第45話 ヤマト vs 魔人ゲーカト
「うわぁぁ!!!」
俺は、魔人めがけて前傾姿勢で突っ込んだ。
リリスが絶望の声を上げる。
「止まれ!何してるんじゃ!死にたいのか、ヤマト!」
しかし、リリスの声など俺の耳に届かない。マリーシアを助けるんだ!お腹の赤ちゃんを助けるんだ!!俺の妹か、弟を!!
(5歳の体当たりなんて効かないはず!くそぉぉぉ!!)
無意識に俺は突進するとき、両足に魔力を込めていた。
ドゥン!!
途中からさらにスピードがアップして俺の体は弾丸のようなスピードに変化していた。その速度は尋常のスピードではなかった。横にいたリリスが驚愕の表情を浮かべる。
「な!?は、速い!?これは身体強化魔法?教えとらんぞ!」
ドン!!
「ぐぎゃ!?」
魔人は、腹にタックルをしてきた小さい「何か」に驚き、思わずマリーシアを手放す。そして、そのまま吹き飛ばされ、弾き飛ばされる。
「げほ……ヤ、ヤマトちゃん?!」
マリーシアが何とか前方をみると、ヤマトが魔人の腹を抱え上げて、そのまま窓へ向かって突進していた。
「イカン!そっちは窓……」
リリスが警告しようとしていたのも束の間。ヤマトは叫んだ。
「こっちでいいんだ!」
ガッシャーン
窓枠を突き破って、魔人もろとも二階から落ちる二人。
「ヤマト!!」
リリスが叫ぶ。そして、俺達は二階から落下した。
「ヤ、ヤマトちゃ……ん」マリーシアは床に倒れこみ、顔だけ上げながら、二階から魔人もろとも落ちていくヤマトを見て、そして気を失った。
落下する二人。リリスも追うように落下していた。
「頭を守れ!ヤマト!」
魔人と落下しながら、リリスが狂ったように叫ぶ。
俺はとっさに首を丸めると、頭を保護した。そして魔人の体と一緒に俺は地面に叩きつけられた。
ドガ!!
「ぎゃ!」
「ぐ!」
二階から地面に魔人と一緒に落ちたことが幸いした。魔人がクッション替わりになり、奇跡的に俺は軽傷で済んだ。
「うぅぅ……ん」
俺は地面から顔を上げて、なんとか立ち上がる。
「ぐ……ぐぎゃ……」
魔人は地面に背中から落ちたことで、しばらく悶えていたが、すぐに飛び起きた。そして飛び起きるなり大声で叫んだ。
「おで!怒ったぞぉ!痛かったぞぉ!!」
怒り狂った魔人が突進の態勢を取る。リリスが指示をとばす。
「横に跳べ!!くるぞ!!」
「く!?」
バッ!!
俺はとっさに右横に思いっきり跳んだ。すると、リリスの指示が正しく、すぐにゴゥッという音と共に魔人が俺がいた場所に突っ込んで来た。当然、そこに俺はいない。
間一髪!!
(今のが当たっていたら死んでいた。まるで、弾丸だ……)
「速い!速すぎだろ」
「魔人の戦闘力は人のそれとは比べものにならん」
「ど、どうする!くそ!」
「ちょっとやそっとの攻撃は通用せん、オヌシにはまだ無理だ!にげろ!ヤマト」
「できない!俺が逃げたら、リカオンとマリーシアがどうなる!?……ハッ!?」
一瞬目を離した隙に、いつの間にか魔人が目の前に立っていた。
「う、うわぁぁ?!」
俺が動揺すると、魔人が俺の左腕をつかむ。
ガッ!
「こ、この……離せ!」
俺は振りほどこうとするが、まったく動かない。
「逃がさねぇ……」
ギリギリギリギリ
「ぐあああ!?」
万力のような力だ。
「腕が……お、折られる。なんて力だ……ぐああ」
俺はさっきの要領で、足に魔力を込める。
「うぁああああ!!!!」
そして、俺は魔人に掴まれたまま走り出した。
「ぐ、ぐぎゃ?な、なんだぁ……このガキ……ぐぎゃ?」
「ま、また身体強化魔法!?こやつ!!」
リリスはヤマトが身体強化魔法を使っていることを再度確認した。ヤマト自身必死になって身体強化魔法を使っていることに気がついていない……。
シュン!!シュン!!ゴォォ!!
高速で、屋敷の庭をジグザグと超高速で動きまわる俺、なんとか魔人を振り払おうとする。
高速の車に必死にぶらさがるシーンのように魔人は振り回される、すでに魔人のほうは足は地についていない。かなり必死の様子だ。
「このぉー。逃さねぇぞぉー!龍の子ぉー」
「う。うあああ!」
近くにあった、庭の木に向かって走り出した。そして魔人を木に叩きつけた。
グシャ!
「ぐ、ぐぅ」
何かつぶれる音をさせて、魔人がうめく。ようやく手を離した。そして地面に転がり、頭を打ったのか蹲っていた。
「ぐぅぅぅ……」
「効いた!?」
俺は様子をうかがっていた、なかりのダメージがあるようだが、どうだろうか?
