第35話 宿屋捜索
俺が呆然としていると、横からリリスの声がする。
「ヤマト。何を呆けておるんじゃ。アホみたいな顔をしとるぞ」
「!」
俺が驚くと、リリスがそこに立っていた。俺を見つめて呆れたような顔をしている。左手は腰に手を当てて、右手は顎に添えてある。彼女のお決まりのポーズだ。超美人なだけにサマになっている。
「リ、リリス……いつからそこに居た?」
「さっきじゃ、どうしたんじゃ?アホみたいな……」
「それはもういいって!うるせーよ!」
「ははは、怒るな。どうしたんじゃ?何があった?」
「……何でもないよ。ちょっとハイエルフの子に声をかけられてさ」
「ハイエルフ?ほう、珍しい種族に出会ったもんじゃな」
「もう行ってしまったけどな」
「そうか。何か言われたのか?呆然としておるが」
「いや、普通に良い子だったよ。心配ない」
「ならば良い、それよりも収穫があったぞ」
リリスは伝えたいことがあるのか嬉しそうな表情に変わった。
「お?収穫あり?」
「ありありじゃ!喜べヤマト。ターゲットの情報を掴んだぞ」
「!?ま、まじか!?」
「うむ。ターゲットの名前は「ドリペンネ」。30歳のAランク冒険者じゃ」
「ドリペンネ……覚えた」
30歳ってことは、結構ベテランの冒険者かもしれない……。リカオンは20代前半なので、身体的有利はリカオンにあるのかも……。
「ドリペンネは優れた魔法剣士じゃ、相当腕が立つらしいのぅ。まぁ人族のレベルじゃわい。たかが知れていると思うが……」
「魔法剣士……」
リカオンも魔法剣士だ。とても珍しいジョブだ。
「うむ。リカオン殿、危ういかもしれぬのぅ」
「リカオンの剣技も結構すごいぞ」
「うむ、一度見たことがあるが、剣筋は悪くない」
そうなのだ、リカオンは剣と魔法をバランス良くこなす魔法剣士。その腕前はリリスも「人族の中でも高いレベル」と評していた。ドリペンネと戦って、リカオンは負けるとも限らないのだ。
話がそれた……いまは情報だ。
「そ、それで奴の居所は?」
「当然それも掴んできた。しかし、当てにならんぞ」
リリスは少し忠告するかのような口調になる。
「どういうことだ?」
「うむ。ドリペンネはレシータのはずれに住んでおるが、警戒してからなのか。宿屋を転々としているらしい」
そりゃそうか……自分が国に疑われているとしたら、俺だったら住所がわからないようにする。用心深い人物と思われる。これは厄介だぞ……
「なるほど……その情報は、当然リカオンたちも掴んでいるよな……そうだ!?リカオンたちは?どこにいる?」
「残念ながら、すでに依頼に着手していて、ギルドの中でも情報封鎖が行われていて判らんかった。ギルドにはいなかったのぅ」
(あくまでギルド側はリカオンの存在を隠しておくつもりか……失敗したら殺すように……くそ!)
