第44話 決死
母親を悲しませた夜。俺は、マリーシアともリカオンとも、ほとんど口をきかず夕飯を食べる。
マリーシアは話しかけてくれていたが、俺は「うん……うん……」と適当な返しで気まずい雰囲気が流れていた。
「ごちそうさま」
俺はとサッサと席を立つ。
「あ、ヤマトちゃんお話があるの」とマリーシアは声をかけてくれたが、俺は
「眠いから、もう寝る」と振り返りもせず、自分の部屋に入った。
「はぁ、また嫌な態度を取ってしまった」
俺はタメ息をついてベッドに横になる。本当にどうしたんだろ。俺……イライラが止められない。
「リリス」
シュン
俺はリリスを視覚化させた。
リリスはこちらに近寄り、俺の顔を見ながら説教地味た声をかけてきた。
「くだらぬ、素直に新しい家族を祝ってやればいいのじゃ。何を子供じみた……」
「うるせー……分かってはいるんだよ」
「ならば、謝ってこい。それで解決じゃ」
「……今日はいい……。明日謝るよ」
「うむ……どうした?今夜は訓練をせぬのか?サボっている暇はないぞ」
「やってるよ」
「やっておらぬではないか」
「外見てみろよ」
「?」
リリスは窓から外をみると驚いた。
「こ、これは!」
家一軒くらいの大きさはあろうか、球体の魔力の塊が空に浮かんでいたのだ。
ギ……ギギ……
魔力が圧縮されている証拠に独特の音がする。リリスは唸る。
(コヤツ!これだけ習熟しておったか!それにこの魔力量!カリアースを超える才かも知れん……)
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その日の夜、静かに屋敷に近づく不穏な影があった。それは人の姿をしてるが人ではない。魔人と呼ばれるものだった。
最下級魔人、魔人にも何種類も種族がある。今回接近している種はゲーカト種。トカゲに由来する形状をしており、ときおり人里を襲う。人語を理解し話すが知性は低い。
最下級とはいえ魔人。その戦闘力は高く。倒すにはSランク冒険者が数人必要と言われている。
「ここに龍人の匂いがするぞぉ、うん……?赤ん坊を腹にいれた、女の匂いもだぁ。じゅる……たまらねー、早く食べたいぞぉ」
深夜に月明かりしか頼る光はない。すでに村の大多数が眠りについていた。ヤマトも、リカオン夫婦も深い眠りに身を任せて、スヤスヤと眠っていた。
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その夜……事件は起きた。
その日、俺はマリーシアの手を叩いたことを後悔していた。
(明日には謝ろう、謝れば元どおりさ。兄弟が生まれたら追い出されるなんて、俺の妄想だ。そんなことあるはずないじゃないか)
そう思って俺は就寝した。まさか、二度と謝れなくなるなんて夢にも思わなかったんだ。
深夜……俺や家族は深い夢の中にいた。しかし、とある音で起こされる。
ドキャ!!ドン!!
深夜に爆音が屋敷内に響き渡る。
俺はベッドから飛び起きた。
「な、なんだ?なんの音だ!?リリス!」
リリスを視覚化して目の前に出す。
(地震ではないようじゃ、一階の玄関から音が聞こえたぞ……)
一階?ドアは閉めていたはずだが……
その時、ドタドタっと階段を駆け上がる足音が聞こえた。人の足音?!リカオンの足音ではない。これは!?
リリスが状況を推察して叫んだ。
「何か変じゃ!何者かが二階に上がってきておる!!」
「!」
俺は飛び起きて、ドアをあけて廊下に飛び出る。
暗い廊下の先を凝視してみる……何かが上がってくる、近づいてくる!?
すると、廊下の先に現れたのは気色悪い生物だった……
暗闇の中、ヌラヌラと粘液を纏わせた緑色のトカゲだった。見ているだけで寒気がする外見だ。
「な、なんだ……あいつ」
すると、そのトカゲ野郎は喋り出した。
「おお?子供かぁ?いや、こいつからはいい匂いがするぞぉ? これが龍人の子かぁ?」
「しゃ……喋ったぞ!」
俺が驚いていると、リリスが焦ったような声で俺に警戒を促す。
「魔人じゃ。あいつは魔人じゃ、ヤマト!!」
こいつ!こいつが魔人か!?赤ん坊のとき感じた危険か?当時、オステリアが未来視で俺と両親が食べられているのを予知していた魔人……こいつがそうなのか?
