第32話 暗殺依頼
転生して色々あったが、4歳になった。親の愛情を一身にうけて育っている。友達もできた。あんまり話は合わないけど……俺の精神年齢は39歳なので、話が合うわけがない。
あんなに好きだったエッチィ動画とか、本などを見ないで4年経過しているわけなのだが、不思議と禁断症状はない。体が子供だからか、そういう欲求がないんだわ。不思議なことに……。
さて……、それはさておき。親に魔法が禁止されているので、この3年間、リリスの指導に従って毎日毎日、魔力の圧縮に専念してた。隠れて練習するのって大変よ。
3年もの間、そればっかりやってるのってどうなのよ?と思って文句を言ったが……。リリスは「昔は魔力の圧縮に5年は費やしたものじゃ」と言っている。3年でマスターとしたのは早い上達らしい。
しかし、神の子というほどでもないような……。
リリスも俺も、オステリアの体を半分もらっている俺は、すさまじい潜在能力を持っているとみていた。しかし、ここ数年の成長ぶりを見てみると「かなり成長は早いが人外というほどではない」というレベルだ。
(どうなってるんだろう……?不安になってくる)
まぁ、過度の期待は禁物だ……。前世の人生からみると俺の未来は可能性に満ち溢れている。
ある日の午後、リカオンが真剣な顔で家族会議を開いた。リカオンと会うのは久し振りだ。リカオンは王都に呼ばれてギルド長と会っていたらしい。ギルド長に何か言われたらしいが……
俺も同席させてもらっている。リカオンの意向で、息子には重要な会議には出てもらい、家族の一員ということを認識してもらうということらしい。すばらしい教育だと俺は思う、リカオンはしっかりしているな。
「マリーシア、とある依頼を受けた。それもオーダー(指名依頼)だ」
「え……オーダー(指名依頼)?」
マリーシアが驚く、オーダーとは?
「父上、オーダーとは何ですか?」
この頃になると、俺の口まわりの筋肉は発達しており、物の言い方もかなり大人びていた。両親も小さい頃こそ驚いていたが、いまは普通に受け入れている。「天才だから」というカテゴリーらしい。
「ヤマト、オーダーとはギルドに依頼した人が、依頼を受ける冒険者を指定できる制度のことだよ」
「なるほど……」
「それで?どんなオーダーだったのかしら?リカオン?」
「うむ……、ヤマトの手前言いにくいのだが……暗殺依頼だ」
「…………!そんな、もうそういう依頼は受けられないってギルド長には言ってあったのに……」
マリーシアは顔を固くした。目が怒っている。
「俺もそう言ったのだが、依頼内容を聞くと俺しか受けられない内容なんだ……」
「……それで?受けるつもりなの?」
「やらなければ冒険者資格を剥奪だそうな…………」
「……もういいじゃない!冒険者なんてやめてしまえば、こうして息子もできたんだから!」
マリーシアは、横にいる俺の手を握った。彼女は真剣にリカオンを心配しているようだ。
「父上、その暗殺する相手というのが、父上でなければ殺せないほどの手練れということですか?」
「強い……本来であればSランク冒険者がうける相手だ。しかし、今回の依頼の場合、重要なのは相手の懐に入れるかってところだ。その前提として顔がバレていないことが最も重要。俺の場合はしばらく冒険者稼業から退いていた。……つまり……」
「相手は同業者ってこと?」
「理解が早いな、ヤマト。えらいぞ」
リカオンは感心したかのように、腕を組んで改めて俺を見た。その目は慈愛に満ちているし、誇りに思っているようだ。
「同業者……、ラスタリス王国の冒険者なのですか?それとも他国の?」
「いや、王国内だ。どうも、冒険者ギルドの情報によると、ラスタリス王国の情報を他国に漏らしている冒険者がいるらしい。それを暗殺せよとのこと」
「その相手というのは、他国のスパイなのかしら?」
「ギルドは、半分以上その証拠をつかんでいるんだが、まだ確定ではないらしい。しかし、ほぼ黒だろうということだ」
「証拠をつかんでから捕まえればいいだけじゃない。あなたを使って暗殺なんて……」
「ギルドが疑っているというのをターゲット(暗殺相手)は、勘づいていてね。他国へ亡命する動きがあるということだ。そうなると、情報はもっと洩れるし。早めに暗殺しておくべきだということらしい」
「国は把握しているのかしら?」
「もちろん、ラスタリス王もご存じだ。これは王からの厳命でもあるらしい。ギルド長も参っていたよ」
「…………それじゃあ断ったら、ただじゃ済まないわね……」
「そうなんだ。王も期待している」
「………………」
食卓に沈黙が流れる……俺の父親が暗殺をする。そのこと自体に俺は衝撃を受けていた。映画とかでしか見たことないシーンだ、それが現実の話として上がっているのだ。何と言ってよいのか分からない。
「ターゲット(暗殺相手)は、王都にいるのね?」
「ああ、そうだ」
「Sランク冒険者が受けるべきってことは相手はまさかSランクなの?」
「まさか……Sランク冒険者は国の顔だ。身元もしっかりギルドが押さえているしね。相手は同じAランクだが……」
「?」
リカオンは、妻をこれ以上心配させたくないのか。言葉に詰まっていた。
「素行が悪くてSランク認定されていないだけで、実力はSランクらしい……」
「…………分かったわ。私も行く。王都へあなたと一緒に行くわ」
「ばかな……ヤマトはどうするんだ。お前はヤマトを見ていてくれ」
「…………バカはあなたよ。あなた……死ぬわよ」
「わかってる」
「…………」
死ぬ?依頼を成功させればいいんだろ?何故死ぬんだ?
