第64話 アルテス vs 悪魔バフォラット
バフォラットは、背中にある黒い翼を開いた。
バ!!!
「小娘!!きさまぁ!」
「……」
しかし、アルテスは応えない。
「ぬぅおおお!!」
バン!
バフォラットは、叫びながら、角を掴まれたまま、地面を蹴りあげて跳躍した。
アルテスが意外な声をあげる
「あら、さすが悪魔。やる」
そして、バフォラットは空中で翼をはためかせた。
ダン! バサ! バサ!!
アルテスに角を掴まれたまま、空中に飛躍しようとするバフォラット。
1m……2m……と、徐々に地上から足を浮かせるバフォラットとアルテス。このままでは上空まで持っていかれてしまう。
「アルテス!!!」
俺は近寄ってアルテスの足を掴もうとした。
しかし、アルテスの氷のような声が俺を制止する。
「そのまま……下がっていて”旦那様”邪魔よ」
「……アルテス?」
俺はアルテスの声に動きを止めてしまう。なんだか本当に大丈夫な気がしたのだ。
「さすが悪魔ね。じゃあこれで終わりにしてあげる」
ズアアアア!!!!
魔力が大きく動き、アルテスの右手に収束していくのが判る。
「と、とんでもない魔力だ……アルテス」
俺が呆気に取られていると。その魔力はどんどんアルテスの右手に集まっていく。俺の魔力なんて目ではない……。すさまじい魔力量だった。
「聖箱……」
アルテスが、そう呟くと。バフォラットの周囲に、光の線が引かれはじめる。
ピシュン……ピシュン……
その光の線は、まさに空中に「箱」を描いているようだった。軌跡がそのまま「線」となり、「面」となり。そして立体四方となった。
あっと言うまに、バフォラットは四方を光の箱で囲われた。そして、いつの間にかバフォラットは、その箱の中に閉じ込められた。
「グオオオ!こんな箱など!!」
暴れる悪魔。しかし、まったく箱は壊れなかった。
「な!?この魔法は!?見たこともないぞ」
リリスが叫ぶ。リリスが知らない魔法なんかあるのか?!
そこでようやくアルテスが手を放す。
パ……
そのまま地上に降りてくるアルテス。バフォラットは空中の箱に捕らわれたままだ。
トン……
俺の横に降り立つアルテス。
「アルテス……」
「心配ない。”旦那様”……見てて」
そういうと、アルテスは光の箱で囲われたバフォラットを指さす。
「ぐぉぉぉ!出れぬ!なんだ、この箱は!?我に壊せぬなどと!」
ガコン!バタン!
箱の中で暴れるバフォラット。しかし、ガタ!ガタ!と暴れても箱は一向に壊れる様子がない。そのままバフォラットは空中でさらし者にされた。
「さて。ここまでね。魔界へお帰り。黒山羊……」
パン!と、アルテスが両手を叩くと。光の箱は、ブルーに光り輝いた。
ピカァ!!!
「な!?」「うわ!?」
リリスが口を開けて驚く、あまりの光量に俺は目を覆う。
バフォラットは叫んだ。
「くそぉぉぉ!!覚えておれ!小娘!そして、そこの小僧!」
(え!?俺!?ちょ、待って!俺に目をつけるの止めて!)
そのまま光の箱ともども、バフォラットは”消失”した。
「き、消えた……」
「ちょ、俺のこと何か言ってたよね?ねえ? もしかして、俺は今後悪魔に狙われたりしないよね?」
俺がビビっているのとアルテスは俺の顔をみながら口を開く。
「地上界から消しただけ、今ごろは魔界にいるわ。あの山羊は。だから、しばらく大丈夫」
「し、しばらく?そりゃないぜ」
悪魔のことを山羊呼ばわりする可憐な美少女アルテス。俺はアルテスの顔をマジマジと見つめた。
(なんで、この子はこんなに強いんだ?)
アルテスは、少し顔を赤らめながら衝撃発言を吐く。
「そんなに見つめないで……したくなった?」
「し、したくなったって!何のことぉ!?」
俺がさけぶと、アルテスが微笑した。
「いつでもいいけど……」
俺は耳を塞いだ。
「勘違いだ……絶対勘違いだ……。こんな少女がそんなこと言うはずない」
俺が蹲っていると、リリスが前にズイっと出てきた。
「アルテスとやら……オヌシは何者じゃ」
すると、アルテスはキョトンとした顔をリリスに向けて応えた。
「私は普通のハイエルフ。アルテスよ」
「ふざけるな!ハイエルフと言えども、悪魔を退治など出来ん!オヌシは何者じゃ!?先ほどの魔法は何だ!?見たこともない魔法じゃぞ!?」
リリスが叫ぶと、アルテスは何でもないように呟く。
「あなたの常識が間違っているだけ。最近のハイエルフはそれくらいできる」
「な……」
平然と言い放つアルテスに、リリスは二の句がつげない。
呆然とするリリスを放置して、アルテスは俺のほうへ向き直る。
「目的は達した。これで安全……」
「た、助けてくれたの?」
「うん。あの袋は危険だった。魔力を延々と吸って悪魔のエサになっていた」
「魔力を……あ……」
俺は、砦を通過するときに魔力欠乏を起こしていたのを思い出す。
「あの悪魔は、あなたの魔力を延々と吸って。いずれは貴方をも喰うつもりだった。とても危険な状態だったの」
「ま、まじで!?」
「これは本当の話」
コクンと頷くアルテス。
なんとも恐ろしい袋を俺は手に入れてしまっていたものだ。
実際おれは、悪魔を目の前にみている。それを退治してくれたのもアルテスだ。これはまずお礼を言うべきであろう。
「ありがとう。アルテス。助かったよ」
「いいえ。これは妻の務め。用事は終わった」
そういうと、アルテスは両手を軽く広げた。
クン……
そして、そのまま空中にフワリと浮かんだ。
「え!?もう行ってしまうの?」
「あなたは、これから修行をして強くならなければならない。方向性は間違っていない。私はそれを見守っている」
「なんで、俺のことをそこまで……」
俺はそういうと、アルテスは俺の顔をみつめ微笑した。
「またね……未来の旦那様」
ドン!!
そういい残すと、アルテスはロケットのように上昇して、そのままどこかに飛んで行ってしまった。
「まじで飛んでいったよ……」
嵐のような出来事に、俺とリリスは立ち尽くすばかりだった。
アルテスは何者か……。次話にご期待ください




