112.閑話~世界は求めている~
今回は視点がバラバラで読みにくいかと思いますm(_ _)m
~~ ?? Side ~~
人類が力を合わせて共存する為には単純に生存が困難な状況を創るだけでは足りない。それでは残り少ないリソースを求めて戦争が起きるだけだ。大切なのはシンボル。そう世界共通の敵が居て初めて人類は手を取り合える。
200年以上前。その時のシンボルが邪神龍だった。生きる天災とまで言われたかの存在があったせいで人類は衰退の一途を辿っていたが、逆に団結を促し手を取り合って生きて行く事にも繋がっていた。
だけどその邪神龍は6英雄によって倒されてしまった。まあ実際には6英雄は何もしてなくて忘れられた最後の1人、盾の勇者が倒したのだけど。
それ自体は特に問題ではない。生者必滅、生きている者は必ずいつかは死ぬものだ。だから邪神龍が死んだことは早い遅いの違いがあるだけでいつかは起こった事。問題はそれを成し遂げた盾の勇者も一緒に死んでしまった事だ。
『この世界を頼んだぞ』
そう告げられた彼は、しかしこの世を去ってしまった。本来なら彼が邪神龍の後を継ぎ世界を何らかの形で管理していくはずだったのに。
その為そこからの200年は平穏で退廃的な期間となった。恐らくもう1000年ほどこのまま時が過ぎれば堰き止められた池のごとく淀んで腐り果ててしまうだろう。
だから世界は求めた。救世主の存在を。この世界に混沌を齎す存在を。
『この世界を……』
その呼びかけに最初に反応したのは混沌そのもの、人が魔物と呼ぶ存在だった。邪神龍亡き後衰退の一途を辿っていた彼らもまた新たな王を求めていた。本能的にしか動けない彼らは王という方向性を示す存在があってこそ意志を持って動く事が出来る。だから自分たちを導く王を探していた。
その反応を目ざとく見つけたのが結社だった。
「この世界は腐っている。邪神龍を復活させ浄化の炎で焼き尽くさねばならない!」
魔物の元となる瘴気を研究することで魔物を強化、支配する方法を見つけ出し、偶然か必然か邪神龍の鱗の欠片を遺跡から掘り当てた結社は邪神龍復活に向けて活動を加速させた。
そうして世界が求める救世主の存在と、魔物の求める王の存在と、結社が求める願いが縺れ絡まり破滅の歯車は動き出した。
しかし世界にはそれらとは別に世界を見守る存在達が居た。
残念なことに世界に影響力を持たない彼らは見守ることしか出来なかったが、故にそれらよりも早くとある存在がこの世界に誕生したことを察知した。
『邪神龍はこれを見越していたのか』
『あれは輪廻の理を宿す者であったのか』
『かの者であればきっと』
だけどそんな彼らもまた、意思が統一されてはいなかった。
全体では確かに世界の平和をと願っていた。その為には彼こそが適任であると考えた。しかし同時に彼を犠牲にしたくはないと考えるものも居た。
『どうかあの方を頼みます。あの方に幸せを』
その願いの運搬は彼と縁を結ぶ者が選ばれた。彼の血を引くライトエルフとダークエルフの間に生まれた少女。彼女もまた、自分の血のルーツを調べていた。ならば彼女の為にもなるだろう。
その彼女は抽象的過ぎる内容にため息をつきながらも行動を開始した。世界の破滅が近づく中、たった1人の人物を幸せにして欲しいそうだ。
彼女からしたら大いなる存在がそんな願いを口にするのは異例も異例。一体その人物が何をしたものだと言うのか。その問いかけに返って来た言葉は1つ。
『私の子の命の恩人なのです』
その存在に親子という概念があったことも驚きだし、その恩人になるにはどうすれば良いかと聞かれれば国の1つや2つ救ってみせるくらいの事をする必要があると思う。そんな功績を挙げた偉人が居るなどと聞いたことも無い。歴史を遡っても邪神龍を討伐した勇者くらいしか思い当たらないが、その勇者で今も生きている者などいない。
砂漠で砂金を探す様な話ではあったが、それでも数年の歳月を掛けて偉人ではないが奇妙な人物に巡り合う事は出来た。
『あなた何者なの!?』
『え、ただの普通の人間の男の子?』
初めて会った時に問いかけた答えを聞いた瞬間、絶対に普通じゃないでしょうと思った。だからついて行ってみようと思った。
結果、やっぱりどこも普通じゃない男の子だって事がはっきり分かって、同時に一緒に居ると居心地が良い事もわかった。
この時間がずっと続けばいいのに。いつしか依頼は後回しでもいいかな、なんて考えるようになってしまった。
しかしそんな平穏な時間は終わりを迎えようとしていた。
『世界に瘴気が満ちている。このままでは』
『やはり管理できるものが必要だ。あの者を呼ぶしかあるまい』
『幸い器の成長は間に合いそうだ』
年々増加し続ける瘴気と魔物、そして邪神龍復活を企む者たちの研究も最終段階へと突入していた。これ以上のんびりしていては取り返しがつかなくなるかもしれない。
とは言っても彼らではかの者に直接働きかけることも出来ない。結果として先の少女が伝令役として選ばれることになった。しかし。
「私はあなた方の操り人形ではありませんので」
そう言った彼女は彼らの依頼を蹴り飛ばした。それと同時に考える。たとえ自分が彼らの依頼を断っても、別の誰かが動くだけかもしれない。そうなったら根はお人好しな彼のことだ。自分の苦労など無視して引き受けてしまうかもしれない。
「そうはさせないわ」
そして少女は決断した。たとえ自分を犠牲にして世界の敵になっても彼の幸せは護ることを。




