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イケメンに異世界転生したら森に捨てられてた件  作者: 八条院せつな
第一章 ヤマト幼年時代
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第36話 栗の花亭

謎の少女がお金をポケットに入れてくれたので、お金の心配はなくなった。さっそく宿屋を探しはじめる俺とリリス。早く見つけないと都の固い石の上で眠ることになる。犯罪率が高い王都の夜に、子供が一人で寝ていたらトラブルに巻き込まれる可能性も高い。


「しかし、夜になっても王都は活気があるな……」


俺は街中を歩きながら、カタナール村とは全く違う。都心の夜を味わっていた。夜になるとガラリ雰囲気が変わり、レシータの街道には、飲み屋やレストラン、宿屋の灯りが街を彩っていた。


「いらっしゃーい!今日飲むならここ!お兄さん!どうですか!?」


「今日は美味しい酒が入ってるよ!こっち、こっち!」


「宿屋は決まっていますかー?今日の宿はうちでお願い!」


そこかしこに呼び込みが立っていて、活気にあふれている。


(す、すごい活気だな……、前世に住んでいたところを思い出すな)


まだ小さい子供の俺は呼び込みからすると対象外なのか、まったく声がかからない。


歩いて辿りついたブロックは「商業ブロック」だ。一番、活気があるブロックであり、夜になると若者が集まる場所でもある。宿屋はここが一番多い。


レストラン、娯楽、観光施設、さまざまな商店が、今日一番の稼ぎを目指して動きだしていた。


(はは……どこから溢れてくるんだろう。昼間とは違う人がたくさんだ)


街中は、カップルや観光客であふれかえっている。周りが喧噪に包まれると孤独感が増していく。なんだが、不思議な感覚だ。世界で一人きりという気持ちになってしまう。


俺のいた村ではこのような光景はない。陽が沈むと、皆家に帰って夕飯を食べて寝る準備をする。それが常識であった。


否が応でも、俺は部外者なんだと痛感してしまう。勘違いなんだろうけど……


(なんだか不安になってきた…………)


俺が不安そうな顔をして立ちつくしているとリリスが俺の顔を覗き込み、笑った。


(小動物のような顔をしておるぞ?何しとるんじゃ。早く宿屋を探すのじゃ)


(うわ!お前、いきなり顔をアップにするなよ)


(なんじゃ、照れておるのか?)


(て、照れるかよ!行くぞ!)


俺はリリスと一緒に会話をしているうちに不安が吹き飛んだ。


(そうだ……俺にはリリスが居た)


不思議とリリスがいると、「孤独ではないんだ」という気持ちになる。少し安心した俺は、気を取り直して宿屋探しに着手した。


といっても、さんざん宿屋を見てきたから当たりはついている。場所は冒険者ギルドから近い場所がいいと思ったので、通りに面した大きい宿屋にした。


「ここだ、この宿屋が一番ギルドを監視できて便利そうだ」


「ほうここか……たしかにのぅ」


宿屋の看板をみると、「栗の花亭」と書いてある。


(やけにイカくさそうな名前の宿屋だな)


俺は一人で村の外に出たこともはじめてだが、宿屋に一人で宿泊することも当然はじめてだ。


(子供一人で宿泊させてくれるのだろうか……俺の元の世界では警察に通報されるのが関の山だろうけど……)


「どうした?入らんのか?」


リリスが俺を急かす。


「リリス、俺は子供だが宿屋は泊めてくれるだろうか……」


「泊めるに決まっておるじゃろうが」


「だって子供一人って変じゃないか?」


「確かに変と思われるかもしれんが……」


「王都兵に通報とかされないかな……」


「何のために?」


「いや、小さい子を保護するために」


すると、リリスは笑った。


「そのような酔狂な店はないじゃろう。それはオヌシの元いた世界の常識なのか?」


「ああ……そうだけど……」


「随分と優しい世界じゃな。この世界では、誰が死のうが、誰が家出しようが興味はない。興味があるのは「金を払うか、払わないか」じゃろう」


「そ、そうなのか……」


「うむ、問題ないじゃろうから入ってみるのじゃ。ほれ」


「わ、わかった……」


俺は、意を決して宿屋のドアを開いた。


ギィ……


「いらっしゃーい。あら?子供?」


入ると、そこには猫耳のお姉さんがカウンターに立っていた。胸なんかハチ切れんばかりである。スタイルがメチャクチャ良い。


猫耳は、アクセサリーではなさそうだ。


(獣人族!おぉぉ……感動だ!)