しかし、キモいな……キモすぎる。
すると俺の隣の部屋であるリカオン夫婦の部屋の扉が開き、そこからリカオンがパジャマ姿飛び出してきた。手には剣をもっている。さすがに異変に気がついたらしい。
リオオンも魔人の存在にすぐに気がつく……。そして驚きの表情を浮かべた。
「な、なんだ……こいつは……魔物?いや、魔人!?」
左を向き俺の姿も認めるリカオン。リカオンは必死の形相に変わる。家族の危機だと認識したようだ。
「なんで魔人が人里に……マリーシア!!ヤマトを連れて逃げろ!」
「ギャオオン!!うまそーだぁ!!喰わせろぉ!!」
魔人が腰を低くして俺に飛び掛かろうとしたとき、リカオンが動いた。
「息子はやらせん!!!化け物め!!」
リカオンは叫ぶなり剣を抜刀。高速で踏み込むと、トカゲ魔人に切りかかった。居合にも似た剣技だった。
素人目にみても、目にも止まらぬ早技だ。さすがリカオンである。剣士としても一級だ。リカオンは、Aランクまで上がった男……普通の魔物では話にもならないだろう。俺は一刀両断される魔物を想像していた。
しかし……
ドカ!!
切りかかった思ったリカオンが逆に吹き飛ばされていた。
「え?」
俺はトカゲ野郎のあまりの速さにリカオンが殴られたのか、蹴られたのかも
わからなかった。
リカオンはゴムボールのように飛ばされ、減速することなく、俺とスレ違い。廊下の突き当たりまで吹き飛ばされた。
「ぐは!?」
「父上!!」
リカオンは、倒れ込むと、腹ばいになり起き上がらない。俺は大声でリカオンに声をかけてみる。
「父上!!」
「う……うぅ……」
良かった……生きているようだ。
なんという威力だ、リカオンも相当な使い手なのに一瞬で……
「一体どう攻撃したんだ、魔人のやつ……」
そこまで言いかけて俺は魔人の姿をみて固まる。
なんと魔人の口から、緑色の長い舌が出て空中にうごめいていた。
「舌……あれに殴られたのか。父上は……はッ、父上!!!」
俺がリカオンに走り寄ろうとすると、リリスが叫んだ。
「ヤマト!避けろ!」
しかし、声むなしく俺もリカオンの二の舞になっていた。急速に接近していた魔人に反応できず、俺は緑の舌に殴られて、廊下の壁に叩きつけられる。
メリ!メリメリ!
あまりの衝撃に壁にメリ込む。
「がは!」
血を吐きながら、床に倒れ込む。
(く……くそ……)
「ヤマト!」 リリスが叫ぶが、しかし俺は意識遠のく。
(脳を揺らされた……落ちる……)
落ちていく意識のなかで、魔人がマリーシアの寝室に入っていくのが見えた。そして、部屋の中からマリーシアの恐怖の叫び声が聞こえた。
(ま、まずい、母上が……)
そこまでの思考で俺は気絶した。
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(ヤマト!! 母親が殺されるぞ!起きるのじゃ!)
リリスが頭のなかで叫ぶ。
「う、うーん……」
瞬間、俺はなんとか意識を取り戻した。どれくらい意識が飛んだんだろう、何秒か?何分か?
「く、くらくらする……俺はどれくらい意識を?」
「3秒くらいじゃ、それより逃げろヤマト!」
リリスが叫ぶ。
「そ、そうだ!母上を!」
俺はガクガクとする足をもつれさせながら、マリーシアの部屋に飛び込んだ。
「母上!」
部屋に入るなり、その光景に息をのんだ。
魔人はカメレオンのように、長い舌を数メートル出して、マリーシアの首を締めつけていたのだ。
マリーシアは、クビに巻き付けられた舌を手で握っている。部屋に入ってきた俺の姿にマリーシアは気がつき、声を絞りだすようにした。
「ヤマトちゃん、逃げ、ぐぅ」
マリーシアの苦しそうな部屋に響く。
彼女は自分の身が危険なのに、俺のことを逃がそうと声を上げていた。俺はそのこと自体にマリーシアが俺をどう思っているのか、強い愛情を感じた。
しかし、状況は最悪だ。
(母上は妊婦だ、このままではお腹の赤ちゃんも危険だ。なんとかしなくては)
リカオンは気絶していて動けない。俺が守るんだ! 家族を守らなければ!!
リリスが俺に警告をする。
(マリーシアとリカオンのことは、辛いが諦めろ。今なら逃げられるぞ!!ヤマト!逃げるのじゃ!)
「……母上は俺のことをまだ守ろうとしている。あんな状況なのにだ」
(ヤマト!!)
リリスはしきりに逃げろと警告するが、俺は無視した。そして……俺が取った行動はまるで逆のものだった。
「うぁぁ!!」
俺は何も考えず、魔人めがけて突っ込んだ。
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