第43話 家族とは
妹が出来る……。いや、妹って決まったわけじゃないんだけどね?嬉しくてなんだかニヤニヤしてしまう。すべて順調である。いやー、幸せってこういうところにあるんだね。
(さて、今日も俺は子供らしく振る舞うか)
最近、俺は近くの公園で「友達」と遊ぶことが多い。
友達と言っても俺は精神年齢が40歳なので話が合うはずがない。両親が心配しないように、わざと作った「仮面友達」さ。
友達の名前は「モブオナ」。茶色の髪をもつ男の子だ。俺の家からそう遠くないところに住んでいて、呼び出すと必ずついてくる。ちなみに同い年だ。
その日、俺達は公園の砂場で、「アート」作品をお互い競うように作っていた。
マリーシアは悪阻がひどいので、屋敷で休んでいる。ここには俺とモブオナしかいない。
「へー、すごい。赤ちゃんが生まれるの?ヤマト君の家に?」
モブオナは、良くわかっていないようだ。しかし、赤ちゃんが家にくるということは理解しているようだ。
「うん。そうなんだ。絶対妹がいいんだ。僕は」
俺はそう答える。まぁ、弟でもいいんだけど弟は反抗期とかあると面倒くさい。妹もあるだろうが、妹なら許せると思う……。
俺は砂で作ったアートが完成間近なのに満足していた。
「ヤマトくん……それ」
モブオナが俺のアート作品をみて顔を赤らめている。それは女性の胸をかたどったものだからだ。結構な自信作である。ちゃんとビーチクもつけている。
「ふふ……次は男のアレを……」
「やめなよ!ヤマト君!もう!リアルすぎるんだよ、ヤマト君のって」
モブオナは、恥ずかしそうにしている。しかし、俺が作るのを期待しているようにも見える。ふふふ、では作ってやるか……
俺が兄貴になるのかぁ……楽しみだな。俺は兄弟がいなかったから、そういうの憧れていたんだよね。 ふふふ、早く生まれないかなぁ。
俺がニコニコしているのをみると、モブオナが気になる一言を漏らした。
「じゃあ、ヤマト君は家に居れなくなるってこと?」
「え?」
モブオナの言葉に俺はピタリと止まった。何を言った?こいつ?
「だってさぁ、この前教えてくれたじゃん。ヤマト君はほんとの子じゃないんでしょ?「ようし」って、やつなんでしょ?」
そうだ、俺はモブオナには本当のことを教えてある。なぜ5歳の子供に教えた?と疑問に思われそうだが、これには俺の作戦がある。
どうも両親は、俺が本当の子供じゃないことを隠したいようだが、いつか話すべきと考えているようだ。
そのせいで両親はやりにくそうだ。
俺が寝入ったのをみて「いつ、話す?話さない?」と相談している。
それを知っていた俺は、少し作戦を考えた。
まずモブオナに俺が養子だと話したんだ。それが巧妙で、自動的にモブオナの両親がそれを知るだろう? さらに、それをマリーシア達に伝えるだろう。伝言ゲームだ。すると、マリーシアは「な、なんで知っているの!?」となるだろう。
そこで、「知っていたよ、あはは」として明るく終了させるつもりだ。
名付けて「子供は明るくすべて受け止める」作戦だ。完璧だ!
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俺はモブオナの言葉に笑った。
「養子だから居れなくなる?そんなバカなことないよ。ははは、バカだなぁ。モブオナは……」
俺は笑うと、モブオナは笑われたことに腹が立ったのかムキになって反論してきた。
「そんなことないよ。「かとくあらそい」て言うのを避けるために、養子は遠くにやっちゃうってパパから聞いたことあるもん」
……おそらくモブオナは「家督争い」のことを言っているのだろうが、意味が分かっていないと思う。どこかで父親がそう話しているのを聞いたのだろう。
俺はモブオナの言葉に少しだけ不安を覚える。
(まさか……俺が屋敷を追い出される?そんなことをリカオンとマリーシアがするわけがない……。まさかな)
はじめは無視しようかと思ったのだが、俺は急速に不安になっていく……
俺は、マリーシアとリカオンの本当の子供ではないのだから、生まれてくる妹か弟とは、俺は実は血縁上他人ということになる。それにリカオン達とも本来は他人なのだ。俺だけが血がつながってないけど、家にいれるよね?
