第95話 伝えること
「ゼナが嫌われる?どういうことだ?リリス?」
「そりゃそうじゃろう。相手からすると読まれるのは嫌じゃろうし、それが権力者であればあるほど忌み嫌われる」
(たしかに権力者とかって交渉するのにある程度の嘘も必要そうだもんな)
ルシナが同調するように語りはじめた。
「そうなんだ。真理眼を持つ子はゼナとゼナの姉二人いたんだけど、姉のほうは自殺してしまったの……」
「じ、自殺……」
「うん。他のエルフから迫害にあってね。それで……」
すると、ゼナが口を開く。
「姉は心が弱かった。私とは違う……」
「そうね、ゼナとは全然違う子だったものね」
「そうか……。心が読めるってことは良いことだけじゃないんだね」
(姉を失ったこのエルフの子は、どれほど傷ついているんだろう)
俺はゼナという子の、背負った宿命に同情を禁じ得なかった。
「それで?真理眼でワシらを見た結果、読み取れなかったじゃろう?」
ゼナは、コクリと頷く。
「うん……こんなこと初めて。でも、貴方たちの魂は綺麗……とても純粋なものを感じる」
「俺はともかく、リリスも純粋って……」
「どういう意味じゃ!」
「いや。お前結構えげつな……」
それを見ていたゼナの口もとが緩んだ。
「ゼナ……!?笑った!?」
「……」
すぐに元の表情に戻るゼナ。ルシナは驚いている。
そんな驚くことか?
「そりゃ、笑ったりもするだろう?」
「何言ってるのヤマト?ゼナは、姉が死んでから一度も笑っていなかったんだよ」
「え?そうなの?」
無表情なゼナ。顔をみると確かに感情を読み取りにくい……。
俺はルシナに向き直り、質問をした。
「でも、ルシナ。何故ゼナを連れてきたんだ?」
「え…………?」
ルシナはポカンとしてフリーズしていたが、思い出したような顔をした。
(ルシナ……ちょっと天然?)
「……そうそう!少年!ボク昨日みたんだよ、君……クローベアー二匹をあっさり倒してたでしょ」
「あ、見てたの?」
「見てたの?じゃないよ。しかも、2属性の魔法使って倒してたでしょ?!」
「魔法?ああ、火魔法は使って倒したかな?」
「いーや、その前に風魔法でクローベアーを引き裂いていたよね?少年!君は2属性なの!?」
「ああ……ゲールクロー『疾風爪』のことか……あれはスキルだよ」
「疾風爪!?それってクローベアーのスキルじゃない!嘘いいなさいな」
「嘘じゃないって。ほら」
俺は、ゼナやルシナ達から背を向けると、遠くの木に向かって疾風爪を発射した。
「ゲールクロー『疾風爪』!!」
ズア!!!
光る爪が発生し、目の前に飛んでいく。
「!!」
「!!」
仰天するルシナとゼナ。
そして、木に激突すると細い木だったせいか、なぎ倒してしまった。
バキバキ……ズズゥーン……
「な……な……」
「すごい……」
呆気に取られる二人。ルシナはエルフにあるまじき顔をしていて笑える。
俺は二人に笑顔で話しかける。
「ね?出来るでしょ?」
「……でしょ?じゃないよ少年!!一体何者なのよー!?」
森にルシナの叫び声がこだました。
エルフって感情があまり無いんじゃなかったのかよ…………。
オステリアが、エルフは感情起伏がない種族だって言ってたけど、全然違う……。ルシナは見ていて面白いエルフだ。美人なのにね……。
「こ、興奮するなよルシナ。俺の何が知りたいんだ?ゼナまで呼んだのはそういうこと?」
「そうだよ。ボクは森の警備も兼ねているんだ。ゼナを呼んだのも、君の正体を知るためだよ」
むちゃくちゃストレートに事実を告げるルシナ。このエルフは、これでも軍の斥候部隊なんだろうか……心配になる。
「俺の正体……」
俺は胸を隠すような仕草をする。
「その動作に何の意味があるんじゃ。ヤマト」
「いや……特に」
「ないんかい」
「で、でもさ。ルシナ?誓いをしたじゃん?今さら何を?」
すると、ルシナが苦笑いした。
「確かに精霊誓いで問題ないとは思っているけど……。10歳前にして魔法も使える少年……。人族じゃないのはハッキリしているんだけど。一体 君は何者なの?」
(どうやら、疑っているというより。興味があるみたいな感じだな……)
「……」
俺は正直に答えようか迷った。スキルを操れるのは捕食のせいだし、俺が魔法を使えるのも特殊な生まれのせい……つまり半神だと言っても信じてくれるのだろうか?
(信じるわけあるまい……それに半神とか言ったらオステリアが殺しにくるぞ……やめておいたほうがいいじゃろう)
リリスがテレパシーでツッコミを入れてきた。さらっと恐ろしいことを言うな、こいつ。たしかにオステリアが黙っていない気がする……。
(リリス。どうしよう)
(まぁ、はぐらかすしかないじゃろう)
(はぐらかす……できるのかな)
(まぁ、オヌシなりに気持ちを伝えることじゃ)
(わかった……)
俺は言葉を選びながら自分の気持ちを伝えることにした。




