第87話 何かいる……
ルシナというエルフが、まるで舞うように魔法陣を空中に描いている。
シュン!シュバ!
実際、美しいエルフが舞っているのを見ていると、目を奪われる。流れる金色の髪が神秘的だ。
「エルフって綺麗だよな。リリス」
「うむ。エルフは美形が多いが。あのエルフは特に美形なようじゃの。興味ないが……」
実際、美形かどうかはリリス的にどうでも良いようだ。俺の前世がブサイクと告げたときも、あまり興味がなさそうだった。
シュバ!
ルシナの魔法陣が完成しようとしている。器用に魔力で線を引いている。それは空中に描いているが、やがて地面に平行に降りていった。見ていて、とても面白い。まるでCGを見ているようだ。
「魔法陣が完成しそうだ……すごい面白いな」
「うむ。この魔法陣に立ち会い人を呼ぶんじゃ、それの前で誓いを立てるんじゃ」
「立ち合い人?」
人って誰かくるの?召喚でもされるのか?
「ふむ……立ち会い人とは精霊。この魔法陣の中に誓いを立て合う二人を立たせ、その中で誓った言葉は絶対になるんじゃ」
「「人」じゃねーじゃん。「精霊が立ち会う」?そんなバカな……」
精霊なんて見たこともない俺にはまるで言っている意味が分からなかった。精霊って概念的なものじゃないの? それが立ち会うとか、ちょっと想像がつかない。
「疑っているようじゃの。それが出来るんじゃ。エルフはこの術式は大得意じゃ」
「すごいな……これは魔法なのか?リリス?」
「いや、魔法ではない。これは術式と言われる分野じゃ。魔法陣学の一つでもある」
「術式……」
「魔法陣を使った魔法のことを、術式という……と覚えておけ」
ふと、俺のステータスに「はじまりの精霊」というものがあったのを俺は思い出した。何気なくリリスに尋ねてみる。
「俺にも出来るのかな。それ使えば、なんか色々便利そうだな」
「無理じゃ。各種族の中でも、エルフしか使えん術式じゃ」
きっぱりと宣言するリリス。そうなん?血筋とか関係あるのかね?
「リリスでも?」
「そうじゃ。ワシでも精霊誓いは行うことは出来ん」
「リリスでも出来ないことあったんだな」
魔法系は万能なようなイメージがあったんだが……。
「ふははは……あたり前じゃ。ワシには出来ないことだらけじゃよ」
リリスはそういうと楽しそうに笑った。俺が「万能」と思っていたところを愉快に思ったらしい。
そんな会話を他所に、ルシナは魔力を高めているようだ。何やら呪文のようなものを詠唱している。
「############!####!」
通常の詠唱とは異なり、厳かなものを感じる。なんだか不気味だ。
「本当に精霊が現れるのか?何かこわいな……」
「いま、精霊が現れる。見ておれば判るのじゃ」
俺は急に心配になってきた……。なんか怖い……。
「リリス……なんか変な感じだな」
「降霊術なども同じ雰囲気じゃがな……」
「高齢術?お年寄りの術なんかあるのか?」
「そんな術あるかい!!降霊術じゃ」
なるほど……降霊ね……。
「ちなみに誓いとやらをもし破ったら?」
「立ち会い人に……精霊に殺されるじゃろうな」
「こ、殺されちゃうの?精霊って怖いな」
「ああ、誓いは絶対じゃ」
それって、精霊なんじゃなくて悪霊なんじゃねーの?と俺は思ったが、エルフの手前何も言わずにおいた。
「めっちゃ怖いじゃん……」
「なに、誓えないものは誓わなければいいだけじゃ。あまり怖れるでない。わりとメジャーな儀式じゃよ」
(そんな怖い儀式がメジャーって、違和感しかないんですけど……)
俺はあからさまに嫌そうな顔をして、エルフ……ルシナのほうへ顔を向ける。すでに詠唱は終盤のようだ。
「そろそろのようじゃな……」
ルシナは目を閉じて、両手を胸の前で組んで祈るようなポーズをしている。その姿が神々しくて、俺は目を離せなかった。
やがて、ルシナは俺にもわかるこの世界の言葉で、精霊を呼び出しはじめた。
「我、ウールー族の末裔ルシナの名において誓いの儀式を行う、願わくば風の精霊エアリアルの眷属、もしくは木の精霊ラクーンの眷属よ。立ち合い、誓いを見届けよ」
(ウールー族?ルシナってウールー族なんだ……)
(エルフ族の中にも、いくつもの族長がいるからのぅ)
ブア!!!
周囲に風が巻き起こり、俺は驚いた。一瞬目を閉じてしまった。
「うわ!つむじ風!?」
目をすぐに開けると、そこには透明な何かが立っていた。人の形のような……まるで水人形のような「何か」がこちらを見つめているのだ。
(な、何かいる!!?)
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