俺が不安になり青ざめた顔になると、モブオナがからかいはじめた。
「お別れパーティしなきゃね、ヤマト君!へへぇっだ!」
「この!」
ボカ!
俺は、普段だったら相手にもしないモブオナに無性に腹が立ち、モブオナの頭を叩いた。
モブオナは俺に頭を叩かれたことにはじめキョトンとしていたが、やがて頭に手をやり、顔をクシャクシャにして泣きはじめた。
「うわぁぁ!!ヤマト君が叩いたぁ!!うわぁぁ、ヤマト君なんか要らなくなるんだからねぇ!!ボクもヤマト君いらない!」
「あ……しまった」
そう言って公園から出ていくモブオナ。その後ろ姿をみながら、不安に襲われていた。
(俺は他人……本当の家族じゃない……要らなくなる?)
なんだか不安になってきた。そりゃ本当の子供のほうが可愛いに決まってるよな。俺は他人なんだし。そう思うと、なんだが無性に悲しくなってきた。
俺はトボトボと公園をあとにして屋敷に帰った。
屋敷に帰ると、マリーシアにとても怒られた。
「モブオナ君のお母さんから苦情がきたわよ!ヤマトちゃん!なんで叩いたの!」
しかし、怒られていても俺は上の空で聞いている。
「……」
「聞いているの!ヤマトちゃん!?」
(この怒っているマリーシアも、妹が生まれたら相手にもしてくれなくなるのかな?俺は追い出される?妹や弟ができたのに、俺の居場所がなくなる?)
不安が俺の頭を巡っていた。次の日も、次の日も……、そればかり考えていた。
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あの日から、俺はどことなく両親から距離を取るようになってしまった。相変わらずマリーシアとリカオンは楽しそうだ。話題はこれから生まれてくる赤ちゃんのこと。一方で悲しくなっている自分がいる……。本当は嬉しいんだけど、悲しい。不思議な感覚。
楽しそうな両親を見れば見るほど、疎外感が生まれてしまうのだ。
(器が小さいな、俺……)
そう思って自問自答していた。ある日の夕方、庭のベンチに座りながら木をボーっとみていた。
リリスは何を言っていいのか判らないようで、ただ俺の横に立っていた。
「ヤマトちゃん?」
俺はビクッとすると、声のほうを振りむく。
そこには、マリーシアが立っていた。
「母上……」
マリーシアが横に座って話しかけてきた。
「どーしたの?ヤマトちゃん、最近元気ないね」
「ううん。なんでもない」
俺はプィっとそっぽ向く、演技でもなんでもなく、なんだかイライラしていたのだ。優しくされれば、されるほど腹が立つのだ。
「あらら、どーしたの?ヤマトちゃん?困った子ねー」
マリーシアは俺の頭に手を置き、ナデナデしている。
俺はイライラが最高潮になっていた、悲しかったのだ。新しい命を祝えない自分が!そんな自分の気持ちを理解しない母親が!どういうわけか母親が憎く感じた。
今思うと、嫉妬なんだろうけど……俺は混乱していた。
「やめてよ!!!」
パシ!っと手を叩き落とす。
「!?ヤ、ヤマトちゃん?」
驚いた表情のマリーシア。俺はマリーシアに手を上げたことなど、一度もなかった。それなのにやってしまった。
(ああ、俺はなんてことを……優しい母親を悲しませてしまった)
そう思っているのだが、俺の口から飛び出た言葉は全く違うものだった。
「放っておいてよ!ボクは……僕は本当の子供じゃないんでしょ!?」
すると、マリーシアは青ざめた顔になる。
「ど、どうしてそのことを……誰から聞いたの!?」
(知ってたよ、俺は前から知っていたんだ。二人は隠していたけど、俺は転生者だから……)
そう言いたいが、それを言えないもどかしさ。
「知ってたよ!そんなの!それよりも、僕は……僕は、もう要らなくなるんだよね!」
「な、何をバカなことを……」
「もういいよ!」
ダァーーー!!!俺は逃げた、自分の泣き顔を見られたくなくて……
「ヤマトちゃん!待って!!」
俺は振り返ることなく走った。情けない俺。自分が嫌になる……
俺はこの日のやり取りを一生後悔することになる。
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