第3話 女神が怒ったよ
女神の様子が一変した。
ズゴゴゴ…………という効果音が聞こえて来そうな雰囲気だ。
女神の顔をみると、これまた凄い……。殺意という言葉では生ぬるい。目が光っていて、女神というより破壊神だ。
「あ、あわわ……ちょ、ちょっと……女神様?」
本能的に俺は「消される」と思った。この女神は俺を消そうとしている。
「あの男と同じ匂いがしたので血まで与えてやれば・・・・、どうやら人違いでした。こんなゲスな男のはずがありませんからね。まったく私の血の無駄でした!」
「え!?あ、あの男?それに……血を与えた!?」
「知る必要はありません。面倒なので消します……。愚かな男よ。神に不敬を働いた罪です。消えなさい」
女神が右手を軽く上げると、それと連動するようにフワリと女神の体が宙に浮いた。
「え?浮いた? 」
女神が1メートルほど、浮いている。しかし、問題なのはそこではない。この女神がこれから俺に何かしてくるだろうことは容易に想像できた。
「や、やばい……。消される」
俺は、存在自体を消される5秒前という状況を悟り、必死に懇願を開始した。
「あ!いや!あの誤解です!願望というか、なんというか……ほら?せっかく転生するなら楽しみたいというか。ゲヘゲヘ、出来心でやんす!」
両手をすりすり、俺は必死に頭を下げて懇願した。もうそれは必死に……
しかし女神は、それを見て口を開く。
「下賤な……もう消えよ」
やべぇぇぇーー!!!!
詰んだ!!!消される
女神オステリアの目が光ったと思うと、部屋中が眩い光につつまれた。まばゆい光が部屋中を包む。目を閉じていても関係ない。そこにあるのは光の暴力だ。同時に、体全体に刺すような痛みを感じ始めた。とてつもない痛みだ。
「ぐわわわわ!痛い!痛ぇぇ!!?」
俺は床にもんどりをうって倒れ込み、そして痛みに悶えた。
「消えよ……」
「うがぁああああ!!」
俺が痛みに悶えていると、その苦痛はしばらく続いた。
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1分くらいだろうか……。いや実際には10秒も経っていないのかもしれない。
やがて静寂が訪れ、俺を苦しめていた痛みが消え、光も消えた。
「はぁはぁはぁ。ぜぇぜぇぜぇ……あれ?終わった?」
俺は床に転がりながら息も絶え絶えだったが、何とか生きていた。いや・・・厳密にいうとすでに死んでいる存在のわけだが……たしかに俺はまだそこにいた。
光によって視界が奪われていたが、徐々にクリアになってきた。元に戻った視界でみると。驚きの表情を浮かべる女神オステリアがいた。
「まさか……やはり、あの男の魂なの!?」
やはり?あの男の?どういうこと?
女神の破壊神モードは解除されつつあり、宙に浮いていたのも今では地面に足をつけている。表情も強張っていたが、いまは普通だ。驚いてはいるけれども・・・。
そして、女神が俺に語りかけてくる。
「ぶ、無事なのですか?意識はありますか?」
俺は息も絶え絶えに、女神の質問に応える。
「いや、無事じゃないですよ?痛かったし、目とか少しチカチカするし」
「このジャッジメントレーザーは、そういった生やさしいものではないのですよ。すべての魂をソウルソースへと還元するものなのです」
ジャッジメントって……そのネーミングセンスどうなの?俺が心の中でツッコミを入れていると、女神は勝手に納得しだした。
「なるほど。見つけました……はじまりの精霊。やっと見つけました」
「はじまりの精霊?」
俺が聞きとがめると、オステリアは少し慌てたように言い直した。
「な、なんでもありません」
「そ、そう言われても気になりますよ。はじまりの精霊って何のことですか?」
「き、気にしないでください」
女神は気まずそうに、わざとらしく右をむいて俺と目を合わせようとしない。
「って言われても……」
「あ!転生の件で要望があるんですよね?出来る限り応えますよ」
「ほ、本当ですか!?」
女神の言葉に俺は飛びついた。意味不明な「はじまりの精霊」のことなんて、どうでも良くなっていた。
「コホン。はい、極力あなたの希望を聞きましょう」
「や、やった!ありがとうございます!」
なんだか良く分からないけど、転生できるし。チートとかも貰えそうだ。
またいつ機嫌を損ねるかもわかったものではない。今のうちに色々オーダーを渡してみよう。
「えっと、じゃあ希望いいますね?魔法や剣があるファンタジー世界にいきたいです。それでは、その世界でもトップはれるくらいの才能が欲しいです。」
「ふむふむ、世界は剣と魔法の…、そして才能ですね」
「あと、病気とかに強い体が欲しいです。できれば寿命長めの体を」
「強靭かつ寿命長めの体ですね」
「あと、ビジュアルというか、イケメンになりたいです、ちなみに男で産まれたいです。さらに相当なイケメンになりたいです。もう一生女には苦労しないみたいな」
「い、異性を強力に引きつける容姿、それもですか……」
だんだん、イライラした様子のオステリア。でもまだ大丈夫そうだな。
「あ!あとお金持ちがいいです、そういう家の子に生まれたいです。」
「お、お金ですか……」
「あー、あと幼なじみが欲しいです。それも将来むちゃくちゃ美人になりそうな」
「………………」
無言になる女神、俺は構わずつづけていた。
「あ、それと祖先が勇者で名声とか血筋良さげなやつね、これあると色々コネ作れそうだし」
「………………」
「あ、あとね……」
ここで女神がついにキレた。見えないが、ちゃぶ台をひっくり返したようにも見えた。
「いい加減しなさい!また私を武神モードにしたいのですか?」
「ひぃ!!ご、ごめんなさい。調子こきました!ごめんなさい!」
完全にビビっている俺は、土下座をして女神に許しを乞うた。
調子に乗りすぎた……でも破壊神(武神)モードにはなってないな、まだ大丈夫ということだろう。
「分かれば宜しい……」
「さっきの痛いし、もう勘弁してくださいね」
「痛いというレベルのものではないのですが……」
「でも、女神様。様子が変わり過ぎでしたよ」
俺は会話の流れを変えようと振ってみた。
「私は、一応、美と武の女神ですからね。あれは武神モードです。今は美神モードです。両面の顔をもっています」
「そうなんですね……。気をつけます」
俺はペコリと頭を下げた。よっしゃ、話は流れた。もう怒っていないようだ……。
女神は両手を腰にあてて、「ふぅ……」と溜息を一つ吐くと、あきらめたような顔で俺に語りかける。
「まぁ、ある程度までは叶えましょうか。しかし、お金持ちや幼なじみとかは無理です」
「え?神様なのに?」
「私に出来るのは肉体の創造と加護くらいなのです。幼なじみとかは無理ですから!お金持ちとか それは人間の社会価値みたいなものなので、作り出すものではないのです」
「そ、そうなんですね……では才能、強靭な肉体、容姿だけお願いします。」
「だけって……それだけでも、相当 優遇してますよ!」
「すみません……」
なんだなんだ叶えてくれるみたいだ、案外優しいぞ。
オステリアが何やら思案している。
「まぁ、それも種族を選ぶことで叶えられるでしょう。種族に希望はありますか?」
「種族……。例えばエルフとかもできるんですか!?」
「ええ、出来ますよ。エルフにします?」
「い、いや!ちょっと待ってください!これってキャラメイキングですよね!?」
「キャ、キャラ?」
女神が「何言ってんだコイツ……」という顔をしているが、俺は構わず進めた。ここは超大事なところだ。