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忘れられた盾の勇者は護りたい  作者: たてみん
第1章:忘れられた盾の勇者
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12.アルファス騎士団

「それでお前、ここに何しに来たんだ?」

「あれ、なんだっけ」

「おいおい」


 子供たちのリーダーらしいゴンの問いかけに首を傾げる。いや途中から彼らとの決闘ごっこが楽しくて。視察と言ってもただ市民の生活を見るだけで終わらせる必要はない。そう掘り出し物を見つけるのも視察の醍醐味なんだ。


「あ、そうか。僕は2代目盾の勇者アルファス」

「それはさっき聞いた」

「うん。だから未来のアルファス騎士団の仲間をスカウトしに来たんだ」

「「スカウトぉ?」」

「僕一人では護れるものに限界があるからね。

 だから将来一緒にみんなを護ってくれる仲間が欲しいんだ」


 5年後か10年後かはまだ分からないし、その頃の僕がどうなっているかも分からないけどね。

 ゴン達はお互いに顔を見合わせて困ったような、でもちょっぴり嬉しそうな顔をしていた。


「おいおい、俺達が騎士団だってさ。

 普通に考えれば寝ぼけてるんじゃないかって思うだけだけど」

「うん。なんかあいつが言うとほんとになりそう」

「勇者も良いけど、騎士も良いよね。カッコいい」


 コソコソと、よく聞こえる声で話してた内容は概ね好意的なようだった。

 話し合いが終わったゴン達は僕に向き直って右手を差し出してきた。


「お前の提案に乗ってやるよ」

「ありがとう。まだ先の話だけど忘れないでね」

「おう!」


 しっかりと握手を交わす僕達。

 願わくば未来でもこの手を掴めるといいな。

 と、そんな僕達のやり取りは、決闘ごっこも含めて当然周囲の大人達に見られていた。ここはスラムだ。金銭的に貧しい人が集まる場所だけど、同時に犯罪者の隠れ家にもなる。


「ようゴン。なんか楽しい事してるみたいだな」

「うっ、ゲップリ」

「ゲップリさんだろうがっ」

「がはっ」


 ふらりとやってきた見るからにカタギじゃ無さそうな男がゴンを殴り飛ばした。他の子たちも慌ててゴンの所に行きつつ怯えた目で彼を見ている。

 ゲップリと呼ばれた男は僕を舐め回すように眺めた後、腐った笑みを浮かべた。


「こりゃあ何処かの貴族のガキが迷い込んだのか」

「ま、待ってくれゲップリさん。その子は違うんだ」

「うるせぇ、黙ってろ」

「ぐっ」


 僕を庇おうとしたゴンが再び蹴られた。

 それを見て僕は何でもない風に話し掛けた。


「ねえ、おじさんは僕に用があるの?」

「おじっ!?

 ぐっ、まあそうだな。殴られたくなかったら大人しく付いてきな」

「うん分かったよ」


 従順な様子を見せれば彼だって別に暴れることはない。特に商品になりうる僕を傷付ける訳にはいかないだろう。まぁただの気晴らしで周りを攻撃することはあるかもだけど。

 僕はさっとゴンの近くに行き小さく声を掛けた。


「ゴン、庇ってくれてありがとう。

 1つ確認なんだけど彼らがこの街から居なくなっても問題ないよね?」

「そりゃあ、まぁ。

 ってだめだ。あいつに付いていったら何されるか分かんないぞ」

「大丈夫、ちゃんと分かってるから」

「おい、いつまでゴチャゴチャ話してる!」

「今いくよ」


 痺れを切らしたおじさんに応えつつ、ゴン達に軽く手を振る。


(ティーラ、子供たちをお願い)

(!?)

(グントは後を付けてきて)

(!!)


 後ろ手にハンドサインを送ってみたけど、今の時代でも通じるかな?あ、何となく伝わったっぽい。おじさんと一緒に移動する少し後ろをグントの気配が追ってきてる。

 薄暗い路地を抜け、何かが腐ったような嫌な臭いが立ち籠める小屋へとやってきた。中に入れば仲間なのだろう下卑た笑みを浮かべた男女が7人、僕たちを待っていた。

 その中のひとりが楽しげに声を上げた。


「よおゲップリ。なんかいい拾い物をしたらしいな」

「まあな。見てみろこのガキを。きっと何処かの貴族のガキだぜ。

 身代金を要求するもよし、助けたフリをして謝礼金を受け取るもよし、なんなら奇麗な身なりだし奴隷商人に売っても良い値になるだろう」


 僕が聞いてるのもお構いなしで今後の事を話し合っている。まぁ、それも仕方ない。何故ならこの時僕はずっと手に持っていたなべのフタを眺めてニコニコしていたから。

 ってこんな言い方すると頭可笑しい子だね。実際それが狙いなのだけど。

 くんくんと臭いを嗅ぎながら僕は呟く。


「5、10、15足らずと言ったところかな」

「あん?何言ってやがる」

「ていうかこの子さっきから鍋の蓋持ってニヤニヤしてるんだけど大丈夫なの?

 普通私達を見たら驚いたり怯えたりするでしょう」

「まあのこのこゲップリに付いてきたし、おつむの方はちょっと弱いのかもな。

 ま、俺達には関係ないだろ」

「そうね」


 少し待ってみたけど追加で誰かが来る様子もない。なら良いかな。急がないとグントが暴走してしまいそうだし。

 僕はなべのフタから視線を離し、彼らのリーダーらしき人を見据えた。


「おじさん達は全員で9人で合ってる?」

「はん、どうやら数も数えられないと見える。

 俺達は8人しか居ないだろ」

「ええ、でもほら。

 1、2、3……8、9。

 ほらやっぱり9人」

「「はぁっ!?」」


 順番に指差していき9人目のグントに辿り着いた所で8人の視線がグントに集中した。

 全員の意識が僕から逸れた瞬間、僕の右手からなべのフタが消えた。そして誰もが動く前にリーダーの顔面に文字通り突き刺さっていた。


「ガッ」

「「リーダー!?」」

「あ、これで9引く1で8人だね」


 ゆっくりと地面に倒れる姿に驚く彼らに冷たい視線を送りながら、1引いた張本人の僕は誰にも止められる事なく出口へと移動する。そして。


「グント、後を任せても良い?」

「はっ。おまかせを」


 短く応えた直後、グントの近くに居た3人が崩れ落ちた。それだけ見届けて静かに外へ出た僕は来た道を戻り、心配になって近くまで様子を見に来てくれたゴン達にお礼を言って、ティーラと共に戻った。

 後からの報告でグントも僕らから遅れること1時間程で帰ってきたらしい。もちろん無傷で。




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