第59話 ハヤシさん
「ありがとうございます。」
「いや、俺のほうこそ悪かった。俺の名前はハーンド。新米警備兵だ」
「僕の名前は……」
一瞬、俺はそのまま名前を名乗って良いものかためらった。今、俺の素性がバレるのはまずい……
「僕の名前は……ハヤシです」
「ハ、ハヤシ……不思議な名前だな」
(しまった、とっさにまったく関係ないの思いついちゃったよ)
「はい、はぁはぁ……」
「ど、どうした?顔色が良くないようだが」
「はい、さっきの魔法で魔力欠乏起こしてしまって」
「あれほどの大きい魔法だもんな、それはいけない!うちの砦においで!隊長に紹介して休ませてあげる」
(それはマズイ……いま、俺は行方をくらまそうとしているのに、軍なんかに保護されたら身元照会が始まるだろう。しかも魔法見られているから、何者なのか徹底的に調べられる)
「い、いえ……大丈夫です。放っておいてください」
「放っておけないよ。君は防衛の砦の恩人だ。あの大きい火事を消し止めてくれた恩人だ。報奨とか出ると思うし、おいでよ」
「ほ、本当に大丈夫です。あの……それに僕は魔獣の森の奥に用事があるので」
「え?!魔獣の森の奥地なんて行ったら死んでしまうよ」
基本的には善良な人なのか、本気で心配してくれているようだ。しかし、今砦に連れていかれるわけにはいかない。
「僕は修行中の魔法使いなんです。師匠に森の奥で修行するように言われているので、それを守らないといけないんです」
「し、しかし……君みたいな子供が……、いやさっきの魔法を見る限りそうでもないのか……」
なんだか迷っているようだ。
「ハーンドさん」
「な、なんだ?」
「もし、火事を消したことを恩義に感じているのであれば、僕を行かせてください。お願いします」
俺はペコリと頭を下げた、ここで捕まるわけにはいかない。なんでもするさ……
「……確かに君は恩人だ。わかった……ハヤシ君がそうしたいなら止めないよ。ただし、軍には報告させてもらうよ。俺の仕事だから」
「(まぁ……森に行けるのであれば追跡もないだろう……)それはご自由に」
「本当に大丈夫なんだな?魔力欠乏とか言っていたけど……」
「はい。大丈夫です。(というか砦に連れていかれるよりはいい)」
「気をつけてな、俺はもういくけど。また会えるかい?」
「たぶん……また戻る予定なので」
「わかった、それじゃ。ハヤシ君」
「……」
「ハヤシ君?」
「あ!俺だ!」
「……ねぇ?本当に君、ハヤシって名前?」
じと目で見つめてくるハーンド。
リリスは笑っていた。
(偽名だから反応が遅いんだのう)
「あはは!いやだなぁ、俺はハヤシ!ハヤシさ!またね!」
「あ、待って!森に行くならこれを持っていってよ。」
そういうと、ハーンドは腰に下げたロングソードを俺に手渡した。
「え?悪いですよ……。」
「いいんだ。絶対武器はもっていたほうがいい。」
「でも……、これ軍からの至急品ですよね?ハーンドさんが困るんじゃ?」
「俺は怒られるくらいで済むけど、君は命にかかる。」
「あ、ありがとうございます。!
俺はペコリと頭を下げてお礼を言って受け取った。
「うん。気をつけてね。」
「はい!それでは。」
俺は、ボロが出ないように走って逃げた。
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ハーンドと別れ、俺は溜息をつく。
「ふぃ……危なかったな、リリス」
「いや、たぶん色々バレておったぞ」
「……」
俺はハーンドと別れ、森の奥へ進むことになった。魔力欠乏を起こしたまま……
「はぁ……はぁ……」
ハーンドと別れ、俺は重たい体を引きずるようにして森の奥へ進んだ。道は悪路が多く、俺の体力と気力を消耗していく。まだ、森に進入して1時間ってところだが、幸いにも魔物には遭遇していない。入口付近であれだけ騒げば、魔物も近寄ってこないだろう。
「大丈夫か?ヤマト」
リリスは肩を貸そうにも実体ない状態なので、心配する以外なにもできない。
「な、なんとか大丈夫だ。少ししたら休憩しよう」
「そうじゃな。もう少し頑張れ、まだ砦に近すぎる」
「はぁ……はぁ」
そう言ってから、10分も経過していないが、俺は体に異変を感じはじめていた。
「あれ……なんだか体が軽くなってきた気がするぞ。休憩もしていないのに……」
不思議と歩けば歩くほど魔力が回復してきている気がする。
「そんなバカな……大して経っておらんぞ……」
「でも、本当に……」
「ん?!ヤマト、月の糸が光っておるぞ?」
「え?」
俺は右手首に巻き付けてある月の糸を見た。すると、銀色に淡く発光していた。本当に淡くで俺も気がついていなかったくらいだが……。
「本当だ……、もしかして魔力が回復しつつあるのって……」
「そうか、それがあったのじゃったな……そのおかげじゃ。しかし凄まじい効果じゃの。思っていたよりも効果が高いぞ」
「これって異常な回復速度なの?」
「うむ……通常の月の糸とも違うようじゃ。ハイエルフの小娘、良いものをくれよったな」
「本当に彼女には助けられているよな……」
今思うと、彼女の名前も知らないけど、どこか懐かしい感じがした。なんなんだろ……この感覚。
大分、魔力が回復してきたせいか。俺の顔色は徐々に良くなってきていた。30分ほど小休憩をしたら、さらに完全回復した。
そして、俺達は森の奥へ奥へと進んだ。
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