第37話 リカオンとマリーシア発見
翌朝、俺は眠りから覚めると、ベッドの上で背伸びした。
「うーん!!」
昨日までの疲れきった脳が澄み渡るのを感じる。俺は朝の日課として、リリスを視覚化させた。
シュン……
眼の前にリリスが現れる。
「起きたか。おはよう。ヤマト」
「おはよう、リリス」
カーテンを外して外を見てみる。時間はまだ早朝だ。ギルドの正面入り口が確認できる。
(結構早く起きてしまったようだな……)
外の天気は良いようだ。まだ早朝なのにギルド前は人で沢山だ。本当に眠らない街だな……ここは。のちほど知るのだが、ギルドの依頼は早朝に受けることが大半で、冒険者は意外と早起きだということだ……。
俺は宿屋の1階に降りて、朝食を食べるべく食堂の椅子に座った。
食堂は主に冒険者でにぎわっている。
子供一人で座っていると、ジロジロと見られているが特段絡まれそうな気配はない。
(こ、こわい……早く食べて部屋に戻ろう……)
俺がそう思っていると、昨日のセクシー店員が俺を見つけて声をかけてきた。
昨日と違うエプロンをつけている。豊かな胸はそれでも隠しきれないようだ。
「あ、お客さん!早いのね!」
「おはようございます」
「ふふふ、おはよう。朝食の用意はできているわよ」
「ありがとうございます。お姉さん」
「たくさん食べてね、パンのお代わりは無料だからね……あ!はーい、今いきまーす。」
そういって、他のお客に呼ばれて行ってしまった。少し寂しさが残るが仕方ない……セクシー獣人店員が忙しそうに働いている。どうも受付と、朝食のホールを兼任でやっているようで、とても大変そうだ。
セクシー獣人店員は、とても目立つ。実際、他の客の熱い視線を受けていた。
(この宿って、この獣人店員で盛況なんじゃないか?)
そんなことを思いつつ、朝食を見てみると、湯気の出ている白いスープに、良い匂いのするパン。そして焼きベーコンとサラダ。芋を蒸して肉で包んである料理がプレートに乗ってきた。なかなか美味そうだ。
(どれどれ……)
パク……ゴクリ……。モグモグ……。
口に運んでみると、どれも美味い。特に何の肉なのか、ベーコンは絶品だった。肉厚でジューシーだ……スープも朝の胃袋を優しく満たしてくれる。
「美味い……この宿屋は当たりだ」
すると、グラスにお茶を入れにきてくれた獣人の店員が、嬉しそうに答えた。
「あら。気に入ってくれて光栄だわ」
「あ、ありがとうございます」
獣人の店員は、最後まで面倒見がよく、両替も済ませておいてくれていた。
「いい?大金だから気をつけるのよ、銀貨でそろえておいたから、それほど目立たないと思うけど……」
「ありがとうございます」
なんだかとても親切だ。宿屋も清潔だったし、また今夜泊まろうと思うので予約しておいた。気にいったぞ、栗の花亭……名前はともかく……
チェックアウトするときに、俺はドリペンネの情報を集めることに余念がない。
「あの……お姉さん。ドリペンネという冒険者を知りませんか?」
「ドリペンネ?ああ、あの凄腕の?」
「し、知ってるんですか?」
「知ってるわよ、この街じゃ有名なほうよ。うちは居酒屋もやっているから、たまに来ていたのよ。私に何かというと触ってくる嫌な客だけどね……」
「ど、どこにいるか知っていませんか?」
「さすがにそこまでは……でも、最近見ないわ?噂によると、ギルドともめているとか……」
「ギルドと?」
「ああ、ギルドの討伐依頼を失敗し続けてね。降格させると通達を出されたようよ。それでかなり反発していたようね」
「なるほど……ちなみに最近見たのはいつですか?」
「ここ1ケ月は見ないわねぇ……、何?お客さんはドリペンネを探しているの?」
「あ、いや……」
ここで俺が探しているという噂が立つとマズイ……しくじったか……
「あはは、大丈夫よ。私はお客さんの味方よ。誰にも言わないから」
「……ありがとうございます。お姉さんは何でそんなに親切なんですか?」
「ふふ……なんでかしらねぇ。死んだ弟と重なるからかな……。放っておけないんだよね、お客さんを見ていると」
そういうと、愛おしい目で俺をみてくる店員。その目に嘘はないようだった。