「母上、なぜ父上が死ぬと分かるのですか?」
すると、マリーシアは俺の眼をまっすぐ見つめ、そして答えた。
「ヤマトちゃん。今回の依頼はワンチャンスのみ、暗殺に成功しなければターゲットは確実に逃げてしまうわ」
「はい、そうでしょう」
「国がそのようなリスクを負うと思う?たぶん、暗殺に失敗した時点で、今度は国の軍がターゲットをすぐ殺すわ」
「最初から国が動いてくれればいいのに……」
「そうもいかないの、大義名分というのがないと国は動けないのよ」
「それで父上が死ぬというのは?」
「国が動くということは、この暗殺自体を事故に見せかけるはず……つまり、リカオンは良い材料というわけ」
「……!?今度は国に父上が暗殺されるということですか!?」
「……そうよ」
「なんて汚い……」
俺はラスタリスという国が凄くいやらしい組織に見えてきた。きっと王様もろくでもない奴なのだろう。
「ヤマトちゃん。勘違いしてはいけないわ。ラスタリス王は良い人よ、あのかたにも立場と役目があるの、これは仕方のないことなのよ……」
「母上は、ラスタリス王と面識があるのですか?」
「あるわよー、パパもママも有名だったんだから……」
俺はそこまで聞いて考えた。リカオンが死ぬかも知れない……
それは大問題である。俺はリカオンが大好きだ。実はリカオンともマリーシアとも血がつながっていないが、彼はいつも俺のことを真剣に考えてくれている。そして俺のことを愛しているのをすごく感じる。
良い父親、良い母親、そして良い両親であり、暖かい家庭。
俺が前世で望んでいたものだ。前世での両親は俺が小さいころに交通事故で他界してしまい、家庭というものを知らない。そのせいで随分と肩身が狭い思いもしていた。
俺は常々思っていた。「こんなが家庭があったらな……」と……理想的な家庭だ。やっと手に入れたのに……
リカオンが死ぬかも知れない……いや、その確率は非常に高いように思える。
俺は横にいるリリスに目をやる。実は、この食卓にはリリスも同席している。彼女の姿は、当然に両親には見えない。リリスとはいつも一緒だ。彼女は、あまり興味がないように面倒くさそうに話を聞いていた。リリスからすると、早く話を切り上げて魔法訓練をしたいのだろう。まったく……
(リリス……そうだ!リリスは他人には見えない!)
俺はそれに気がついた。リリスを使えば、リカオンが助かる確率はグンと上がるのでは?俺は腹を決めた。
「父上、母上、行ってきてください。僕は大人しく家で待っています」
「……!ヤマト?」
「……ヤマトちゃん?」
「僕は父上も母上にも死んでほしくありません。母上が参加すれば、父上が生き残る可能性が高まるのでしょう?父上?」
すると、リカオンは戸惑ったような顔を浮かべた
「それはそうだが…………」
「では母上を連れていってください。僕を片親にしたいのですか?」
リカオンは呆気に取られていた。マリーシアは俺の頭を誇らしげに撫でた。
「ヤマトちゃん。分かったわ。私はリカオンと一緒に行くわ。ねぇ、リカオン。いいでしょ?ヤマトちゃんはしっかりしている、ナタルに任せれば大丈夫よ」
「………………」
リカオンは迷っているようだ。彼の頭の中はいったいどうなっているんだろう。しかし、マリーシアの言葉が決め手となった。
「あなたを死なせるわけにはいかない。絶対によ……!家族全員そろっていないと家族じゃないの!」
「そうですよ、父上。僕は大丈夫です。母上を連れていってください」
「しかし……、うん。わかった。ありがとう、マリーシア……ヤマト」
こうして、翌日にリカオンとマリーシアは王都に向けて旅立つことになった。
自室に戻り、すぐにリリスが話しかけてきた。
「ヤマトよ、何を考えておる。オヌシ……家で大人しくお留守番をするつもりではあるまい?」
「ああ、俺は……リカオンとマリーシア、どちらも死なせるわけにはいかない。俺も王都へついて行く!!」
「……!」
そう答えるヤマトの表情に、かつて見たカリアースの面影をリリスは見た。
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