでしょう』


 そう言いながら僕の頭を撫でる姿はお母さんのようだ。


「私の娘ということは、精霊樹の?」

『はい。あの子は私の元から株分けした一人なのです』


 新しい精霊の生まれ方は諸説あるけど、植物系の精霊なら株分けって形になるのか。

 なんてちょっと感心していたら他の精霊たちが驚き声を上げた。


『なぜここに来た世界樹の』

『そして無駄とはどういう意味だ!』

『そのままの意味です。

 地上で彼に危害を加えようとする精霊は居ません』

『なんだと!?』

『彼には私だけでなく大勢の精霊がお世話になっているのですから。

 恩を仇で返すは精霊にあらず。

 1000年もこんなところで寝そべっているから、そんな当たり前のことも忘れるのです』


 キッと彼女が睨めば精霊たちはタジタジになってしまう。どこの世でも女は強し母はもっと強しってのは変わらない真理のようだ。

 かと思えば再び僕の方に優しい眼差しを向ける。


『さあ、彼らには私からキツく言って聞かせますから、あなたは安心して地上にお戻りなさい』

「はい。ありがとうございます」


 彼女に背中を押されるようにして僕はその場を後にした。

 その後ろからは文字通り雷が落ちる音と精霊たちの悲鳴がこだましてたけど聞かなかったことにしよう。うん。



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