第47話 別れの夜(後編)
リリスとの会話が続く。
「言いたいことは判る。俺は家を出るべきなんだろう……?」
そのときの俺は何とも言えない顔をしていたと思う、決意しかねているような悲しいような……リリスの言葉に嘘はない。彼女は俺のことを思って発言していることは理解していた。
リリスは辛そうな表情だ。言いたくないのだろう。しかし、リリスの提案は理に適っている。
「……オヌシの気持ちを考えると、辛い選択じゃがな」
「そ、そうだ……スプーンをもっと増やせば……」
以前、スプーンに俺の魔力を大量に帯びさせることで、俺の居場所を特定しにくくしたことがある。あの数を増やせばと思ったのだ……
「スプーン作戦で攪乱していたが限界がやってきたんじゃ」
しかし、リリスは首を横に振る。
「ど、どうして……」
「オヌシの魔力がとても大きくなってきた。鼻の良い魔人たちはオヌシに辿りつくじゃろう……もうスプーンなどで攪乱するのは限界じゃ」
リリスは正しい。言っていることは、俺も理解できる。俺がいることで魔人が来るなら俺は家族にとってリスク以外の何物でもない……
リリスははっきりと俺のために、そう言ってくれてるんだ。リリスの気遣いが感じられる……
(そうだ……そうだよな……)
考えるまでもない、赤ちゃんだって生まれる。おれの大切な妹か弟が……
それがもし魔人に食べられたら……
(考えるだけで頭がおかしくなってしまう……)
母さんや父さんもそうだ、俺がこの家にいること自体が危険なんだ。
「…………」
「…………」
俺はたっぷりと悩んだ。しかし、ほどなくして結論は出た。
「……家を出よう」
「……そうか」
リリスは、俺を憐れむような顔をして、そして俺を見つめた。
俺は俺で、屋敷の庭から父と母がいるだろう二階のバルコニーを見つめた。そして誰にともなく呟く……。
「さよなら、大好きな父上、母上」
この家に拾われてからの思い出が走馬燈のように、次々に頭の中に溢れてくる。
「リカオンもマリーシアも、すごく可愛がってくれたよな……」
「そうじゃな……」
「この家と村には思い出がいっぱいだ。ここは俺の故郷であり、実家なんだ。他に行くところなどない……」
「……そうじゃな。ヤマト」
リリスはたまらないという表情をした、俺のことが不憫なのだろう。しかし、彼女は実体がない。俺のことを抱きしめようとしても出来ないもどかしさに苦しんでいるようだった。
(忘れない、幸せな日々だった)
でも、今日でおしまい。あまりにも突然だよ……大好きな父上、母上。
俺は魔人との戦闘前に、リカオンもマリーシアも俺を優先して逃がそうとしていたことを思い出した。
(俺を追い出すなんて、あるわけないじゃないか……馬鹿だな、俺は……)
一筋の涙が俺の頬を伝う。両親の愛情を、魔人の襲撃という究極のシーンで確信したのだ。血のつながりなんて関係ない。リカオンとマリーシアは確かに俺の家族だったのだ。
本当にこのまま別れるのか?本音はいやだ……もっと一緒に居たい。
でも、でも…………。
チラリと魔人の死骸をみる。
「もう、次はない……」
俺を愛してくれる両親だからこそ……だ。俺は家族を守らなければならない。
(よし……家を出よう……)
俺は心の中で確かに決断した。
「リリス、大丈夫だ。決めた」
「それがよかろう……両親には挨拶するのか?」
「いや、俺が家を出ると言ったら、ぜったい反対される……」
「それはそうかものぅ……しかし、このまま失踪したら、両親はオヌシを探し続けるぞ?」
「なら、このまま消えたほうがいい。いまなら魔人に食われて死んだと思ってくれるだろう?そうすれば家族も俺を探さない……危険には巻き込めないよ。これ以上」
「なるほどの……それでいいのか?本当に?」
「うん……いい……家族が死ぬより良い……ん?」
二階の部屋から何か声がするのが聞こえた。屋敷に明かりが灯りはじめている。
(ナタルだ……ナタルが両親をみつけて介抱しはじめているんだ……声を……。)
「…………」
俺は耳を澄ませてみた……。
(うん、マリーシアもリカオンも無事なようだな……)
声から察するに、マリーシアもリカオンも、目を覚ましたらしい。家族の動揺が伝わってくる。
「ヤマト……そろそろ」
「わかってる!!」
俺は後ろ向きになると、決意を鈍らせないために駆け出していた。
その後ろ姿が、とても悲しそうでリリスは胸が痛くなった。
「ヤマト……。」
走りながら、俺は涙を流していた。両親に会いたい気持ちを唇を噛んで我慢した。夜の中を俺はひたすら走った。
口からは噛んだ血が流れ、それが涙とまじりルビーのような色になっていた。
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夜中の村を駆け抜けた。時刻は深夜だ。誰も俺のことに気がつかないだろうし、俺は隠れることなく、そのまま直進して南へ南へと走った。
途中、リカオンやマリーシアと水遊びをしていた川が目に入ったが、俺はそれをなるべく見ないようにした。見ると自分の心が保てない気がして……
「はぁ……はぁ……」
夜の村を出て、ある程度の距離を走った。まだ、空は真っ暗だ。深夜2時くらいかな?リリスが怪訝そうに質問をしてくる
「どこに行くのじゃ?あてはあるのか?」
「そんなもの無いよ……とりあえず南へ」
俺はぶっきらぼうに応えた。
「ふむ。南か……ならば、龍人の里を目指せ」
「龍人の里?」
「オヌシはまだ5歳。10歳まで身を隠すのじゃ!龍の里は身を隠すのに適している」
「10歳まででいいのか?」
「10歳を超えたあたりから、スキルを覚えるはずじゃ、そのスキルがあれば、魔人や魔物がそうそう襲ってこなくなる」
俺はそれを聞いて驚きと期待を持った顔になる。
「え? そうなの?そうしたら、父さんや母さんに会えるのかな?」
「おそらくな……。ただ10歳までは逃げ続けるのじゃ、龍人族は10歳までは魔人や魔物に狙われやすく、体が人間並に弱い。」
「父さんや、母さんに会える!今から5年後に!」
俺はその情報にすがりついていた。そして、ふと思いついた、この情報を両親に伝えればいいんじゃないか?そうすれば5年後に会えると安心してくれるかも……
「今から戻って父上と母上に、それを伝えてくれば……」
「止めたほうが良かろう……」
「な、なんでさ?」
「5年の間にオヌシ。死ぬ可能性もある」
「!?」
「今から戻って、5年後に会いましょうといって、その間にオヌシが死んだらどうなる?5年後、待ち合わせ場所に現れないオヌシを両親は一生探し続けるぞ」
「!」
「このまま去れば、魔人の死骸と戦闘の痕跡から死んだと思ってくれるから好都合じゃ」
「なるほどな……リリスの言うとおりだ」
「人族にしては優秀な両親だったからの、かなり危ない捜索もしかねない。生きてると思わせないほうがいいのじゃ、あの戦闘のあとは死んだと思わせる絶好の状況じゃ」
「そっか……でもいつか会える」
「そうするためにも、何としても龍の里にいくのじゃ、あそこなら結界があるので安全に5年過ごせる」
「わかった、龍の里にいくぞ!」
こうして、俺とリリスの孤独な旅が始まった。
いつか父と母にまた会えると信じて……
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