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忘れられた盾の勇者は護りたい  作者: たてみん
最終章:世界は勇者を求めている
123/131

123.そして勇者と魔王は出会った

 玉座には鉄仮面に黒マントを付けた魔王が座ってて野太い声で僕に語り掛けてきた。


「フハハハッ。良く来たな勇者よ!」

「……」

「どうした勇者。恐怖で声も出ないか!!」


 声と一緒に覇気を浴びせられる。うちの騎士団員くらいならそれだけで膝を突いてしまっただろう。僕は別にこれくらいなら何ともないし、声が出なかったのは別の理由だ。突然『勇者と魔王といえばこれ!』みたいな場面に出くわしてどうすれば良いのか分からなかったんだ。内装までそれっぽく投影して本格的だ。


「えっとぉ、ごっこ遊び?」

「ごっこって言わないの!……ゴホンッ。

 何を言っている勇者。突然の事に錯乱したか」


 多分自分でやっててちょっと恥ずかしいんだろうなぁ。仮面で見えないけど顔は赤くなってると思う。

 それでえっと、これは乗ってあげるべきかな。


「ついに追い詰めたぞ魔王。お前に逃げ場はない。

 僕が来たからにはもう好き勝手はさせない。

 大人しくその身を差し出せ」

「ふっ、口だけは達者だな。

 ここまで来れたその胆力は認めよう。

 どうだ、我が下僕となるなら世界の半分をくれてやっても良いぞ?」

「え、そんなのいらない」


 僕の答えにガクリとする魔王。いやだって全くいらないし。

 確かにね。僕達が力を合わせれば世界征服も不可能ではないだろうとは思うよ。本気になった僕らを止められるのは教皇の隠し持っている秘密兵器くらいだけど、逆を言えばそれくらいだ。

 だけど半分と言わず全部くれてやるって言われても、むしろその方がお断りだ。


「国の統治とか面倒だし。

 するとしても街ひとつくらいがいいよ」

「ふむ、欲のないことだ」

「欲ならあるよ」

「ほう?」


 僕の答えに今度は片眉を上げて興味津々だ。何気に感情表現豊かだね。

 僕自身は自分が欲望に忠実な人間だという自覚がある。そんな僕の今の望みは。


「今僕が欲しいのは君だ」

「へ?」

「君を幸せにしたい」

「いやちょっと待ちなさい!」

「……ん?」


 どうしたんだろう。

 魔王というかフィディがさっき以上に狼狽えてるんだけど。


「僕何か変なこと言ったかな?」

「言ったわよ。

 何よそのプロポーズみたいなセリフは!」

「え、ああ。言われてみれば。

 でも幸せにしたいっていうのは本当だよ」

「そもそもそれが変なのよ。

 どうして私が幸せじゃない前提なのかしら」


 それはもちろん。


「(フィディが)望んで魔王をやってるとは思えないもの」

「どうしてそんなことが言えるの?」

「だって僕と同じで自由気儘に飛び回ってる方が好きでしょ?

 あと魔王口調じゃ無くなってるよ」

「あ、ゴホンッ」

「何より一人で自由にやるのは好きかもだけど、独りが好きな訳ではないでしょ」


 ここに来てから僕は彼女以外に誰とも会っていない。仮にこれが魔王幹部っぽい人達もいてワイワイやってるならまだ分かるんだ。新しい居場所が出来たんだなって思う。

 だけど実際にはこの広い空間に彼女一人だけ。こんなところに居たら孤独で心を病むか刺激が無さすぎて痴呆にでもなってしまいそうだ。

 あ、痴呆になる1番の原因は老化による脳の劣化ではなく、変化の乏しい状態が長時間に渡り続くことによる脳の非活性化だと言われている。その証拠に農村で畑仕事をしている老人で痴呆になっている人はほとんど居ない。

 閑話休題。

 ともかく僕には彼女がこの状態を求めたとは考えられない。だけどだ。仮に精霊からの依頼だったとして、はい分かりましたと受けるだろうか。

 エルフと精霊は上下の関係ではないのだから嫌なら断ってもいい。特にフィディはハーフエルフなのでそのしがらみも弱いだろうし。


「どうして魔王なんてやってるの?」

「ふっ、それについては俺達が答えよう!」

「誰!?」


 突然第三者の声が響いたかと思えば、柱の影から2人の人影が現れた。僕にすら気配を悟らせないとはなかなかの手練れだな。しかも魔法で調節してるのか足元だけがライトアップされて顔は見えなくなってる。

 警戒する魔王の様子からして彼女としてもこのふたりの登場は想定外だったようだ。


「誰とは酷いな」

「え、パパ!?」

「たった20年会わないだけで私達の声を忘れるなんて、教育方針間違えたかしら」

「うそ、ママまで!!

 どうしてこんなところに居るの?」

「そりゃお前、娘があんな声明出したと知ったら心配で見に来るのは当たり前だろ」

「多少声を変えたって我が子の声を聞き間違えるなんてありえないわ。

 それにしても面白い衣装ね」


 名乗ると同時にライトアップされる2人はどうやらフィディの両親らしい。聞けばまぁ納得の理由だ。子を想う親の愛ってのは時代や種族に関係なく不変だ。このちょっと狙った感じの登場もフィディっぽい。

 ただ、驚いてるのはフィディだけではない。


(まさかリートとターク?な訳ないか。

 若過ぎるし何よりタークは女性だ)


 こっそりと驚くぼくをよそにフィディと挨拶を終えた2人がこちらを向いた。


「さて、初めましてかな。人の子よ。

 俺はラック。見て分かるかは分からんが人間とダークエルフのハーフだ」

「私はリア。聞いての通りその子の両親よ」

「僕はアルファスです。アルって呼んでください」

「「じーーっ」」


 挨拶をすると何故か僕の顔を見つめだした。何か気になるところがあったか、それとも気付かれたか。


「……うむ、まぁ合格で良いだろう」

「そうね。流石私達の娘。男を見る目があるわぁ」


 あ、そっちか。どうやら娘が悪い虫に騙されてないか見定めていただけらしい。なら先にさっきの質問に答えてもらおう。


「それで彼女が魔王を名乗った理由を知ってるんですか?」

「いや知らん!」


 ガクッ。期待させておいてこれとか。


「でも考えられることは1つしかないわね」

「そうなんですか?」

「ええ。女が命を賭ける理由なんて好きな男の為決まってるわ」


 自信満々に宣言するフィディママ。


「ちょっ、ママ!

 アルの為なんかじゃ無いわ」

「私は別に誰とは言ってないのだけど?」

「あっ」


 続いて墓穴を掘るフィディ。なるほどそうなのか。

 しかしフィディが魔王になることがどうして僕の為になるんだろう。

 じっとフィディの顔を見つめれば観念したように仮面を外しながらフィディが話し始めた。



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