第30話 スプーン
魔力操作訓練は続く。リリスは無理難題を次々に俺にふっかけてくる。
(ふむ、次にその魔力を圧縮して、丸い球体にするんじゃ)
何?球体?何言ってんだ?
(うそだろ?出来るわけないし!第一見えないし!)
俺は文句をリリスに言う、だって無茶苦茶だろう?見えないものを球体にしろとか…………。
(文句が多いぞ、ヤマト)
(だってよ……、無茶苦茶だぜ?お前の言ってることって)
(……できないことをワシは言わん)
(そ、そうなの?わりと出来るものなのそれって)
(昔の龍人の子供達は、そうやって訓練していたものだ。オヌシのような赤子は見たことがないが……)
そりゃそうだろ、こんな赤ちゃんだと意思疎通を取ること自体が不可能だ。
(つーかさぁ……それやらなければダメ?俺は魔法を早く使いたいんだけど……魔力操作ばっかりじゃない。飽きるんだよね。早く何か使わせてくれよ?)
リリスは俺の言葉に若干顔をしかめたが、やさしく諭すように説明を続ける。
(魔法に習熟するのにすぐ魔法を連発させる師匠もいるが、まず魔力操作に集中すべきなんじゃ。ではないと、大成せんぞ)
リリスは俺の不平不満にも文句も言わず、ちゃんと説明をしてくれる。結構、やさしい師匠だ。俺の態度が悪すぎるというのも、反省しなくてはならない……反省……。
(わかった……ごめん)
(うむ。ではさっそく魔力を圧縮して球体に……と言っても、たしかに突然は無理じゃろう。まずは魔力の視覚コントロールを学ぶか……)
(よろしく頼みます……)
(なんじゃ、急に殊勝になったのぅ……気持ち悪い)
こんな具合で訓練は続く……。
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数日後……
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あれから、俺は魔力を「視る」ために、俺は自分の突き出した手の先を一日中みている。とても地味な訓練だ。はっきり言って地味すぎて嫌になる……。
昔の大魔導士や勇者は、この訓練は絶対してたらしい。今となってはこの訓練をしている人物は皆無らしいけど……。
俺は、その「視る」訓練をしているわけだ。地味にね。
「うぬぬぬぬ」
俺は手の先にある空間を凝視しているが、まるで視えない。
俺の手の前には、ただの空気があって、透けて見えるだけだ。
続けること、3分…………
(つ、疲れた……)
手が疲れてしまってダラリと降ろす。赤ちゃんなので、休み休みやっている。ここ数日、こればっかりやっているが、まるで進展がない。
(リリス、まったく見えないんだけど……?)
(続けろ……もっと、魔力を感じるんじゃ)
(そんなこと言ってもよぉぉ……)
それを続けること1週間、まったく変化がない。さすがに心配になったのか、リリスが、「やり方を変える」と提案してきた。
(拝むように両手を合わせて、左手から右手に流してみぃ?)
こう?とある錬金の人みたく、両手を合わせてみた。そして、左手から右手に向かって魔力を放出するイメージをする。
すると、ゾワワワ!っていう感覚が両手に走った!そして手の平に、白い靄のようなものが見えた。
(な?なんだ?いまの!?)