俺は焦りを感じつつ、すぐにでもドリペンネの居場所を突き止める必要性を感じた。
「わかった。そのドリペンネって奴の居所を掴んで、リカオンたちに伝えれば、この勝負は勝ったも同然だ」
「寝床を襲えば、いくら優れた魔法剣士と言えども対応できんじゃろうからな。リカオンも魔法剣士じゃし勝機はあるじゃろう」
「そのドリペンネって奴の顔は?」
「ああ、魔法絵画があったので、それを見てきた。バッチリ覚えたぞ」
魔法絵画とは、いわゆる「写真」だ。相当精密に描かれるので、とても貴重な技術である。一枚の魔法絵画を作るのに10万クランはする。
「良く魔法絵画なんかあったな……」
「どうもギルドではAランク以上の危険冒険者は、管理のために魔法絵画を取るらしいの」
「そうなのか。ということは奴はもともとギルドから危険視されていたんだな」
「そういうことじゃろうな」
「そのおかげで情報がかなり取れた。でかしたぞリリス!」
「ふはは!周囲から見えないから、やりたい放題じゃわい。結構面白かったぞ」
俺達は、さっそくドリペンネって奴の潜伏場所を探すことにした。この街には100を超える宿屋があるらしいが、しらみ潰しに調べるしかないだろう。100くらいであれば、今日一日で調べられると思う。かなり大変だが……こっちにはリリスがいるので、やりやすい。宿屋の部屋に無断侵入をしてもらい、リリスに一部屋一部屋調べてもらえばいいんだから。
10軒目の宿屋の調査に入ったとき、リリスが青ざめた顔で俺に訊いてきた。
「も、もしかして100軒すべてワシやるのか?」
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しかし、50を超える宿屋を調べた結果。ドリペンネを発見することはなかった。リリスはぐったりだ。
「も、もう勘弁してほしいのじゃ。結構しんどいのじゃ」
「ど、どうしてだ……宿屋にいないってことはどこか外にいるのか?」
「いや、それはないじゃろう。検問を張っているし、国が街から奴を出さないようにしているからのぅ……絶対、このレシータの中にいるはずじゃ」
「宿屋をこれだけ調べて発見できないとは……」
「まだ半分の宿屋しか見ておらんから何ともわからんがの」
「たしかに……結構時間がかかるな。これ……」
「じゃな……しかし宿屋にいないとすると厄介じゃぞ。このレシータは世界でも二番目に大きい。奴を発見することは不可能じゃ」
「こまったな……すべての宿屋をチェックしたら、次の手を考えるか」
「そうじゃな、今日はここまでにせんか?1日でターゲットを補足すること自体無理じゃ。ワシは疲れたわい」
「く……うまくいくと思ったのにな」
「奴もバカではあるまい、そううまくいかんよ。知恵比べじゃ…………それよりも、夜も更けてきたぞ。どうするんじゃ?」
「どこか宿屋を探して泊まるしか……」
「オヌシ……金を持っているのか?」
俺はそれをリリスに言われて青ざめた。そういえば、自宅から金を借りてくるのを忘れた……、そもそもこっそり出てきたから、借りれるような状況では無かったのだが。
「やべ……持っていない」
「1クランも?」
「うん、1クランも持っていない」
「となると今夜は野宿か……しかし、子供の野宿は危険じゃぞ」
うーん…………今まで暖かいベッドの上で眠る生活をしていたので、そこら辺の固い地面の上で眠れる自信がない。第一、王都の治安は悪い……すぐに追いはぎに遭うか、殺されてしまうだろう……。危険すぎる……。
「困ったな。金……金があれば……」
俺は無いと分かっていながらも、胸ポケットをまさぐってみた。
チャリン…………
俺のポケットから金属音がした。
「うん?」
俺は音がしたので、ポケット上からパンパンと叩いてみる。
チャリ……チャリン……
(た、たしかに金属音がする。しかもコインの音だ!)
俺はポケットから手を取り出してみる。そこには金貨が2枚ほど入っていた。
「は、半金貨だ……」
この世界での通貨は、以下である。ちなみに1クラン=日本円で1円と換算して差し障りない。
半石貨=1クラン
石貨=10クラン
半銅貨=100クラン
銅貨=1000クラン
半銀貨=1万クラン
銀貨=10万クラン
半金貨=100万クラン
金貨=1000万クラン
半白金貨=1億クラン
白金貨=10億クラン
つまり半金貨1枚で、100万クラン……日本で換算するに100万円どの価値がある。俺のポケットに2枚の半金貨、つまり200万クラン相当が入っていたのだ。大金である。
「おおぉ。やったではないか、それがあれば今夜は宿屋に泊まれるぞ」
「しかし、この金貨はどこから…………」
俺は昼間に出会った。グリーンヘアーのハイエルフの少女の顔を思い浮かべた。
「まさか、あの子が……いつの間に俺のポケットに?」
俺が固まっていると、リリスが面倒くさそうに俺を急かす。
「はやく宿屋で休むのじゃ。ワシは今日は疲れた……」
「お前、実体がないくせに疲れるのかよ」
「失礼な、ワシだって疲れるわい。身体的にというより、精神的にな」
精神的に……なるほど……。俺は変に納得して笑ってしまった。
とにかく、俺は宿屋に向かった。
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