「そうですか……」
「あはは、お客さんみたく綺麗な顔はしていなかったけどね。もう……なんでこんな話をしているんだろ。変ね、私ったら」
「ありがとうございます。お姉さん、お名前を聞いてもいいですか?僕の名前は、ヤマトです」
そういうと、獣人の店員は嬉しそうな声を上げた。
「ヤマト……珍しい発音だけど素敵な名前ね!私の名前は、テカンナよ。よろしく!」
「宜しくです。では、また今夜泊まりにきます」
「待ってるからね。じゃあ、行ってらっしゃい」
「行ってきます」
俺は栗の花亭をあとにした。
さあ、たっぷり寝たし体力も回復した!今日もドリペンネの捜索を再開しようか。
「すっかり元気になったのぅ?さすが龍人じゃ」
リリスが笑いながら俺に声をかける。
「ん?龍人って回復力高いの?」
「高いぞ、龍人は大けがをしても人族の何倍のスピードで治癒することでも有名じゃ」
「スペック高いし、地上最強だったのが分かるな……」
「もう過去の絶滅種族じゃがのぅ…………」
リリスが少し悲しそうな声を上げたので、俺はあえて明るい声で続けた。
「では残り50の宿屋をチェックして、もしそれで見つからない場合は違う手を考えよう」
「うむ、そうじゃな……はぁ、またやるのか。ワシ憂鬱じゃ」
リリスはそういうと、苦笑いを浮かべながら肩を落とした。
「そう言うな、リカオンとマリーシアのためだ」
昼間にこのチェックをするのは無意味かも知れない……。真昼間から宿屋にいるとは限らないからだ。このチェックを深夜にすべきかもしれないが、俺とリリスの推測では用心深いターゲットは、おそらくあまり宿屋から出てこないだろう、とも推測している。リカオンとマリーシアも宿屋には目を光らせているだろうし、ターゲットからすると宿屋から出てくる瞬間が一番危険なはずだ。
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しかし、残りの宿屋をすべて数時間かけてチェックしたが、ターゲットを見つけることは出来なかった。
「まじか……どうしよう。リリス」
「うむ。宿屋にはほぼいないとみて良いじゃろう、となるとターゲットが亡命しようとしている瞬間を押さえる以外ないじゃろうな……」
「そんなタイミングもわからないのに?」
「ほかにどうしようもあるまい……」
「困ったな……」
俺が困っていると、前方の店から見慣れた男女が出てくるのを発見した。あれは!?
(まずい!!リリス!物陰に隠れろ!!)
(な、なんじゃ!?)
俺は近くにあった店の立て看板の後ろに身を隠した。
考えてみればリリスは他人に見られないので、俺一人だけ隠れれば良いと気がついたのは、その後だった。
店から出てきたのは、リカオンとマリーシアだった。彼らは道の隅で何やら真剣な顔で打合せをしている。
リカオンは腰に長剣を、マリーシアは左手に、自身の身長ほどもある魔法杖をもっていた。二人ともフードをかぶっているので、俺でなければリカオンやマリーシアと分からなかっただろう。幸いにも、向こうはこちらに気がついていないようだ……。
俺は身を隠しながら慎重に顔を出して彼女たちの様子をうかがう。
(リ、リカオン……マリーシア。ここで見つけられたのは僥倖だ)
(たしかに……リカオン達の居場所も掴んでおく必要があったしのぅ)
(よし、今日の作戦は変更だ。リカオン達をつけて、二人の居場所をはっきりさせよう)
(声をかけて一緒に探すわけにはいかぬしのぅ……)
(そりゃ無理だ。子煩悩な二人が、俺に危険な橋を渡らせるわけがない)
(じゃの)
こうして、その日は俺はリカオン達を尾行する一日とした。
普通のAランク冒険者であるリカオン達を尾行するなど通常は不可能だが、こっちにはリリスがいる。そのアドバンテージは有効だった。リリスを先行させて、十分な距離を取って尾行をしたので、二人は俺に気がつかない。無事、リカオンとマリーシアが宿泊している拠点を発見できた。そこは、宿屋ではなくギルドが用意したであろう、閉店している商店だった。隠れるにはもってこいの場所ともいえる。




