第72話 捕食者
「ちょ、ちょっと待て。簡単に言ってくれ。頭が追いつかない」
「うむ。つまり……何のリスクなしにオヌシはスキルを吸収したことになる。普通は何か代償を払う。そういうことじゃ」
「いや、すげー痛かったぞ……」
「そんなものじゃないわい。代償スキルを発動すると、寿命が削れたり、視力を失ったりする」
「そ、そうなんか……、たしかに結果的に俺が失ったものは何もない」
「魔獣の命以外はな……メッセージにあったが、魔物コアが対象なのかもしれん」
「どういうこと?」
「つまり、捕食できる相手は魔物限定なのかも知れん……それにしてもとんでもない結果じゃ」
「そ、それってすごいことだよな?」
「異常じゃ。スキルは先天的に身につけているか、厳しい訓練を得て偶然的に得るものじゃ、それを奪うなどと……」
「どうした?リリス?」
そこまで言って、リリスはハッとした表情に変わった。顎に手を当てて考えるような仕草をしている。
「……まさかカリアースも?」
シーン……
リリスは、その後黙り込んでしまった。カリアースも捕食持ちではないかとリリスは思い至ったらしい。
俺としては、空腹がなくなったので大満足だ。ただ、あの激痛は勘弁してほしい……。
相手のスキルを吸収できるということは、どうも異常なことらしい。そういえば、オステリアは俺に何のスキルも与えてくれなかったけど、これを見越していた?
うーん……、考えてもわからない。とにかく俺は捕食により、ゲールクロー『疾風爪』というスキルをゲットした。それは間違いなさそうだ。
(ん?でも変じゃないか?)
考え込むリリスに俺は話しかけた。
「ゲールクロー『疾風爪』って、熊が使っていたあれだよな?」
「うむ、そうじゃ」
「でもさ、変じゃないか?」
「何がじゃ?」
「魔人を倒したときには、さっきみたいなメッセージは出てこなかったぞ?」
「たしかに……!」
「リリスの言うとおり。魔物や魔獣限定なのかな?」
「わからんな……。これ以上は推測の域を出ん……。しゃくに障るがオステリアに聞いてみるしかあるまい」
珍しく、リリスはオステリアに頼ろうという発言をした。それくらい、今回の現象は理屈に合わないのだろう。
「オステリア……最近出てこないんだよな……聞こうにも聞けない」
「……オヌシは捕食というスキルをもっている。しかし、今のところ魔人に対して有効かはわからぬ。しかし、ワシは有効だと思っておるがな」
「なんで?だって、この前は発動しなかったぞ?」
「前回と今回で大きく違いがあるのじゃ。それは、今回はヤマト……オヌシが自力で魔獣を倒したのじゃ」
「いや……、前回だって俺が倒しただろ?」
「違う、あれはオヌシというより「神の力」によって倒しておる」
「あ、たしかに」
「ワシの見立てでは、オヌシの中に二つ力があるように見えるのじゃ。一つは半神としての力。そしてもう一つは純粋なオヌシの力じゃ」
「俺の中に二つ……」
「これは推測じゃが、オヌシの力で魔物を倒すと捕食ができる。と思っておる」
なるほど……整理すると……
■俺の中に別の力がある(神の息子としての)
■俺は捕食というスキルを持っているが、それは神の力ではない
■神の力を使って倒した魔族は、捕食できない
ということらしい……
「まあ、いま考えても仕方あるまい、何度も言うが、次にオステリアに会うときに聞いてみるといい」
「そうだな……とりあえず。このクローベアーを拠点に持ち帰ろう」
俺達はそのとき気がついていなかった。ステータス魔法は「数値化されない」という事実を……。
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クローベアーを洞窟内へ持ち帰った。
最近は、この洞窟に愛着すら感じるようになってきている。
洞窟前に到着する前に、一応クローベアーの血抜きはしておいた。それをしないと魔物が寄ってくるだろうとのことで一生懸命やった。
(しかし、不思議だな。捕食ってやつをしてからまるで空腹感がなくなっている)
俺は洞窟に作った簡易ベッド(木を組み合わせて枯れ葉を敷き詰めたもの)にゴロリと横になる……。
「…………」
暗闇に一人いると孤独になる……テレビとか欲しい。せめてラジオ。あるわけないけど……。やっぱり孤独……むっちゃ孤独。
俺は洞窟の入口にいるリリスを呼んでみた。
「リリス!なぁ!リリス!」
「なんじゃ?」
しばらくすると、リリスが戻ってきた。俺は話し相手が欲しかっただけなので、明日の予定でも聞いてみることにした。
「明日はどーすんだ?」
「食料が手に入ったでの、しばらく狩りをしなくてよかろう。明日は魔法の練習をしようぞ」
「そうか。ここ数日は動物探しに終始していたもんな」
「うむ。ようやくじゃ。基礎を数日だけ叩きもうとしたのだが、あのクローベアーの強さは異常じゃ……。しばらく修行することにしよう」
「え?この洞窟にしばらくいるのか?」
「うむ……。このまま移動しても死ぬだけじゃ。クローベアーも崖に落としたから勝てたようなもんじゃ」
「……確かにな」
「まぁ、今夜は休め。今日はよくやった」
「そうだな……。ふぁあ……急に眠くなってきたぞ」
「ふむ。捕食で腹を満たされたせいか?」
「腹は減ってないんだが、眠たさが半端ない」
「疲れで眠いということか……では良く眠ることじゃ、ワシは入口を見張っておる」
「うん。おやすみ。リリス」
「おやすみ」
その日は、俺が作った簡易ベッドに寝袋を敷いて、ぐっすり眠った。むちゃくちゃ良く眠れた。
翌朝、起きるとリリスは決意したように俺に宣言した。若干嬉しそうだ。
「よし!魔法訓練じゃ!」
「なんかやる気だな!」
「ようやくじゃ。食料確保に時間を取り過ぎた……」
「だな……」
俺の生存確率が高まるのであれば、魔法訓練をやるしかない!
生き延びて、俺は10歳になったらリカオンとマリーシアにもう一度会いにいくんだ!
こうして俺は、魔獣の森でリリスと魔法訓練を開始した。
※その頃、マリーシアとリカオン達はどのように毎日を過ごしていたのかというと……




