第5話 転生開始
「じゃあ、龍人族でいいんですね?」
女神は俺に最終アンサーを求めてきた。
「ちょ、ちょっと待ってください。やっぱし、少し考えます」
ノリで決めてしまったが、やはり少し心配になってきた……。優柔不断な俺。
「なんです……もう」
女神は呆れ顔で俺の様子を見ている。少しイラついているようだ。しかし、ここは慎重に考える必要がある。これから第二の人生を歩むのだ。種族はとても重要な選択になる。
「あのー……」
「なんです?あまり私も時間がないんですが」
「いえ、ちょっといろいろ聞きたくて」
「はい、質問ですね。早くしてください」
女神は腕を組み、片方の指で自らの肘をトントンしている。相当イラついているようだ……。これは早めに確認しなくてはいけない……。
「あの……龍人族って何か問題とかあったりします?」
「問題?種族自体は問題ありませんよ?ウチラース界でも……地上界でも、違和感なく馴染むでしょう。ただ……」
ん? 何かあるのか?
「ただ?」
「この龍人族、2000年前に滅んでるですよね」
「無茶苦茶問題じゃないですか!」
「ダリア界でも絶滅危惧指定種にしていたんですけどね、残念なことに絶滅してしまいました」
「野生動物みたいな言い方ですね」
「神にとって同じようなものです」
「そうですか……、でも絶滅している種族って、復活させると目立ちすぎるのでは?」
「まぁ、見た目は人間とあまり変わらないので大丈夫じゃないですか?」
なんとも他人事である。この神様は、本当に適当だ…………。
「りゅ、龍人族の特徴をもう少し教えてください」
「そうですね、この種族は才能豊かでスキルも多様です。戦闘能力も非常に高いですよ?どれくらい凄いかというと、過去に我々神に戦争をしかけて来た種族なんですよ」
か、神様と戦争したの? すげーな、龍人族!
「そ、そんな絶滅種族&神様の敵 みたいの復活させて大丈夫ですか?」
「一匹だけなら、問題ないですよ」
あっけらかんとまぁ。しかも、こいつ「一匹」っていいやがった。せめて一人って言えよ……。
このあと色々聞いたら、この龍人族 いろいろ面白い。まとめると……。
【寿命】
平均1000年ほど、とても長い。
【才能】
才能は魔力、剣、格闘 なんでも群を抜いて、どの才能に長けているかは個体差がある。万能型も多かったらしい。
【知能】
非常に高い。とくに数学や理論などは得意分野で、新兵器の開発などもドワーフ顔負けだったみたい。魔法研究も得意で、神もビビるレベル。
【見た目】
見た目ほとんど人間と変わらない。若干耳が尖っていてエルフっぽい。
【身体能力】
地上最強レベル。力、スピード、防御力が非常に高い。見た目は人間と同じなんだけど、成人(成龍というらしい)すると、槍や剣でも傷つけられない皮膚を持つという。ただし、成長段階に問題あり。
【繁殖】
エルフ、人間、獣人、ドワーフ、魔族、あらゆる種族と交配可能。
【弱点】
幼年期、とくに10歳までは防御が普通の人間と同じ。そのため、母龍は子供を産んだら、山奥で10年は隔離させて修行させる習わしだったらしい
・
・
・
以上、問題があるとしたら転生させるのにも、絶滅してるから親がいないみたい。しかし、転生といっても実際は転移なので、親がいない状態からスタートするのは仕方のないことだと女神に言われた。
まぁ、色々あったが龍人族に決めた。問題なかろう。
「では龍人族でお願いします」
「そうですか!決まって良かったです。では、龍人族として転生させますね」
女神は契約が成立したときの営業マンのような顔をして、準備とやらを開始した。胡散くささマックスである。
「では……」
女神が地面を見つめると、そこに光る魔法陣が発生した。
「うわ……すごい。魔法陣だ」
直径3mほどの魔法陣だ。部屋の中は薄暗いので、異様な雰囲気を放っている。魔法陣の中には凄いたくさんの文字や記号が配列されている、当然のごとく俺には読めない……。
「では、この魔法陣の中に入ってください」
「え?もう転生……転移するんですか?」
「ええ、ここに居ても仕方ないでしょう?ほら、早く入ってください」
「は、はい……」
女神に急かされるまま、俺は魔法陣の中に立った。ドキドキしてきた。
「準備はよろしいですか?神崎龍二さん」
オステリアが描いた魔法陣の上に立っている俺に笑顔を向けてきた。
き、緊張するなぁ……。
「は、はい、あの大事なことを聞くの忘れていました」
「ここに来て質問ですか?なんですか?」
「あの……記憶は引き継ぐんですか?」
オステリアは、ため息をついた
「記憶?いりますか?」
「で、できれば……いえ、絶対に引き継ぎたいです」
あまりロクでもない人生だったが、それでも俺の想い出だ。記憶は譲れない。新しい世界でも、現在知識が重要になるシーンも絶対あると思う……。
「はぁ……もう仕方ないですね。本当は抹消するのですが、あなたの魂ってかなり複雑なので、面倒ですが、ご希望どおりにしますよ」
「あ、ありがとうございます!」
「その代わり!私オステリアが監視させてもらいます。」
「か、監視って?」
「新しい世界であなたがダリア界のことを話したり、転生したことを話さないかを監視するのです」
「それって話すとマズいんですか?」
「当然です」
「そ、それは話さないと約束できますけど……。監視って、どこまで見られているんですか?僕のプライバシーは?」
いや、ナニしてるときまで見られてるとか最悪じゃん?恥ずかしいしさ……。
「大丈夫です。基本的にプライバシーは守られます。というか、ほぼ野放しです。人を殺そうが、ハーレム作ろうが、詐欺を行おうが自由です。こちらから見ることはありませんし、咎めません。ただし、ある禁忌に触れると私に報告がくるよう呪術をかけさせてもらいます」
禁忌って、なんだろう。知らないで禁忌に抵触とか嫌だぞ?