(それが魔力じゃよ。一発で見えるとは才能あるぞい)
(い……いまのが魔力)
(では、今のを3時間ぶっ通しでやるのじゃ)
(ぎゃ……)
リリスは厳しかった……、それから1ケ月、リリスとの猛特訓が続けられ(主にベビーベッドの上で行われた)、とうとう、魔力を”視る”ことに成功した。先は長い。
////////マリーシア視点///////
最近のマリーシアは激しく心配していた。そのせいで、最近は睡眠不足だ。
リカオンがそんなマリーシアを心配する。
「最近元気ないぞ?どうした」
「最近ヤマトちゃんが変なのよ 」
「何が??」
「ヤマトちゃん、昼間ずーっと両手見てるのよ、まるでテレパシーで話しているみたいに、たまに頷いたりして……」
「なに?手をか?どどど、どうしたんだろうヤマトの奴、痛いのかな」
「怪我をしている感じではないのよねぇ……病院に行ったほうがいいかしら」
マリーシアは、ヤマトを首都の病院で診てもらおうか、真剣に検討するのであった。
////////ヤマト視点に戻る///////
魔力が視えるようになってから数ケ月。俺は毎日、リリス先生の教育のもと魔力を球体にする訓練を続けている。
はじめはモヤモヤとした魔力で、徐々にはっきりと形を造っていけるようになった。魔力が視えると、形になっていく様が分かって楽しい。俺はこの訓練に夢中になっていた。
リリスは、俺の魔力が球体になりつつあるのを見て満足そうに頷く。
(よし……まだ安定していないが、球体になりつつある。良くやったのじゃヤマト)
リリスは、俺の頑張りを褒めてくれた。だんだん球体になりつつあるので、もうすぐ圧縮の訓練に移行するらしい。
魔力の圧縮って意味が分からないが…………。
成長はしている……成長しているんだが、時間が圧倒的に足りなかった。
普通の者では無理だが、俺は神の子……何とかなるのでは?とリリスは思っていたらしいが、やはり足りなかった。この状態で魔人と戦っても確実に負けるとのこと…………。
俺とリリスは焦っていた。魔人が迫るまでもう時間がないんだ。
(ど、どうすんだリリス。このまま食料は嫌だぞ……)
(すばらしい速度で魔力操作を身に着けておる、いまなら低級魔法くらいなら出せるじゃろう。しかし、魔人はSランク冒険者でも倒せんくらい強い……勝負にならんじゃろうな)
(まじか……俺、死ぬの?)
俺の表情は絶望の色に染まる。ここまで頑張って、殺されるだけとか……そりゃないだろ……。
(なんとか方法はないものか……魔人ごときに悩まされるとは……)
リリスからすると、自分に実体があればどうとでも出来るのに、何もできない自分が歯がゆいらしい。
(そうだ……嗅覚がするどい魔人ということは、そこまで知性は高くないだろう)
(そうなの?)
(そうじゃ。鼻がそこまで利く魔人ということは半分、野生化しているのじゃろう……いわゆる野良魔人じゃ)
(野良犬みたいだな…………)
(ということは手のうちようもあるか……)
リリスは顎に手にあてて考え込んでいたが、思いついたように俺に提案をしてきた。
(おぬしの「匂い」につられて魔人が迫っていると言っていたな?)
(ああ、たしかオステリアもそんなことを言っていた気がする)
(ならば、ダミーを用意して匂いを拡散させるのじゃ)
(え?ダミー?)
(そうじゃ。まるでオヌシの居場所を分からないように匂いを使うのじゃ)
(ど、どうやってさ?)
それから先、リリスは俺に指示を飛ばす。
(家の中で何か使えるものは……そうじゃ。それがいい)
リリスは、俺の部屋にあるマリーシアが忘れた、小さいスプーンを指さした。
(スプーン?それ使ってどーすんのよ)
俺はあからさまに訝し気な顔をしていた。
(なんじゃ、可愛い顔しおってからに)
どうも、リリスからすると愛らしい顔に見えるらしい。ベビーフェイスは最強だった。それはそれとして……
(何をするつもりなんだ?リリス?)
(スプーンに魔力を当て続けるのじゃ、ヤマト)
(魔力を?どういうことだ?リリス?)
(いいから言うとおりにせい!早く!)
(わ、わかったよ……)
リリスに言われ、俺は仕方なくスプーンに向かって魔力を放出する。
「ふぬぬぬ…………」
部屋の真ん中で、俺はスプーンと相対していた。かなりシュールな映像である。
そのとき、マリーシアが俺の様子を見に部屋のドアを開いた。そして自分の息子の様子を見て固まる……
「ヤマトちゃーんそろそろ……はッ!?」
スプーンに手をかざして魔力を放出している俺。当然マリーシアにはその意図が伝わらない。マリーシアには魔力が視えないのだ。
スプーンに向かって一心不乱に手をかざしている息子を見て、マリーシアは青ざめる。
「ヤ、ヤマトちゃん……一体」
マリーシアは、絶対来週には病院にヤマトを連れていこうと誓うのであった。
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