第34話 ツインテール少女
「そんなところで何やってるの?」
俺の眼の前に、輝くようなグリーンヘアーの美少女が立っていた。少女は無表情に俺を見つめている。
俺は驚いたのと、少女の美しさに呆気に取られた。うまく反応が取れない。
なので、そのまま返事をしてしまった…………
「何って……ちょっと人を探しているんだ」
「そんなところで?」
俺は自分のいる、建物と建物の間を振り返った。
(しまった……説得力ないよな……)
俺は慌てて、しどろもどろになる。
「あの、それはその…………」
「君…………凄いね」
「え?……」
俺はその少女の透き通るようなブルーアイに目を奪われた。とても整った顔をしているし、どこか不思議な雰囲気をもっている。
「すごいって何が?」
「……人ではない。何者?」
俺の眼を見つめながら、少女はそう告げた。
「ひ、人じゃないって?何のジョークかな」
「………………」
少女は無言で俺のことを見つめてくる。(や、やりにくいな。この子)
ちょっとイタイ子なのだろうか。俺は苦笑いをする。
「まぁ、いいわ。あなた……綺麗な顔ね。そう、男の子なのね。はじめ女の子かと思ったけど……それに、その髪は生まれつき?」
「俺の髪?ああ、よく言われるんだ……」
そう、俺の髪は、この世界では珍しいブルーカラーだ。マリーシアやリカオンからは、「綺麗なウォーターブルー」と褒められる。それに性別を間違えられるのも頻繁にあることだ。
この世界の人たちの髪の色は、ゴールド、シルバー、ブラウンが多い。俺のようなブルー、そしてグリーンは世界に何人もいないと言われている。そして、その世界に何人もいないと言われている髪色の子が、今ここに集結している。
「君の髪こそ綺麗だね、吸い込まれそうだ」
「ありがと…………」
「………………」
無言になる二人、それ以上会話が続かない。
俺は気まずくなってきたので、こちらから声をかけることにした。
「君は?見たところ、同じくらいの年齢に見えるけど」
「ちがう……私はこう見えて15歳」
「え?うそ……」
「嘘じゃない…………」
少女は、少し頬を膨らませながら、腰に手を当てて不満を表現した。まるで人形のような顔にポーズを取らせると、ここまでインパクトがあるのか……と俺は痛感した。
(そ、そんな可愛いポーズ取られても……)
「…………そうか、君はエルフなんだね」
エルフの成長はとても遅い、長命な種族だからなのか20歳までは成長が著しく遅いと聞いたことがある。
少女は、首を左右に振った。
「それも違う、私はハイエルフ」
「え!?君 ハイエルフなの!?」
俺は驚いた。ハイエルフといえば、エルフの中でも一握りしかいない、いわば突然変異の種族だ。巨大な魔力と、特殊なスキルを持つことでも有名だ。ハイエルフは、王や種族長に収まると相場が決まっている。この子は王族だったりするのか?こんなギルド前で何しているんだろうか?
少女……と言っても、すでにこの世界では成人年齢である15歳のハイエルフは、少し誇らしげだ。
「すごい?」
「す、すごい!すごい!」
「君のほうが凄いけどね……君は何なの?」
「な、何と言われても…………」
「種族は?」
「え?俺は…………」
俺は一瞬言葉に詰まった。種族的には龍人なんだけど、この世界では絶滅してしまっている。俺は少し間をおいて答えた。
「人族だよ」
「うそ」
「即答!?」
「人族のはずがない。そんな魔力オーラは見たことない」
「君は魔力が視えるの?」
俺ですら、魔力を視る訓練をしてようやく身につけたというのに、この子は俺の魔力が視えるという。ん?おかしいな。俺魔力を出していないはずなんだけど……
「うん、見える」
「おかしいな、魔力を出していないんだけど…………」
「出ている魔力を視ているんじゃないの、君の中にある潜在魔力を視ているの」
「…………せ、潜在魔力」
「とっても綺麗な魔力。ブルーの君の髪のようだよ」
「俺からは見えないけど、君は人に見えないものが視えるんだね、素敵だね」
「………………」
少女は少し意外そうな顔をして俺の眼を見つめた。
「ど、どうしたの?」
「そんなこと言われたの初めて……大概怖がられるから」
「そうなんだ。俺はすごいと思うけど……そ、そんなに見つめないでよ」
少女は、俺の顔を見たまま微動だにしなかったが、微笑をした。
「決めた…………」
「え?決めた?」
どういうこと?まじで、やりにくいんだけど……この子……いや「子」ではないのか。成人しているわけだから。
「私、あなたのお嫁さんになる」
「お、お嫁さん!?」
「うん、妻。配偶者。奥さんになる」
「い、言い方はどうでもいいけど…………」
「だめ?」
「だ、だめじゃないけど…………」
「じゃあ、いいってこと?」
「りょ、了解はしていないけど…………」
「……………………」
涙目になるハイエルフ。俺は困ってしまった。
「わ、分かったよ。お嫁さんね、はいはい。将来なりましょう。俺が旦那様に」
「……!?本当!?」
「本当、本当」
俺は適当に答えた。もう、この面倒くさいやりとりから解放されたいのもあったのだ。どうせ、俺は用事が済んだら王都から帰るし、こんな約束したって無意味だからだ。
「嬉しい!」
そういうと、少女はツインテールの髪を結んでいる紐を解いた。
パサ………………
太陽に輝き、まるで宝石のようなグリーンヘアーが宙を舞った。そして、ストレートヘアーになるハイエルフ。
「これあげる」
少女はそう言うと、先ほどまで髪を結わいていた紐を俺に渡そうとする。色はブルーで綺麗だ。
「え?それ?」
俺は驚いて、それに手を伸ばさない。少女は俺の手を握り、無理やり押し込んだ。
「これは、月の蝶のさなぎが出す、月の糸から作った髪結い。かなり貴重」
「そ、そんな貴重なものもらっていいの?」
「うん。旦那様だから」
「あ、ありがとう」
とりあえずもらっておく……俺はポケットにしまおうとする。
「ポケットにしまわないで、落とすと困る」
ハイエルフは悲しそうな顔をする。
「じゃあ、どこにしまえばいいの?」
「そうね……手首に結んであげる」
そういうと、少女は俺の手首に、月の糸を結んだ
「あ、勝手に…………」
俺は解こうとすると、少女は悲しそうな顔をする
「解いちゃうの?」
「いや……、その……あぁ!もう分かったよ!結んでおけばいいんだろ?」
「ふふ。月の糸は貴重……大事にしてね」
ハイエルフの子は、嬉しそうに笑顔を見せた。その笑顔がむちゃくちゃ可愛い。
「あ、もう行かなくちゃ……あなた。困ったことになるはずだから、そのときは、あそこの小屋を覗いてみればいいよ」
そう言うと、少女は道の真向いにある古ぼけた一軒家を指さした。
「あのね……あれは小屋じゃなくて、一軒家」
「そうなの?」
「どうみてもそうだろ!」
「うちのペットの家と同じ大きさだったから……」
(どんだけ規模が大きい家に住んでるんだ。この子)
「とにかくバイバイ。またね。また会おうね」
そういうと、ハイエルフの少女は走って行ってしまった。
(行ってしまったよ……。なんだったんだ、あの子……)
俺は呆気に取られて、彼女の後ろ姿を見送った。




