第28話 俺の目標
神界に移動していたときは大人の体になっていたのだが、地上に戻されて体を見ると俺は見慣れた赤子のままだった。
「移動と言っても、精神だけを部分転移させられただけじゃからな。ほれ、ワシも傷などないじゃろう?」
視覚化したリリスは俺の目の前にいるが、たしかに神界でオステリアに負わされた傷は無い……。
俺とリリスは、まだ両親が起きていない早朝に作戦会議を開くことにした。今の俺はベビーベッドの中……。ベッドの柵に捕まりながら、リリスと会話している。なんとも情けない姿だ……。
「さて、魔人が来るまでの数か月と言っていたが、訓練する内容を検討するんじゃが」
(それな!オステリアからは半年ほどと言われている。彼女を信用するならだが)
「それほどしか時間が取れんのか……うむぅ……オヌシの潜在能力はピカイチだと思うが、まだ赤子じゃしのぅ……」
俺が死ぬということは両親も死んでしまうということだ。マリーシアやリカオンを死なせるわけにはいかない。
「両親との会話で魔法訓練がしにくい環境というのは知っておる。オーブの状態で見ておったからな」
(そうか。俺がスキルで見えなくしておいたけど、お前はずっと俺のまとわりついていたんだな……)
「人を変質者みたいに言うでない」
(変質者でなければ、変質オーブか……)
「同じじゃわ!!」
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それから訓練に向けてリリスと俺は情報交換をした。
まず、リリスの状態について教えてもらった。あまりに不思議存在だ。手の中に入ったり、出たりって……
今、リリスは俺の眼の前にいる。俺とリリスはこれを「視覚化」と呼んでいる。これは実際にそこにいるわけではないらしい……。つまり視認できる状態にあるだけということ。しかも俺にしか見えないので、マリーシアが突然この部屋に入ってきたとしてもリリスは見えないらしい。視覚化は望めば1年中可能らしい。精神エネルギーのような存在だと言っていた。
「ワシの存在は、オヌシの精神と魔力に連動する。オヌシが成熟してくれば、おそらく他人にも見ることが可能となろう」
将来的には他人にも見える状態にすることが可能らしい。
右手の紋様についてもリリスは教えてくれた。何らかの魂の結合をおこなった者には必ず現れるものらしい。聖痕のようなものだと説明していた。
「ちなみにその紋様には古代語がちりばめられておるな。かなり古い言語じゃ。ワシにも読めんとは…」
また、リリスとの会話は基本テレパシーに統一することにした。リリスは「声」を出せるが、ややこしいので、しばらく統一する。
普段、視覚化していないとき、リリスは右手にはいっている状態らしい。厳密にいうと手の中というわけではなく魂そのものと同化している状態らしいが、どっちでも良い。その状態のときでもテレパシーは可能だ。声に出しても良いのだが、その際には俺は手に話しかける頭の痛い子になる必要がある。これから、リリスのことは 〇ギーと呼ぶこととしようか。
(なあ、〇ギー?)
(〇ギーとは何じゃ?また不可思議なことを……。)
リリスには、すべてを話した。俺の地球での生活やすべてを……。彼女はかなり驚いていた。
(そのような文明が……。信じられん……。)
中でも電話やテレビなどは説明しても、なかなかリリスもイメージがわかないらしく、まぁ知っても今の世界で実現するのは不可能なので、とくに納得するまで説明していない。 リリスからすると、魔法技術なしでそこまでの文明を築いた世界を見てみたいと言っていたが、俺からすると魔法技術でこの世界が構築されていることのほうが不思議である。
リリスは、俺が前世で35歳で死亡したというと納得していた。
(赤子にしては、やけに精神年齢が発達していると思っていたのじゃ。オヌシ35歳だったのか)
(まぁ……。ブサイクおっさんだったよ。普通に……)
(今のオヌシの姿からは想像もつかないがのぅ……)
(ハゲ。デブ。チビだったよ………………)
(信じられん………………)
リリスは、俺の前世の姿や、人生などがピンとこないらしい。赤子とは言え、精神世界で成長している姿も見ているため、あまりにもギャップがあるかららしいが……。
(まぁ良い。大体わかったわい。35歳で死んだということも理解したわ。まぁ、どちらにせよ。ワシからすると、35歳など子供も子供じゃがのぅ……)
訊けばリリスは1500歳で死亡したらしい。その10分の1も生きていないので確かにそうだろう……。リリスが俺の黒歴史に突っ込んでこなかったのは助かった。俺の前世での容姿については、あまり触れたくない。……俺の忘れたい過去だ。
さて……ここまでリリスと俺の情報共有をしたうえで、リリスからも情報を共有された。龍人族が滅ぶまでの過去を……大戦争のこと、ヤマトフォンカリアースのこと、レシータ巫女のことなどなどだ。壮大な物語だった……
(すごい戦争だったんだな……神が地上界に攻めてきたとか信じられない……)
(あのとき、大勢の龍人が死んでしまった。ワシの失態がすべての原因じゃ……悔やんでも悔やみきれん)
(そのヤマトフォンカリアースという名前と、俺の名前が一致しているのは何故だろう……)
(これは説明してもわからぬかも知れぬが、転生するときの法則というものがあっての……不思議と似たような名前になるものなのじゃ)
(だから何でよ?)
(その説明をするのには、オヌシに霊魂論理学を1年以上学んでもらう必要があるのじゃが……)
(あ、いいわ。勝手に納得するから)
(うむ。詳しい説明は省くが、オヌシが「ヤマト」と名前を付けられたとき、ワシはオヌシはヤマトフォンカリアースの生まれ変わりなのではと思ったのじゃ)
(でも、俺が名前をつけられる前からお前はオーブで俺に接近していたよな?あれは?)
(あれは本当に偶然じゃ。強い魂に惹かれるようにここへ来たら、オヌシと出会ったというわけじゃ)
(なるほど……それで?お前の望みは何なんだよ?)
(ワシの望み?)
(そうだ。龍人族の復興とか言っていたけど本気なのか?)
(本気に決まっておる)
(そうか……、オステリアを殺すことも重要視していたように見えたからさ)
(そういうことか……。オステリアは許せぬ、可能であれば必ず奴に報いを味わわせたい。しかし、最重要なのは龍人族の復興なのじゃ。ワシは最後の龍人族の族長として、その責務があると思っておる)
リリスは嘘を言っていない……それは説明できないが感じることが出来る。彼女は俺の魂と同化しているといったが、根源的なところで彼女と俺は一心同体となっている。そのため、彼女の感情が凄く伝わってくるのだ。
(わかった。俺もできる限り応えられるようにしてみるよ)
(できる限りではなく、絶対!じゃ)
(わ、分かったよ……)
(それで?オヌシは?)
(え?)
(じゃから、ワシの望みは言ったが、オヌシの望みは何なのじゃ?)
俺の望み……俺の望みって何なんだろう?俺は真剣に悩みはじめた。
(ないんかい)
(ちょ、ちょっと待て。いま考える)
(考えるとな………まぁいいわい)
俺は、とくに強い希望があってこの世界に来たわけじゃない。前世で急死してしまい、それでこの世界に生まれただけだから。俺は何がしたかったのか……前世でかなえられなかった希望か。
俺は本当に純粋にこう思って前世で死んだ。
「次の人生ではモテたい……」と、それだな……それが本音だ。
決まった!!
俺はリリスに「俺の希望はモテたい」だ。と伝えたら、表現し難い顔をされてこう言われた。
(嘘でもいいから、もっと崇高な希望が聞きたかったわい)と……。
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