この街にきて、獣人族はかなり見たが、ここまで美人な獣人族は初めてだ。少しテンションが上がってきた。


「お父さんやお母さんは?一人?」


獣人の店員は、俺のことを覗き込むようにカウンターから声をかけた。胸が大きいため、カウンターに胸が乗っているようにも見える。Fカップはあるぞ……


「はい、子供ですが泊まれますか?」


「もちろん!子供でも老人でも泊まれるわよ。お金さえ払えばね!悪いんだけど。お客さん。お金はある?」


「……」


コトン……


俺は半金貨を一枚カウンターにおいた。それを見た店員は驚き、金貨をつまみ吟味した。それはそうだろう、半金貨で日本円にして100万円ほどの価値がある。


「これは……半金貨。しかも本物ね!お客さん貴族?みなりも良いもの着てるし」


「……」


「……答えたくなければいいわ。お金さえいただけるなら、何でもいいもの」


「ありがとう」


「お金は先払いなの、一泊7000クランよ。どうする?」


俺は迷った。


(場所もいいし、ここで連泊しておいたほうがいいのでは?いやいや、様子を見るためにも連泊は明日考えてもいいだろう)


「お願いします、とりあえず一泊でいいです」


「わかったわ!でも、どうしようかしら、半金貨だから両替が大変ね……、おつりがないのよ」


「え?」


「ギルドにいけば両替はしてくれるだろうけど、あなた一人なんでしょ?」


「ええ、僕一人です」


「だとすると、子供一人で両替所に行くのは危険ね……手数料も取られるし」


店員は少し考えるような仕草をすると、決断したのか表情を明るく変えて俺に提案してきた。


「特別に明日の後払いでいいわ、明日までにこちらで両替を用意しておくから」


「いいんですか?」


「いいわ、社長には内緒よ」


パチっとウィンクをする店員……めちゃくちゃ可愛い。


「き、金貨を預けておきましょうか?」


「……お客さん。それはやめておいたほうがいいわ、私が猫ババする可能性もあるでしょ?」


(猫だけに?)と心の中でぼけてみたが、冗談はさておいて……


「でも、お姉さんはそんなことしないでしょ?」


すると、店員は少し驚いた顔をして俺のことを優しい顔で見た。


「ふふふ。貴族さんなのに獣人族のことを悪く思っていないのね……ありがとう。でも、それはやめておいたほうがいいわ。じゃあ、明日の朝、改めて半金貨を提示して頂戴。両替を用意しておくから」


「わかりました」


「ふふふ、もうちょっと大きかったらサービスしてあげるのに」


「サービスって?」


「ううん、もうちょっと大きくなったらね!さ、部屋に案内するわ」


そういうと、獣人のセクシー店員は俺を部屋に案内した


ガチャ……


「真っ暗で見えない……」


「ロウソクは何本にする?1本50クランよ」


「え?明かりも自分で買うのですか?」


「あはは!あたり前よ。本当にお坊っちゃんなのね。ほら、2本もあればいいかしら?100クランは付けておくわね」


そういうと、店員はロウソク2本をエプロンから取り出すと、火をつけて部屋の奥と手前に設置した。よくみると、蝋燭台がおいてある。


(なるほど……電気がない世界だから仕方ないか)


後ろを見るとリリスが笑って立っていた。ちなみに店員にリリスは見えない。


(世間の常識について教えてやればよかったのぅ……)


部屋を見てみると、一般的な宿泊施設という感じだが、清潔そうなシーツに俺は気を良くした。


ここなら疲れを癒せそうだ……


「お湯とタオルはどうする?外の井戸で水浴びは無料サービスだけど。お湯は300クランよ」


(そ、そうか……風呂なんか無いのか。部屋で汗をぬぐうだけなのか。しかも有料)


「じゃ、じゃあ……お願いします」


「わかったわー。後でもってきてあげる」


部屋のドアに立っている獣人のセクシー店員は、注意事項を説明して去っていった。


朝食を希望なら、前日の夜までに伝えておくこと。さらに水浴びをするなら早朝にすること、などなどだ。なぜ早朝限定?と聞いたら、「夜はロウソクもいるし、追いはぎに遭うから」と答えてくれた。なんとも物騒な世の中である。また、もし連泊したい場合は、先払いにて払う必要があるらしい。


店員が去っていくと、すぐにお湯を張った桶とタオルを2枚持ってきてくれた。落ち着いたのを確認すると、俺はベッドの上に体を預けた。


ボフ!


呆然と俺は天井を見上げた。歩いて痛かった足の裏が、癒えていくのが判る。


(ふぅ……疲れたな……)


(ワシは疲れたので、オヌシの中で休むことにするぞ)


(ああ、お疲れ。また明日頼む)


(うむ……気が重いのぅ……)


シュン……


リリスが俺の視界から消えた。そして、俺の中に戻ったのを感じる……。


(戻ったか……、しかしこの巨大な都市の中でどうやって、奴を本当に見つけられるのか……)


バフ……


俺は倒れるようにベッドに横になる。明日からのことを考えねばならないのだが、瞼が自然と落ちてくるのを感じる。


(リカオン……マリーシア……俺が……ぜったい……死なせない)


そして、俺は谷底に落ちるように眠りの世界へ誘われた。

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