「こ、このガキぃ……」
しかし、頭をさすりながら魔人は立ちあがった。多少ダメージがあるようだが、致命傷では到底ない……。
「くそ……丈夫な奴だな」
俺が絶望の声を上げると、リリスが俺に声をかける。
「ヤマト、さっきから身体強化魔法を使っておるぞ、しかも無詠唱で」
「え?」
「気がついておらんのか、まぁ良い。今じゃ!魔人に少しダメージがあるぞ。追いうちをかけろ!」
「わかった!」
俺は怖かったが、先ほどの要領で魔人に突進した。
シュン!!
迫る俺に魔人は迎撃の態勢をとる。俺は正面から突っ込むような愚を犯さない。途中で方向転換し、魔人の後方へ回り込む。
すさまじい速度に魔人は対応できていない。そして魔人の後ろに立った。
「う、うしろぉ!?」
「このぉ!!」
攻撃方法を知らない俺は、とりあえず思いっきり魔人の尻を蹴り上げた。
ドン!!
「ぐぎゃ!!」
魔人は尻から蹴り上げられ、3メートルほど宙に浮いた。5歳の子供の蹴りが、体長2mほどの魔人を蹴り飛ばしたのである。
尻から蹴り上げられ宙に浮き、そのまま地面に背中から落下する魔人。
ドウン……
「いでーー!!いでで!」
痛がっているが、致命傷には至らない……俺はそれを見て焦った。
(まずい……こいつかなり丈夫だ。魔人を倒すほどの力が俺にはない。痛がらせるくらいではラチがあかない)
魔法はまだ習っていないため、決定打が欲しいところだ。
「くそ!どうすれば、せめて魔法が使えれば……」
そこで、リリスの指示が飛ぶ。
「魔法なら今教えてやるわい!!」
「い、今!?」
「やるしかなかろう!だてに基礎練習をやらせていたわけではないわい!魔力の圧縮をせい!」
「圧縮!?いつもの!?」
「いいから、圧縮せい!!早く!」
俺は言われたとおり、光の速さでバスケットボール大の魔力球を作り出した。魔力操作ならお手のものだ。
「その魔力球にイメージをつけろ、燃えさかる豪炎だ、マグマのような炎の球をイメージしろ!オヌシなら無詠唱でできるはずじゃ!!」
「わかった!!」
俺は燃えさかる豪炎をイメージした。その刹那、魔力球は俺の掌にあつまり
俺は大きな赤い魔力球となり炎のボールと化した。
ゴォア!!!
「で、できた!!」
俺は手の上で燃えさかる炎のボールを呆気に取られてみていた。不思議と熱くない……。
「火属性魔法、ファイアーボール『炎の玉』じゃ!それを投げろ!」
「了解!!」
俺は野球選手のように、それを投げつけた。
ゴァァ!!
超高速で、真紅のマグマボールが魔人へと襲いかかる。
(やはり!無詠唱じゃコヤツ!しかも、はじめてのわりに凄まじい威力じゃ!)
あまりの速度に、魔人は避け損ねた。
「あ。あわわわ!!?」
ドウン!!
ファイアーボールは魔人の胸に直撃すると、爆炎とともに魔人を包みこんだ。
「ど、どうじゃ!!」
「どうだ!!」
ヤマトの初めての魔法である、魔人に効いたのかを見定める。
「熱い!!熱っ!!」
炎が魔人を包むが、熱がるだけでそれほどのダメージを負っているように見えない。あまり効果がなさそうだ……。致命傷ではない。
「ぬぅ……だめか……威力もAランク冒険者ほどはあったのじゃが、腐っても魔人じゃ。まだ威力が足りぬ」
「そ、そんな……打つ手がないじゃないか……」
最低級でも魔人は魔人、かなりの威力とはいえ、習ったばかりの魔法では効果がないとリリスは判断した。ヤマトも動揺している。所詮5歳の子供に出来ることは限られているのだ。
「ヤマト!逃げろ!!もうダメじゃ、小手先でどうにかなる相手ではない」
「だめだ!!母さんと父さんがいるんだ!!」
俺は断固として拒否の姿勢を示す。ここで逃げたら両親は確実に殺されてしまう。それだけは絶対にダメだ。
「ぐぎゃ……よぐもやってくれたな……」
すると、魔人が炎に包まれながらこちらにズンズン近づいてくる。
「う、うわ……こっちにくる!」
「に、逃げろ!ヤマト!」
「ぎぎ、このガキィ!殺してやる!!逃がすかぁ!」
シュン!!
刹那、魔人は高速で移動して俺の目の前に立つ。
「え!?え?」
俺が反応できていない。あまりの速度に驚く。
(きょ、距離を取……)
魔人は血走った目で俺を見下ろすと、右腕を突き出した。
「しね!」
ズボ!!
「がは!」
俺は何をされたのか分からなかったが、突如自分の体が揺れたかと思うと腹に熱い温度を感じた。
(腹?)
ゆっくりと、自分の腹を見て理解する。
魔人の腕が、俺の腹に突き刺さっているのだった。背中まで貫通している。
「う、うぐ……あああ」
ポタポタと地面が俺の血で濡れていくのを感じた。
「ヤマトォ!!」
リリスの声が闇夜に響き渡る。




