第39話 追跡
//////////リカオン マリーシア視点/////////////
俺とマリーシアは、レシータに着いてから寝る間も惜しんで調査している。しかし、状況は芳しくない……。ギルドからの支援もあって、ターゲットの性格や行動パターンから、プロファイリングをするにドリペンネは宿屋にいないと判断した。俺とマリーシアは、周辺情報を探っている。そこまでは順調だった……しかし、ドリペンネの奴は相当に慎重な奴だ。まったく目撃情報を得られないんだ……。
このまま逃がしてしまえば、国のほうから俺達は殺されてしまうのではと危惧している。国の情報を外部に流出させてしまえば、なんらかの処分が必要だからだ。
マリーシアは、焦りを感じているようだ。自分がどうこうというより、
「私たちが死んだら、ヤマトちゃんはどうなるの?」と、故郷においてきた可愛い息子の行く末を心配しているようだ。
俺だった焦っている。可愛い息子と妻がいる。家族を守るためにも、このまま奴を逃がして死ぬわけにはいかない。マリーシアも精神干渉系の魔法を駆使して、協力してくれているが、ドリペンネの目撃者が少なすぎる。 まるで尻尾を掴めない……。
「もはや、表立ってギルドに増援を……」と考えてみたが、今回の任務は隠密だ。増援など望めないだろう。
「どうしたらいいんだ…………くそ!」
「あなた…………。」
夫婦で悩んでいたときだった。
ドン……ドン…………
何か、爆発したような音が二発聞こえた。
「ん?何か爆発音が聞こえるな…………」
「たしかに……何かしら?花火の時期じゃないし……」
「…………まぁ、いい。あとで情報収集しよう」
「それよりも対策を練りましょう。このままじゃ、ドリペンネを逃がしてしまうわ」
彼女の顔を見ると相当に焦っているのがわかる。
「そうだな……」
俺とマリーシアは、今までの整理をすることにした。今後の捜索方針だけでも決めなければ!
「マリーシア……明日、商業ギルドの長に話してみよう。何か掴めるかも知れない」
「そうね、それに農業エリアもチェックしてみるつもり。明日こそ情報を掴みましょう。ヤマトちゃんのことが心配で…………」
「うむ。早く家に帰ろう…………」
二人で頷き合ったそのときだった。外から喧噪が聞こえてくる。
ガヤガヤ…………ガヤガヤ………………
「なんだ?外が騒がしいな」
「少し見てみましょうよ。さっきの音も気になるし」
俺たちは外に出てみると、住人達が外に出て騒いでいた。
(なんだ?何があったんだ)
俺は一人の中年男性に訊いてみる…………
「どうした?何かあったのか?」
すると、中年男性は慌てたような口調で教えてくれた。
「あそこだ!東門から大きな爆発音が連続的に聞こえていたんだが……さっき火柱が上がたんだ。ほら!」
「火柱?」
俺は振り返ると、東門の手前あたりから大きな火柱が立っているのが視界に入った。
「な!あれは!?」
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少し時を戻して……【ヤマト視点に戻る】
ドリペンネはどうも東の方向へ進むようだ。そっちは娼館エリアである。
娼館エリアは無法地帯であり、そちらの方向へ逃げられると足取りを追うのは不可能になってしまう。
(まずい……リリス。尾行するぞ。奴は娼館エリアに逃げようとしている)
(わかった。しかし、気をつけろ。奴に気がつかれたら殺されるぞ)
(まだ何も魔法使えないしな……俺)
(ただの子供に過ぎん……。くれぐれも気をつけるのじゃ。まだオヌシの戦闘力はゼロに近い)
(でもやるんだ!今逃がしたら、もう見つけられないぞ)
(うむ!)
リリスの注意を受け、俺は慎重に奴を尾行することにした。たしかに俺の戦闘能力はまだ「ゼロ」に近い。魔力操作に長けているだけで、何も魔法を発動できないし、筋力も子供に過ぎない。本当に危険な尾行だ…………。
時刻は深夜。東方向へ進むにつれ、人が少なくなってきた。最悪なことに、ドリペンネは娼館エリアに入ってしまった。
娼館エリアに入るのは初めてだったのだが、そこは別世界であった。
洋館が立ちならび、そこに肌露出が多い女性が多く道に立っている。男性の数もすごく多い。
(うわ…………人の数……やべー、見失うぞ)
俺は焦り、ドリペンネを見失わないように距離をさらに詰めた。それを見て、リリスが俺に注意を促す。
(ヤマト、距離を詰めすぎじゃ。もっと離れろ!気が付かれるぞ)
(これ以上離れると見失う。大丈夫だ。奴は気がついていない)
(………………)
リリスは少し心配そうな顔をしたが、無言で頷く。
300mほど大きな道を進んだあと、左に右に道を変え、ドリペンネは足を速めた。
(く!…………足が速い……)
もともと、俺は子供の体だ。ついていくのにやっとである。
ス…………
10mほど話され、奴が角を曲がったとき俺の視界から奴を見失った。
(そこを左に曲がったな……よし)
俺が左に曲がったときだった。
ドウン!!!
