第40話 ヤマト vs ドリペンネ
ドリペンネは驚いた。先ほどまで虫の息だった少年が、何事もなかったかのように立ち上がっているではないか。しかも青いオーラを身に纏って……。
こちらに殺気まで向けている少年にドリペンネは違和感を感じた。
(おかしい……何かおかしいぞ。あれだけの傷を負って立てるはずがない)
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状況を分析しはじめるドリペンネ。冷静な彼はどんなときでも対応策を考える。むやみに攻撃をしたりしない。
(あの青いオーラは……魔力なのか?違うな……魔力とも違う何かが小僧の体から立ちのぼっている?)
「お前……何者だ?」
「……」
ゾワ!
ドリペンネの背中が冷たくなる。
(おかしい、何かが変だ。このガキは「超危険人物」だ。過去のどのケースにも当てはまらない……明らかに異質な存在だ)
戦うか、逃げるか、ドリペンネは迷っていた。
(逃げる……?いや、ガキ相手に俺が逃げる?そりゃないだろう。俺を誰だと思っている!)
ドリペンネは小さいプライドから「戦う」という判断をした。しかし、その判断が間違いだ。彼は逃げるべきだったのだ。
(一撃で終わらせてやる)
カ゚チャ……
背中にあるバスターソードの留め金具を外すドリペンネ。本来であれば、このような小さい子供にバスターソードなど抜くわけもない。しかし、今目の目にいる者は明らかに「少年」でもなく。「人」でもない。「何か」なのだ……念には念を入れる。
(ヤマト!ヤマト!!どうしたのじゃ!返事をせい!)
リリスは焦ったように声をかける。ヤマトの服は破れ、ボロボロになっているように見えるが、服から見える腹、肩などにあった傷は完全に消えており、口から吐いていた血は完全に止まっている。
(傷が完全に治っている……?!)
「ふー……ふー……」
リリスからの問いに、ヤマトから返事はない。
(しかし……この姿は……本当にヤマトなのか?)
目は開いているが、もともとのブルーアイズが怪しく光っている。まるで淡いライトのようだ。
(こんなオーラは龍人族でも見たことがない。このオーラ……魔力ではないぞ……まさか!)
リリスは何かに気がついたが、そこでリリスの思考は中断された。ドリペンネが動き出した。片手を前に出しながら高速詠唱を開始した。
「############」
(まずい!魔法を発射しようとしているぞ、ヤマト!!ヤマト!!避けるんじゃ!!)
「……」
ヤマトはリリスなど、そこにいないかのようにドリペンネを睨みつけている。いや……焦点が定まっていないため、睨んでいるのかも不明だ。
(これではまるで、狂戦士ではないか……)
リリスが動揺していた隙に、ドリペンネが叫ぶ。
「死ね!小僧!!ファイヤーアロー『火の矢』!!」
ドリペンネの手に巨大な炎が集まり、すぐにそれは矢の形になった。
(でかい!!)
リリスはそれを見て驚く、ファイアーアロ―は魔法使いが初期に習う低位魔法だ。しかし低位魔法だからといって、威力も低いかというとそうではない。発動原理が単純なので初心者にも多用されるが、習熟度や魔力量に応じて威力は増加する。
(……イカン!!避けろヤマト!飛んでくるぞ!)
しかし、ヤマトは微動だにしない。突っ立っている。
ドン!!
ドリペンネの手から、巨大なファイアーアローが発射される。その速度は、目で追えるものではない、高速で迫る矢。しかし、ヤマトは避ける気配を見せていない。
(ヤマトォ!!)
ドガォン!!!
矢はヤマトに激突し、そのまま爆発を起こす。
(ヤマト!!)
リリスは焦った、龍人族の体は10歳までは人族のものと大差ない。そのため、昔の龍人族は10歳まで大切に隔離されていたくらいだ。このような爆炎魔法を喰らって無事でいられるはずがない。
(ヤマ……ト?)
