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忘れられた盾の勇者は護りたい  作者: たてみん
第1章:忘れられた盾の勇者
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11.スラム街の決闘

 市場の視察を終えた、というかリンゴを食べ終えた僕達は次の場所に向かうことにした。


「アル様、次はどちらに向かわれますか?」

「西区、もっと言うと南西地区かな」

「それは……東地区の方がお勧めなのですが」


 僕の返答にグントが渋い顔をする。どうやら西側にはあまり僕を行かせたくないらしい。護衛兼案内役のグントがこう言うのだから僕の予想は当たったみたいだ。


「それは南西地区がスラム街だから?」

「っ!? ご、ご存知でしたか」


 いや知ってた訳じゃないけどね。

 この街の周囲の事を聞いてそうじゃないかと思ってた。北と東は自国。対して南は他国で西はゴブリン王国だ。なら必然的に外敵から襲われるのは南か西。住む場所を選べるなら少しでも安全な所が良いと思うのは当たり前の事だ。

 領館は中央北側にあった。市場は南側。なら裕福層は東側に集中するし、結果的に空いた西側が貧困層であったり冒険者や行商人などが泊まる宿が集まる。多分、夜のお店なんかも西側にあるんだろう。僕には縁遠いけど。


「『その国のことを知りたければ弱者を見よ』

 って、以前本で読んだからね」


 弱者。つまり老人や子供、そしてスラムだ。

 僕はティーラとグントには少し離れた所から見守るように、なんとかお願いしてスラムの中へと入っていった。スラムと言っても日中から酔っ払いがたむろしてることもなく、死体が転がってる事もない。言ってしまえばちょっと寂れた区画って感じだ。


「行くぞー、こっちだこっちー」

「待ってよ〜」


 わーわーきゃーきゃーと子供たちが遊ぶ声が聞こえてきた。声の方に行けば僕より少し年上くらいの子供たちが木の枝を振り回しながら遊んでいた。


「やぁやぁわれこそは剣のゆうしゃだ!」

「俺は槍のゆうしゃ!」

「つ、ツチのゆうしゃ。ってなんで土なんだろ?」


 そんな感じで名乗りを上げている。つまり勇者ごっこだね。あと土じゃなくて槌の勇者だよ。

 彼らの方へと歩いていけば向こうもすぐに僕に気が付いた。


「ん?なんだお前。見かけない奴だな!」


 スラムっていうのは他よりも厳しい環境だからこそ縄張り意識は高い。当然縄張りの中は顔見知りばかりなので余所者はひと目で分かる。


「誰だお前。何しに来たんだ?悪いことたくらんでるなら俺達が叩き出してやるからな!」


 そう凄んでくる少年の問い掛けには答えず、逆に質問を返してみた。


「ねぇ、盾の勇者は居ないの?」

「はぁ?馬鹿かお前。盾の勇者なんて居ないんだよ」


 どうやら200年前の伝説はここの子供たちにも伝わっているらしい。でもここに居るのは頭の固い大人ではなく自由な発想の出来る子供なのだから少し羽目を外しても良いだろう。


「なら僕がなってもいいよね」

「あん?」

「さっきの答え。

 僕は2代目盾の勇者、アルファスだよ」


 胸を張ってそう言えば、子供たちからはしかし爆笑が返ってきた。


「だはははっ。やっぱこいつ馬鹿だ。

 盾なんて敵を倒すことも出来ないゴミだろ。

 ならお前もゴミ勇者ってことか」

「や〜いゴミ勇者〜」

「ムッ!」


 子供でも言って良いことと悪いことがある。

 盾の王国で盾を馬鹿にするなんて。なにより盾をゴミ呼ばわりなんて許せない。

 ここはシッカリと教育してあげなくては。


「盾は無敵なんだよ!どんな敵の攻撃だって防いで大切な人達を護ることが出来るんだから」

「へんっ、それだって敵を倒す剣士に比べたらザコだろ」

「そんなことない。真の盾使いは強大な魔物相手でも一歩も下がらず撃退するんだよ」

「ふ~ん。なら証拠を見せてみろよ」

「証拠?」

「俺とお前で勝負だ。まさか逃げるとは言わないよな?」

「っ、良いだろう」


 安い挑発といえばその通りだ。でもだからこそ乗る価値がある。

 ふと道の脇を見れば良いものが落ちていた。僕はそれを拾って取手を持って子供たちに見せつける。


「僕の武器はこれだ。文句ないよね!」

「「はぁっ!?」」


 僕の渾身のドヤ顔に対して呆れたような怪訝な顔で見返された。おかしいな。『おなべのフタ』は盾使いの子供の最初の武器として有名なはずだけど。

 なぜか少し離れた後ろから「あちゃあ〜」と声が聞こえてきた気もする。謎だ。


「ま、まぁお前がそれでいいなら良いや。

 だけど手加減なんてしてやらないから覚悟しろ」

「そっちこそ怪我しないでね」

「ふんっ、行くぞ。でりゃ〜〜!」

ガツッ

「いってぇ〜」


 大振りで振り下ろされた少年の木の枝は、僕の横をすり抜けて硬い地面を叩いた。

 僕は目の前に来た無防備な頭をおなべのフタでコツンと叩く。


「あいたっ」

「僕の勝ち?」

「まだまだぁ!」


 ヤケクソ気味に振り回される木の枝を避けて、再び大きく振り上げた所で今度は一歩前に出て顔の前にフタを突き出せば、その圧力で少年は尻餅をついた。


「うそだろ、ゴン兄が負けてる」

「なんなんだ、あの子」


 体格が圧倒的に劣っているはずの僕が優勢なのを見て周りの子達は驚きを隠せないようだ。

 ただ、勝ち過ぎは良くないよね。このままだとこのゴンと呼ばれた少年の株が下がってしまう。


「よし、他の皆も掛かってきて良いよ。

 纏めて相手してあげる」

「いったな、こいつ。調子に乗りやがって」

「みんなやっちゃえ!」


 それぞれに手にした木の枝とかを振り回して襲い掛かってくるのを僕は難なく捌いていく。特に訓練を受けた訳でもない子供が何人増えても怖くはない。むしろ同士討ちをさせないように気を付けないと。

 そうして30分もすれば、目の前には死屍累々。あ、いや別に死んではいないんだけどね。ともかく体力切れで皆へばっている。対する僕は何ともないんだから実力差は歴然だ。


「う、ウソだろ。息1つ乱してないなんて」

「くっ、こいつバケモノか」

「違うよ。僕は盾の勇者。

 盾を極めればこれくらい簡単なんだ」


 体力という意味では僕の方が圧倒的に少ないはずだけど力任せに動く彼らと自然体で最小限の動きで捌いた僕では運動量も全然違う。

 これこそが護りの極意。相手よりも体力や魔力の消費を抑えて何倍もの敵を撃退するんだ。


「どう?少しは盾の凄さが分かってくれた?」

「あ、ああ。少なくともお前がすごいのは分かった。

 盾をバカにして悪かったよ」


 戦い終って仲直り。なんか当初の目的からは逸れたけど、これはこれで良かったよね。



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