「禁忌とは??」
「転生したことを誰かに知られたときです」
ほうほう、それなら別に問題ないぞ? 言うメリットがないし、言いたくない。俺のブサイク人生は誰にも知られたくないんだ、ぼく転生者なんです!なんて言いたくないしね。
「ちなみに、禁忌を犯した場合は?」
「私を敵に回すと思ってください。あなたを消します」
怖いから! それ怖いから!!気軽に消すとか言うなって、お前はマフィアか!
「わ、わかりました。絶対言いません」
「よろしい。ちなみに私は、ウチラース界ではステルア神として崇められています、その名前を使ってくださいね」
「別の名前が?」
「まぁ、どっちでもいいんですけど、いろいろ言語問題があって」
「なるほど。ちなみにウチラース界……。いまからいく地上界のことですね。そこは地球とは違うんですよね」
「そうです、魔法と剣の世界です。第二の人生を楽しんでください」
だいたい想像ついてたけどね。
「あ、あと最後に質問なんですが、もうオステリア様とは、連絡取れないのですか?」
「連絡手段ですか? 基本禁止されているのですが……あなたは特例です。定期的に監視する意味でも許しましょう。私の神殿を探しなさい、そこには私の使役する下級神がいるはずです。その者に取り次ぐよう伝えておきましょう」
「ありがとうございます。女神オステリア様。いえ……ステルア様」
「ふふ……あなたの場合、どっちの名前でもいいですよ。そろそろ転生しますよ。神崎龍二さん、良い人生を」
「あ!あと、もう一つ!」
「まだあるんですか?」
「チ、チートは?特殊能力とか!ほら!」
とっても大事なことだ。チート有り、無しで人生が変わってくる・
「ああ……。それは問題ないですよ。龍人と、私の力を引き継ぐでしょうから、相当なチート能力を持ってます」
「そ、そうなんですね……。たしかに……」
「存在自体がチートみたいなものです」
「わ、わかりました。それではお願いいたします」
すると、魔法陣がひと際輝きはじめた。目を開けていられない。
「あ、いい忘れました。あまり子作りしないでくださいね。100人くらいまでにしてください。生態系が崩れます」
「100人!?そんなに子供作れるくらいわけないでしょう?」
「なに言ってるんですか、私の容姿が混じっているので、おそらく見ただけで女性を狂わせたり、昇天させるくらいの魅力度がつきます。1万くらいは子供作れたりすると思いますよ?」
「ど、どんだけだよ……でもいいかも。素晴らしい!」
「では、素晴らしい人生を!行ってらっしゃい。神崎さん」
女神がそういうと、魔法陣から強烈な光の帯が出てきた。そして、その帯が俺の体に巻き付き、俺は繭のような状態になった。俺は身動きが取れない……。
「う、うわぁ!?」
叫んだと同時に、俺の視界が上から順に黒く消えていくのを感じた。ゆっくりとだ……。地球で死んだときと同じ感覚で、とても怖い。しかし、俺は我慢した。次目覚めたときが俺の新しい人生だ。
さよなら、デブ、チビ、ハゲ、オッサンという35年の暗黒の人生。
そして、こんにちは新しい俺!!
・
・
・
・
・
・
シン……とした魔法陣のある部屋で、オステリアは一人になっていた。神崎という男を無事転生させたのだ。顔には微笑を浮かべている。
「ふぅー、行きましたか。神崎龍二、会ってみれば……また凡人でしたね。あれでは誰も気がつきません……。ふふふ!でも面白くなってきました」
誰もいない部屋で、オステリアの口からは笑い声が出てくる。その笑い声には若干だが狂気の色を含んでいた。
長くなりましたが、いよいよ転生開始です。どんな人生が主人公を待っているのか……。