しかし、リリスが目にしたのは…………
モクモクと煙の中から、片手を突き出して立っている無傷のヤマトであった。
(か、片手で受け止めたのか!?こやつ……)
リリスは徐々に状況を理解しはじめていた。しかし、ドリペンネはそうではない。
「あ……な……!?」
自分の魔法を喰らって、無傷の少年を見て驚愕の表情を浮かべていた。決して手加減したわけではない。むしろ本気で魔力を込めた必殺の一撃であった。レジスト魔法ならまだしも、そのまま手で受け止めるなど人の出来ることではない。
「うわぁぁぁぁ!!」
混乱したドリペンネは、バスターソードを振りかぶりながらヤマトに斬りかかる。
ブオォン!!
風切り音からして尋常ではない、すさまじい斬撃がヤマトの頭上から迫る。
シュン!!
しかし、ドリペンネの一撃は空は斬った。速度、威力ともに申し分なかった。並の冒険者であれば避けることすらできずに唐竹割りにされていただろう。しかし、その一撃をヤマトは高速移動で避けたのだ。
ヤマトを見失うドリペンネ。
先ほどまで目の前にいた少年が、まるで瞬間移動したかのようにいなくなったのだ。
「ど、どこだ!?」
キョロキョロと周囲を見渡すドリペンネ。
「ふー……ふー……」
「うしろ!?」
背後から、荒い息使いが聞こえギョッとするドリペンネ。振り返ると、そこにヤマトが立っていた。
「くっ……」
すぐに距離を取るためにバックステップをするドリペンネ。
「し、信じられん……俺が簡単に背後を取られるとは……」
タラリと汗を流すドリペンネ。その顔は恐怖の色を帯びていた。
リリスにしても驚いていた。ヤマトは特殊スキルを発動したわけでない。単純に「動いた」だけなのだ。それで、あの速度は尋常ではない。全盛期の自分の動きをゆうに超えている身体能力だ。
(なんちゅう速度じゃ……それに魔法を受け止めるだけの体。立ちのぼる青いオーラ。まるでこれは……オステリアを見ているかのようじゃ)
ヤマトの絶対的味方であるリリスであったが、今 眼の前にいるヤマトは自分がもっとも敵視している女神オステリアとそっくりなことに動揺を隠せなかった。
「う、うわぁぁぁ!!!」
手元に隠し持っていた炸裂玉を投げつけるドリペンネ。この距離であれば、魔法を発動する時間はない。殺傷能力が高い炸裂玉で対応するあたり、混乱しているとは言えさすがであった。
ドン!ドガン!ドン!
3発の炸裂玉を、頭・肩に当てられ爆音とともに白煙に包まれるヤマト。直撃だった。通常であれば、頭も肩も吹き飛ぶ代物だ。ドリペンネは勝利を確信した。
「やった!死んだか!?」
ドリペンネは状況を見定めようと凝視する。しかしすぐにその表情は恐怖に歪む。
なんと、少年は無言で……しかも何ごともなかったかのように立っているのだ。少し後退したのみで、まるで効いていないように見える。
「ぐ……が……ふぅ……ふぅ!」
鼻息荒く、ドリペンネに近寄るヤマト。まるでゾンビを相手にしているようだった。
「ば、化けもの…………」
ドリペンネは喘ぐようにそう言った。
「あわわ……あわ……」
恐怖から震えて動きが取れないドリペンネ。冒険者になってから、幾度も死線をくぐり抜けてきた彼は恐怖を感じることなど、ここ10年なかった。どんなに危機的状況でも生き残る計算ができる。それが自分であったのだが、しかしそれは魔物や人相手のときであった。今、眼の前にいるものは魔物でも人でもない。何か超越した存在なのだ。
「ふー……ふー……」
ヤマトは、ドリペンネに向けて片腕を上げた。何か魔法を発射するようだ。
青いオーラが、ヤマトの右腕に集まり輝きを帯びる。とんでもない「何か」を発射することは容易に想像できた。
そのときだった。
バチ!バチ!!