「ぐは!!」
俺は腹に衝撃をうけて、右に吹き飛んだ。
ズザァー………………
3mほど地面をスライドすると、俺は口から血を吐く。
「げほ!げほぉ!!」
(ヤマト!大丈夫か!?)
血を吐きながら見上げると、そこにはドリペンネが片足を上げた状態でこちらを見下ろしていた。
「なんだ…………ガキか……てっきり暗殺者かと思ったぜ」
「…………ぐは…………」
俺は血を吐きながら、なんとか立ちあがる。しかし内臓をやられたのか、痛みが尋常ではない。
(なんだ……すげー痛ぇぞ……)
ドリペンネの靴の先をみると、何か鋭利な刃物が装着されていた。やられたのは刺傷で相当深い。
「ぐ……血が……」
ドクドクと、俺の腹から血が流れていく。
(イカン……傷が深い。にげろ!ヤマト!お前にはまだ戦う方法は何一つない)
「く…」
俺は走り出そうとすると、すぐにドリペンネは回り込んできた。
ザ…………
「おっとぉ、逃がさないぜ。ガキ!お前なんで俺を尾けてきた、誰の依頼だ。あん?」
「……………………」
俺はゆっくりと後退する。周囲をキョロキョロと確認すると、ここは裏道なのか人が一人もいないことに気がついた。
(しまった…………誘い込まれたのか!?)
俺は焦った。人のいないところに来た以上、殺されるかもしれない。それに腹が痛くて逃げるのは不可能だ。
(殺される……殺される?俺が?こんなところで?)
初めて、俺は死の恐怖をリアルに感じた。いままで警察ごっこで捜索を続けていたが、やっていることは危険極まりない行為だったのだ。俺はそれを改めて感じた。
(なんとか時間稼ぎをしなければ、そうだ。助けを呼ぼう!)
「だれかぁ!!助けてぇ!!!」
「……………………」
しかし、ドリペンネはニヤニヤしながらこちらを黙ってみている。
「誰かぁ!!!」
俺は思い切り叫んだが、誰もこない。どういうことだ?日本ならすぐに…………
「バカなガキだ、そんな助けの声を上げたら来たくてもこねーよ。厄介ごとが嫌いな娼館エリアでは特にな!!」
ドガ!!!
サッカーボールキックの要領で、ドリペンネの鋭利な刃がついたつま先が、俺の腹にめり込み、つき刺さる。
「ぐふ……!!」
俺は腹を押さえ、さらに口から血を吐いた。
そして、地面に腹ばいに倒れた。
「コヒュー…………コヒュー…………」
口から何か変な音がする……血が腹から口いっぱいに流れ込んでくるのを感じた。
(し、死ぬのか……俺は)
4歳の子供が、190cm以上ある大男の蹴りを二発もくらったのだ。しかも刃物付……。俺は死の危険を間近に感じていた。
(ヤマト!!おのれ、この人族風情が……)
リリスは憤怒の表情でドリペンネを睨むが、それ以上何もできない。リリスは実体がないので、何も出来ないのだ。
魔法を…………せめて魔法が使えれば…………
俺はそう思わずにいられなかった。魔力操作を習ってはいたが、まだ魔法を一つも習っていない。
(基礎訓練である魔力操作だけに集中すべき、小手先の魔法など習っても有害でしかない)というリリスの訓練方針によるものだった。まさか、急に戦闘技術が必要になるとは、リリスも夢にも思っていなかったのだ。
(わ、ワシのせいじゃ……ワシがまた龍人を殺してしまう……)
リリスはガクガクと震えている。為す術なく、愛弟子であり最後の龍人であるヤマトを失うことにただ恐怖した。
ビクン!ビクン!!
「ぐは……」
ガクン……
俺は体が痙攣をはじめて、そのまま気を失ってしまった。
気を失ったヤマトを見下ろすドリペンネは、興味なさ気な表情をしていた。
「ふん……勝手に野垂れ死ね、ガキめ。さて……急いで身をくらませないとな!」
ドリペンネが唾を地面に吐き、そのまま立ち去ろうとしたときだった。
ゾワワ………………
ドリペンネは背後から強烈な殺気を感じて振り返る。
「!?」
ドリペンネは振り返り、その光景に驚いた。そこには先ほどまで地面で血を吐いていた子供が青いオーラを纏いながら立ちあがって、こちらを睨んでいたのだ。
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