第89話 誓い完了
精霊と会話する俺に、仰天するルシナとリリスであったが、儀式は続行中……。
エルフは指を交差させたものを胸の前においた。
「了解してくれてありがとう。それでは誓いの儀式を始めるよ?」
どうも、この指を交差させたポーズは人族で言うお辞儀のようなものらしい。なんか美しいポーズだ。
「は、はい……」
俺がチラリと目を横にやると、とルシナの問答を、透明な「何か」はじっと見つめている。その様子が気味が悪くて仕方ない……。早く終えてくれ……。これ、本当に精霊なの? こえーよ。
「ヤマト君。リリスさん。ボクがこれから質問することに正直に答えると誓いを立てて」
「……はい、誓います」
「誓うのじゃ」
すると、ルシアはにこりと笑うと質問をはじめた。
「君たちはエルフの敵でないと誓えますか?」
「……はい、誓います」
「誓うのじゃ」
「エルフの秘密を誰にも漏らさないと誓えますか?」
「……はい、誓います」
「誓うのじゃ」
「はい……終了です」
「これだけ?」
「うん。ボクが知りたいことはこれだけだ。十分だよ」
そういうと、ルシナは片腕を上げた。
シュン……
魔法陣が跡形もなく消え、そして透明な「何か」はゆらりと揺れると霧散していった。
「き、消えた……」
ルシナは、先ほどまでの尖った雰囲気から一変して、柔らかい雰囲気になった。
「ありがとう。これで安心して喋れるよボク」
「そこまでしないと信用できないものなのか?」
俺は少し不満を漏らした。
「人族は信用できない」
「あらま……はっきりとまぁ……」
俺は人間不信なエルフに呆れた。まぁ、いいけどね。誓いが終わったからもう信用できるでしょ?
「ごめんね。人族には過去に何度も騙されているから……」
ルシナは本当に申し訳ないような顔をして謝ってきた。おとぎ話に出てくるような美人に謝られると、一気に怒りが覚めてくる。我ながらチョロいもんだ。美人は正義だ。仕方ない……。
「わかった。いろいろ過去にあったんだね。もう信用できるでしょ?僕らは誓いをしたわけだから」
「うん。信用できる。ありがとう」
「さて……どうしよう。俺たちは、ここで魔法の修行をしているんだけど。ルシナは何をしに?」
「うん。ボクの今回の任務は、魔獣の森の山火事の調査さ」
「山火事……」
それって……
「そうそう。人族の砦が北にあるんだけど、その周辺で火事と爆発が起きたようなんだ。何か知らな……」
「知りません」
被せるように、いきなり嘘をつく俺でした。
いきなり嘘をつく俺……。
「な、なんか回答が早かったけど、本当に知らな……」
「知りません!これっぽっちも知りません!」
俺がかなり必死に答えるので、ルシナもそれ以上突っ込んで聞けないかった。
(あ、怪しい……あきらかに怪しい……)
しかし、不思議と悪意を感じないので、どうしたものかとルシナが悩んでいると、リリスが助け船を出す。
「話は変わるが……。エルフの国は南へ数千キロはあるぞ。山火事がよく分かったのぅ」
「うん。実はブルーサファイア王国と、この魔獣の森は転移陣でつながっているんだ。異変があればすぐに報告があるようになっている」
「転移陣……」
すると、リリスが教えてくれた。
「魔法陣の一種での、とある場所と場所を異空間でつなげる技術じゃ」
「そ、そんなものがあるのか?」
「ワシの時代にはロストテクノロジー化していたがのぅ……エルフは発展しているのぅ」
リリスが感心したような声をあげると、ルシナは笑いながら答えた。
「エルフにもそんな技術ないよ」
「でもさっき、転移陣って言っておったじゃろうが……」
「はるか数千年前に、えらいエルフのご先祖様がここに転移陣を作ったんだ」
「まさにロストテクノロジーを使っているんじゃな」
「うん。転移陣の研究は進めてはいるんだけどね」
「へぇ……それでルシナさん……は、ここに偵察に?」
「ルシナでいいよ。君達は信用できそうだし」
「そうだぜ。俺達は悪い奴じゃない」
「君は本当に面白い子だね。ボクのことは怖くないの?」
「怖い?全然?」
「あはは、見ればわかるよ。ものすごくリラックスしてるもんね。ヤマト……君」
「ヤマトでいいよ」
「ワシもリリスでいいぞ」
「わかった。ヤマト。リリス」
なんだか一気に柔らかい雰囲気になるのだった。
ルシナと打ち解けた俺達。会話は続く。
「ところで、こんな森で何をしているの?人族がいるのは危険だよ。この森は……強い魔物でいっぱいなんだ」
ルシナは俺とリリスのことを人族と思っているようだ。あえて否定はしない、龍人と伝えても疑いが再燃するだけだ。
一瞬、さっきの精霊誓いのことが頭をよぎったが誓ったのは
■エルフの敵ではないこと
■エルフの秘密をもらさないこと
この2点だ。だから問題ない範囲で答えよう。
「俺とリリスは魔法の修行に来ているんだ」
まるっきり嘘をついているわけではない。ここで魔法の修行をしているのは本当の話だ。
「こんな森で?」
ルシナは頭を傾げて不思議そうな顔をした。
「うん。ちょっと事情があって人族の領土内に居れないんだ」
魔人がやってくるから、とは言えない……。
「事情を聞いても?まさか犯罪人とかじゃないよね?」
「まさか!ちょっと事情があって……、言わなきゃだめかな?」
「いいや……人にはそれぞれ事情がある。無理に言う必要はないよ」
なんだか、一気に話がわかる人になったルシナ。




