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忘れられた盾の勇者は護りたい  作者: たてみん
最終章:世界は勇者を求めている
126/131

126.老害との交渉

 門を潜ればそこは何もない薄暗い空間だった。なるほど、思ったよりも現世から隔絶したヒト達が相手らしい。

 精霊と一言で言っても様々居て、精霊樹のように現世に依代があってそちらが生活のメインとなっている者達と、風や水など明確な個の依代を持たない者達、そしてただの概念的存在となった者達がいる。だいたいは年齢を経る毎に前者から後者へと移り変わり、最終的には世界と合一して居なくなる。

 そしてここはその死ぬ間際の老人たちの暮らす場所ってところだろう。地上とは一切接触できず、ただただ眺め、そして仲介役の精霊の力を借りて言葉を届けるのが精々だ。

 周囲からいくつも視線を感じるが姿は無い。いや、来たか。

 僕の頭上で僕を囲むように幾つもの人魂、いや精霊魂が灯る。


『人間風情がこの地に足を踏み入れるか』

『樹精の子にも困ったものだ』


 樹精の子とは僕を案内してくれた精霊樹の少女の事だろう。彼女は入口を開けた後、僕に付いて来ようとしてたけどこれ以上迷惑も掛けたくないので向こうに残ってもらった。

 彼らはぶしつけな視線を僕に送りながら口を開いた。


『人間よ。いつまでのうのうと立っておるか。

 己の立場を弁えよ。

 跪き卑者に相応しい態度というものがあろう。

 それとも愚か過ぎて理解出来ぬか?』

「ふむ」


 困ったな。言葉は分かるのに意味が分からない。


「僕の立場が何かと言えば、要するに客でしょう?

 お茶を淹れて歓待してくれても良いくらいじゃないかな。

 ただまぁ、あなた方に美味しいお茶やお茶菓子を求めるのは無理な話でしたか」

『なっ!?』

『我らを愚弄するか!!』


 僕の言葉を聞いてチカチカと明滅しながら怒りを露にする精霊たち。

 いや普通に考えたら数百年は生き続けているんだからもうちょっとどっしり構えて貫禄を見せてくれても良いと思うんだけど。……まぁこんな何もない所で成長する方が難しいかもしれないね。しかも周りには自分の事を肯定してくれる存在ばかりなのだし。


「ま、そんな冗談はさておき。

 どうせずっとここから僕らの事を覗いてたんだろうし、僕がここに来た理由はある程度分かっているでしょう?」

『いや。さっぱり分からんな。

 我らはお前にとって有益な支援をしていたはずだ。

 一体何処に不満があるというのだ』


 あ、どうやら僕が怒っていることだけは伝わっているらしい。よかった。それなら話が進む。


「余計なお世話。現役引退してるのに口だけ出すのは止めてもらいたい。

 しかも僕の大切な人達を本人の望まぬ方向に誘導するなんて以ての外だ」

『ふっ。そうは言っても人間などと言うものは我らが導いてやらねば簡単に道を踏み外して滅びる生き物だ』

『邪神龍モドキを復活させた者たちを見ただろう。

 あれこそまさに自らの首を絞める馬鹿の象徴だ』

「確かにあれは馬鹿としか言いようがないけど。

 それでももしその結果滅んだとしてもそれはその地に生きている者たちの選択の結果だ。

 それよりも安全なところからそれは正しい正しくないと批判して口出ししてくる方が問題だと僕は思う」

『我々に救いを求め祈りを捧げるのもまた人間なのだが、それはどうする。

 勝手に死ねと見捨てるのが正しいと言う気か?』

『見てみろ。今も多くの人間が祈りを捧げている』


 彼らの言葉に呼応するように何もなかった所に明かりが灯り地上の街の様子が映し出された。人間、獣人、エルフ。種族は様々違うし場所や様式もそれぞれだけど祈りを捧げ助けて欲しいと願っている事は分かる。

 困った時の神頼み。神か精霊かはともかく、人間の多くはどうしようもない困難に見舞われた時や、そこまで行かなくても祈りを捧げ助けて欲しいと願うものだ。僕だって別に彼らを批判したい訳ではない。


「祈った結果、もしその祈りが通じて救いが与えられたとして、その時はそれでいいかもしれない。

 だけどその後は?

 祈れば助かると分かった彼らは自分たちで問題を解決することを放棄してただただ祈り続ける事になるだろう。

 彼らが死ぬまで面倒を見るならそれでもいい、という話でもない。

 他人に生かされてるだけの存在となり果てればそれは死んでいるも同じだ。

 だからさっきの質問に対する僕の答えは、見捨てれば良いと思う。

 それが嫌ならその場まで行って直接手を差し伸べることだ。

 それなら『何か良く分からない超常の力に助けられた』とはならないのだから」


 幸せの形はそれぞれだし、未来なんてどうでも良いからとにかく今助けて欲しいっていう人は沢山居るだろう。特に今にも大切な人が死んでしまうような場面では。

 未来を語れるのは今に余裕があるからとも言える。世界平和がどうこうって言うのも今日食べるものに困っている人からしたらどうでもいい話だし。

 と、なにやら話の方向性が壮大なものになって来たけど、間違えてはいけないのは別に僕は人類の為とか未来の為とか世界平和の為とか、そんな御大層な事の為にここに来ている訳ではないという事なんだよね。だから実の所、僕の見えないところで彼らが何をしていようと良かったりする。


『お前の理念と我々の理念に相違があるのは分かった』

『人間の祈りに対して我々がどうするかは我々が決める事だ』

「うん、僕はあなた方をコントロールすることは出来ないし、地上に介入しないように強制することも出来ないのは分かってるんだ」

『ならば何とする』

「僕が言いたいのはただ一つ。僕の大切な人達に接触するな」

『……したらどうするというのだ?』

「今度からは僕が全力で護る。警告はしたのだからその結果あなた方に被害が及んでも知らないからね」


 地上に干渉するには今回のように道を通す必要がある。そうなれば今回のようにわざわざこっちまで来なくても僕の力が届くだろう。倍返しか10倍返しか100倍返しになるかは彼ら次第だけど、ただでは済まない事だけは確かだ。



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