ヤマトが身につけている右腕の「月の糸」がスパークしだした。
(月の糸!?な、なんじゃ!?一体何が起きたのじゃ!?)
リリスも状況を理解できない、ハイエルフにもらったという月の糸が、スパークして光を放っているのだ。ヤマトはその光に包まれようとしていた。
電気的な光がまばゆく発光し、ヤマトの全身を覆う。
バチ!バチ!!
「ぐああああ!!!」
苦しみだすヤマト。金色の光がヤマトを攻撃しているかのようだ。
(ヤマト!!!)
リリスが叫ぶと、ヤマトに変化が起きた。ヤマトの眼の発光が収まり、青いオーラが消えたのだ。
すると、ヤマトは意識を取り戻した。
「う…………リリス?」
先ほどまでの焦点が定まっていない状態ではなく、明らかにいつものヤマトの様子だった。
(ヤマト!良かった!意識を取り戻したか!)
「リ、リリス?この状況は……うわぁあ!な、なんだ!腕が青く光っているぞ!?それにドリペンネ!?なんで俺の前に!?」
ヤマトの右腕に集まった青い光はそのままに、まさしく何かを発射しようとしていた。
(まずい!!ヤマト、「それ」を発射するとドリペンネは消滅してしまうぞ!どっかにやれ!!)
「どっかにって……うわぁぁ!!」
とっさにヤマトは腕を上空に向けた。止められないのであれば、方向を変えようとしたのだ。
ドゥン!!
青い巨大な光の柱がヤマトの腕から発射された。そしてそれはドリペンネの右腕をかすめ、空にむかって放たれた。
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数秒後、ヤマトとリリスは、闇夜の空に立ちのぼる青い火柱を見つめていた。
「こ、これは……俺がやったのか?」
(うむ……すさまじい威力じゃ)
「俺が使った魔法?なのか……これは?」
(いや、厳密にいうとこれは魔法でも何でもないのじゃ。これは……)
リリスが説明しようとしたとき、絶叫が言葉を遮った。
「ぎゃああああ!!!」
「!?」
ヤマトとリリスが、見下ろすと。そこには片腕から胸のあたりまで「消失している」ドリペンネが悶え苦しんでいた。みると、柄のみになっているバスターソードが転がっていた。
「か、片腕がなくなっている…………」
「うむ、微かに当たっていたようだが……、刀身も消失したようじゃな。それでこの威力か」
「け、剣が消失……」
自分がやったとは言え、すさまじい威力に動揺するヤマト。
「ぎゃああ……あ……ああ」
断末魔の叫びは小さくなり、そのままドリペンネは気絶した。あまりの痛みに意識を保っていられなかったのだろう。
ガヤガヤ…………ガヤガヤ…………
娼館から人が集まってきたのを感じる。爆音と青い火柱に驚いた花街の住人達がこちらに向かってきているようだ。
「まずい……ここにいると……」
「早く身を隠せ!ヤマト」
リリスに言われるがまま、ヤマトはとある建物の横に置いてある。看板の後ろに身を隠した。
そして状況を見守る…………気絶したドリペンネを取り囲むようにギャラリーが集まってきている。出るに出れないヤマト。
「まいったな……このままここに居ても……」
そのとき、ギャラりーの中から二人のフードをかぶった男女が飛び出してきたのを確認した
(あ、あれは!)
(うむ……リカオンとマリーシアじゃな。さすがに早いな)
リカオンとマリーシアは、目の前で気絶しているドリペンネを見て驚いているようだ。何か二人で話しあっている。そして、キョロキョロと周囲を見て探っている。この状況を作った張本人を探しているようだ。
(ヤマト……ここにいると二人に発見される。こっちから逃げられるぞ!)
(わかった!)
リカオンとマリーシアが来たのであれば、あとは安心である。任せてあとは自分は見つからないように退散するのみ。
そうして、ヤマトは夜の暗闇に消えていった。
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