第96話 魔眼持ちのエルフ
俺はルシナ達に気持ちを伝えることにした。ただし転生などについては隠す必要がある。
「ルシナ……あのね。正直に言いたいんだけど、色々あってね。だから魔獣の森で修行しているんだ。今は言えないとこが多い」
「……そう。言いたくないんだね?」
「うん、言いたくない。でも君たちの敵じゃないよ」
「……わかった。ボクも詮索するようで悪かったよ。これ以上は聞かないよ」
あら……意外と素直……。
「それでいいの?ルシナ」
ゼナが無表情にルシナに問いかけている。
「うん。ヤマト君は精霊誓いにも応えてくれたしね。敵じゃないのは判っていたよ。これ以上はボクとヤマト君との信頼関係にも亀裂が入ってしまう。これ以上は詮索しないことにするよ」
ゼナは頷く。
「私も詮索しない……」
「ありがとう、ルシナ。ゼナ。助かるよ」
ゼナはルシナに向き直り、事が終わったことを確認する。
「すべて終わった、ルシナ。私の用事が終わったなら、ブルーサファイアへ帰る」
ゼナは、ルシナのコートをクイクイと引っ張っている。仕草が可愛い……。
「ゼナちゃん?もう帰ってしまうの?」
俺は思わず声をかけてしまった。
すると、ゼナは少し意外そうな声を上げた。
「私のような真理眼持ちが近くにいると落ち着かない。皆そう言う」
「あはは、そんなことないよ。俺は魔眼とか憧れがあるよ。かっこいいと思う」
「!?」
ゼナは、見た目に動揺していた。ルシナも驚愕している。
「ゼ、ゼナが動揺している……」
「え?動揺しているのが珍しいの?」
「そ、そうよ。ゼナはエルフの中でも感情を見せないエルフで有名なんだから」
「そ、そうなのか」
すると、ゼナが俺のことを見つめている。
ジー……。
「あなた……本当に良い人」
「そう?」
「少なくとも私はそう思う」
「私の職は、3等級真理官。このまま国に帰って報告しようとしていたけど、それをすると今度は軍を差し向けてくる可能性がある」
「ぐ、軍っすか」
「魔法と魔獣のスキルを使っているのは、精霊誓いをしていたとしても異様。間違いない」
「困るな……。そりゃあ」
「でも貴方の存在は異様。私も何とかしてあげたい」
た、確かにエルフの軍の人なんかルシナで十分である。森で平穏に過ごさせてほしい……つーか、森にいること自体過酷なんだから……。
ゼナが無表情に片眉を上げる。
「私、あなたに強く興味がある。お願い。少しだけあなたのことを教えて」
「……俺のこと?」
「うん。なんでもいい。あなたがそんな力を持っている理由がわかるものなら何でも。そうじゃないと、味方になれない」
ゼナは真剣な顔で俺に訴えている。何か俺が隠しごとをしているのを勘付いているのだろう……。
「……」
俺は悩んだ。
転生というキーワードは教えてはならない。それは女神と約束したことだからだ。それにつながる半神というのもNGだ。となると、俺の種族くらいはいいんじゃないのか? それは別に女神に言うなと約束していない。
「そうか……じゃあ。一つだけ教えるよ。俺は……俺とリリスは龍人族の生き残りだよ」
俺はハッキリとそう言った。
「!?」
「りゅ、龍人!!????」
ゼナはともかく、ルシナは口をこれでもかと大きく開けて驚いている。
(ルシナさんや……そんなに口を大きく開けてはいけませんよ)
ルシナは動揺を隠せないようだ。無言になってしまった。龍人族とは、滅亡した伝説の種族だ。それの生き残りと言われて信じたくても、にわかには信じられないのだろう。
ゼナと俺の 問答は続く……
「その龍人族の生き残りが、魔獣の森で何をしているの?」
「うん。今時点では強くなるために修行しているんだ」
これは嘘ではない。
「修行……何のために?」
「俺は魔人に襲われやすいんだ。それを撃退するために……」
ゼナは眼をぱちくりとした。
「魔人。あの魔界の住人の?」
「そう、あの魔人」
「そんなバカな。魔人は地上界に滅多に降りてこない」
「そんなことないよ?この前も襲われたし……」
「!」
あっけらかんという俺の表情をゼナはマジマジと見つめてくる。ルシナに至っては驚き過ぎて口をパクパクしている。
俺は二人の反応に戸惑った。
ゼナが表情を整えて返答する。
「あなた……凄いことを言っているのに深刻そうじゃない。でも嘘を言っていない……」
確かに俺の境遇は、大変なものだろう。しかし、不思議と悲観的ではない。前の人生が悲惨だったせいか……、それともリリスが横にいてくれているせいか……。おそらく両方だろう。
「そうだね、リリスが居てくれているからね」
そういうと、リリスは意外そうな顔を俺に向けた。その顔を嬉しそうだ。
「…………」
ルシナがフリーズから解放された。
「リリスさん。あなたはヤマトの何なの?」
「何とはなんじゃ?」
「肉親……というわけでもなさそうだし。どういう関係なのかなって」
「ち、違うわい!ワシはヤマトの魔法師匠じゃ!」
「そう……、なら脈あり」
ゼナが妙なことを口走ったので、俺は聞きとがめる。
「脈あり?なんの?」
「こちらの話……」
「そ、そう?」
「もしかして、私があなた達の心を読めないのは、あなた達が龍人だから?」
するとリリスが答えた。
「そりゃそうじゃ、龍人族は最高位種族じゃ。簡単には読めん」
「そうなの……はじめて知った。それと……」
まだ質問を続けようとするゼナをみて、ルシナがゼナを止めに入る。
「ゼナ。これ以上は聞きすぎかも……。彼らは味方だよ」
ゼナは、小さい顔をルシナに向けて頷く
「たしかに。どうしたんだろう。彼に興味が尽きない……それに彼らが敵ではないことは最初から分かっていたのに」
何かブツブツと呟きだしたゼナ。
すると、ルシナは苦笑いを浮かべた。
「まったく、ゼナがこんなに人に興味を持つなんて珍しいよ……」
ゼナは決心したような顔をしていた。
「ルシナ……帰ろう。エルフ王も報告を求めている。ルシナの口からも説明してほしい」
「エルフ王に!?いやだよ、ボクはお偉いさんの前だと緊張して口が回らなくなる」
「私のほうが苦手。さぁ。一緒に帰ろう」
グイグイとルシナを引っ張るゼナ。 どうやら、このまま帰るようだ。
「あ、やっぱり行ってしまうんだ。またね、ゼナちゃん。ルシナ」
俺は少しだけ寂しい気持ちがしたので、純粋にそういった。
すると、ゼナは振り返り一言告げた。
「おそらく、またすぐに会うことになる。私……あなたのことを気に入った」
「え?!」
俺が聞き返そうとしたときには、すでにゼナとルシナはずんずん先に進んでしまっていた。
「な、なんだったんだろう……」
「まぁ、魔眼持ちのエルフの娘に好かれたということでいいんじゃないのか?」
リリスがチャカすようにそう告げる。
「そう……なのか?」
「ハイエルフの娘にも好かれておったようじゃし、オヌシはエルフに好かれやすいのかも知れぬのぅ」
どうも魔眼持ちのエルフに好かれたようでした……




