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忘れられた盾の勇者は護りたい  作者: たてみん
最終章:世界は勇者を求めている
125/131

125.肉体という器を抜け出して

 僕は椅子から立ち上がり、精霊樹の近くまで歩いていった。そしておもむろに話しかける。


「やあ久しぶり。僕の事は分かる?

 しばらく見ない間に随分と大きくなったね」


 その呼びかけに応えるように魔力が集まり、はっきりと少女の姿になった。背丈だけで言えば今のエンジュよりも少し小さいくらいか。200年以上生きていると言っても精霊としてはまだまだ子供ということだろう。


『再びこうして会えた奇蹟に感謝致します。私の救世主様』


 鈴の音のような軽やかな声で語り掛けてくれるそこには確かな感謝と憧憬の想いが籠められていた。聞いてるこっちはちょっとこそばゆくなる。


「僕はそんな大した事はしてないよ?」

『いいえ。あなた様が居なければ私は間違いなく邪神龍に踏み潰されて死んでいた事でしょう。

 あの時は自我が芽生えたばかりで身を守るどころか逃げる事すら出来ませんでしたから』


 この地で邪神龍との決戦を行っていた時。どんなに周囲の環境が吹き飛ばされようともほんの小さな若木でしかなかったこの木を護って戦っていたのは、確かにそこに赤ん坊のような気配を感じていたからだ。


『私を護ろうとしていなければ、もっと余裕を持って戦えたのではないですか?

 それこそ相打ちになどならずに済んだのではないでしょうか』

「それはむしろ逆かな」

『逆?』

「そう。真逆と言ってもいい。

 僕は君が居てくれたからこそ最後の最後まで戦い抜けたんだよ」


 今振り返ってみても200年前の僕は攻撃力という意味では邪神龍の足元にも及ばなかった。だって盾の勇者だから。その真価は誰かを護る時にこそ発揮される。他の勇者パーティーのメンバーは共に戦う仲間であって護る対象ではなかった。だから邪神龍の元に辿り着くまでの道中で遭遇した魔物に対しては僕は押し返す程度が精々で、攻撃を加えていたのは他の勇者たちだった。

 仮に最終決戦のあの場に何も護るものが居なかったとしたら、多分僕らは邪神龍に大したダメージを与える事も出来ずに敗北していただろう。

 そう言う意味で助けられたのはむしろ僕の方だ。


『たとえそうだったとしてもあなた様が私の命の恩人であることに変わりはありません』 


 僕の説明を聞いてなお、精霊の少女は首を横に振った。まぁ彼女の想いを否定する必要はないか。


「それでその恩返しにフィディにあれこれお願いしてたの?」

『それは私とお母様の話を聞いていた精霊ひと達が面白がって……』

「ふむふむ、そっか~」


 ひとまず彼女が悪いわけではないという事が分かって一安心だ。そしてこの言い方からして問題を起こしたのは人で言うところの下世話なおっさん共ということなんだろう。これはやっぱりお灸をすえてあげないといけないな。


「じゃあその人達とちょっとお話がしたいから道を開けてもらっても良いかな?」

『道をってまさかこちらに来れるのですか?』

「入口さえ開けば、ね」


 今僕達が居る空間と高位の精霊たちが住んでいる空間は離れては居ないんだけど、何というかズレているから簡単には行き来が出来ない。その為、彼女に仲介してもらって、さらに精神体だけになってようやくたどり着けるようなそんな場所だ。肉体から精神体を切り離すなんて芸当は何度も死後の世界を体験している僕ならではの芸当だろう。

 僕は後ろを振り向いて成り行きを見守っていたフィディ達にお願いをする。


「少しの間、僕の肉体をお願いね」

「え、えぇ」

「「???」」


 かろうじて返事をするフィディとこれから一体何が起きるのか分かってないフィディの両親。この辺りは僕との付き合いの長さの差が出たのだろう。

 さて、肉体から抜け出すのに何も難しい手順とかはない。ただ深く深く深呼吸をするだけだ。


(息を吐いて~吐いて~もっと吐いて~~一瞬止める!)


 そうするとふっと意識が空白になる。その瞬間にふわっと飛び上がれば無事に離脱成功だ。

 精神体となった僕は空中から見下ろすようにして自分の肉体を見る事ができる。精神が抜けた肉体は立ったまま眠っているようなそんな状態だ。こけて怪我をしない様に防護魔法は掛けてあるけど自律して動くことは無いので後の事はフィディにお願いしよう。


「って、アル!まさかあなたは精霊に近い存在だったの!?」

『ん?あ、そっか。フィディ達なら今の僕を見えるのか』


 日頃から精霊と交流を持ってるんだから普通の人なら見えないはずの精神体が見えているらしい。これなら特に説明とか無くても大丈夫そうだな。


『なるべく早く戻ってくるけど、その間僕の肉体をよろしく』


 そう言い残して僕は精霊樹の少女と共に精霊たちが居る空間に繋がる門を潜り抜けるのだった。


………………


 私達に一言声を掛けるとするりと肉体から精神体を分離して精霊と共に姿を消してしまったアル。

 残された肉体はまるで立ったまま眠っているような状態だ。


「アルってこんなことも出来たのね」

「というか、いくら私達が居ると言っても無防備過ぎないか?」

「そうよねぇ。

 すぐそこに邪神龍モドキも居るし今襲われたらどうするのかしら」


 パパとママの懸念ももっともだ。私達を信頼してくれたと考えれば嬉しくもあるけど、邪神龍モドキが本気で攻撃してきたら動かない彼を護りながら何処まで戦えるか。

 なんて。そんな心配は多分無用なのよね。


「肉体だけになっても、アルはアルだから。

 きっと魔物の群れに放り込んでもびくともしないわよ?」


 そっと手を引けば何の抵抗もなく私の腕の中に納まったけど、これは私に敵意が無いから。もし少しでも傷付けようと考えていたら触れるどころか近付けたかどうかも分からない。


「さあ。アルがいつ戻ってくるかも分からないし、それまでのんびり待ちましょう」

「あ、あぁ」

「そうね。……へぇ、これは面白いわね」


 頷きつつママがアルの腕を指で突こうとして弾かれていた。いや寝てるのをいい事にイタズラしたら、後で怒られても知らないわよ?



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