第23話 過保護
目の前に神殿の兵達……。彼らは大きな槍を手に持ち構えている。かなり訓練された兵のようにも見える。一方、リカオンは俺を抱えているので、片手が塞がっているので不利だ。ヤバイのでは?
すると……。
シュン!
「え?」
すると、先ほどまで司祭と一緒にいたと思われていたマリーシアが、いつの間にか俺達を追い越していた。そして、衛兵たちの前に立つマリーシア。彼女は微笑を浮かべながら指に色とりどりの小さいボールをもっていた。
(あれは?)
俺が疑問に思っていると、兵が答えてくれた。
「あれは……!煙幕玉!?」
衛兵の一人が叫ぶと、マリーシアが叫んだ。
「ご名答!!うちの子は誰にも渡さないわ!」
マリーシアは煙幕玉を床に叩きつけた。
ボウン!!!
煙幕玉は大きい音をさせて爆発、神殿中を煙で充満させた。
(お前は忍者か……神殿を煙まみれにしちゃダメだろ)
視界を失った兵達は慌てる。
「そこらにいるはずだ!囲め!」
「見えないのにどうやって囲む?!」
「バカ!入口を塞げ!!!」
慌てる兵達を放置し、マリーシア達の動きは迅速だった。
シュン!
シュン!
まるで、高速移動する忍者のように煙の中、兵達を避けながら難なく入口を通過していた。
(見えてるのか!?忍者かよ!マリーシア!リカオン!)
煙が引いたときには、神殿には先ほどの親子はすでにいなかった。司祭は何がなんだか分からない。分かっているのは、神の化身ともいうべき子を見逃してしまったことだ。
「し、使徒様を失ってしまった」
そう呟いた司祭は、自身のクビを覚悟した。
さて、敵(?)から逃げ切った夫婦は、村を超高速で走りぬけていた。村人も「風かな?」と、思うほどのスピードだ。無茶苦茶な速さだ。
それこそ「アッ」と言う間に村の外に出てしまった。
(う、動きに無駄がない…………)
二人とも無言だし、連携が素晴らしい。Aランク冒険者というのは、皆こうなんだろうか。いや、この夫婦が特殊な気もする……。
こうしてバンキン村から脱出した俺たち家族は、夜ということもあり危険だったので。バンキン村の近くの森で野営をして朝を待った。用意周到に、リカオンが村の外に馬車を出しておいたらしく。この二人の念入りの深さに感動した。
そして早朝に出発した。
馬車の中で俺は、両親の顔をみた。
「ママ……」
すると、マリーシアとリカオンは笑った。
「私たちは常に次の手を用意する癖があるのよぉ」
「しゅごい……」
「パパもママも、お前の魔力見てたからなぁ……。あーなるかもとは思っていたんだ」
「パパ……ママ……」
すると、リカオンはニコリと笑って答えた。
「息子が才能の塊だと知ったら、エンジストーンでの検査は必須だ」
「うん…………」
「ふふ……もう一つはね。ママとパパも、この前のことが半分信じられなかったの。魔力測定検査は所詮、民間魔道具。ちゃんとした検査でヤマトちゃんを見極める必要があったのよ」
(見極め……?)
マリーシアとリカオンはとある決意をしているように見えた。その顔をみた俺は、何も言えなくなっていた。
その後、何のトラブルもなく村に到着した。
自宅につくなり、リカオンとマリーシアは、笑いながら大広間で紅茶を飲みながら、お互いを褒め称えていた。
「マリーシア、煙幕とは参った。用意いいね」
「あなたこそ素敵だったー、まだまだ現役ね」
これだよ、あれだけのことして全く気にしてない……しかし、Aランク冒険者ってダテじゃねーな。すごい動きだったよ。
(しかし、俺が全属性持ちって…………)
あの司祭の様子だと、俺を探したり追われたりしないのかな。
今後、大丈夫なのかな。
「パパ、ママ、だいじょーぶ?(いろいろな意味で)」
夫婦は顔を見合わせて、笑った。
「大丈夫よ、カードも名前のところは隠しながら見せたし。身バレはないわ。ヤマトちゃん」
ぬかりないマリーシア達に、俺は感心するのだった。
俺は全属性らしい。さらに魔力も神レベルまでいく可能性があるらしい。それは素晴らしいことだ。家に帰ったのち、俺は両親がすぐにでも「さあ、魔法使いの英才教育を開始よ!」と家庭教師でもつけるのかと思っていた。
しかし…………
翌日からまるで、その気配がない…………
(な、なぜ!?)
これだけの才能って、なかなか無いと思うんだけどなぁ。なぜなんだろう。いつまで待てば教えてくれるのだろうか。
その翌日も、さらにその翌日も様子を見てみたが、マリーシアもリカオンも俺に魔法を教える気配がない。自分で覚えるというのも手だが、本などで勉強しようにも書斎に入ることすら許されていない……なぜか書斎に鍵がかけられてしまったのだ。つまり八方塞がりだ。
本……もしくは師匠が欲しい。両親の魔法技術はすばらしいことは知っているので、両親が教えてくれるのが望ましいのだ。そう思った俺は、思い切って両親に訊いてみることにした。
夜、夕飯のとき……俺はマリーシアが用意したスープや、柔らかくしたパンをスプーンで口に運んでくれるのを一生懸命咀嚼して、すべて平らげたうえで相談してみた。
「パパ ママ、あのね……」
「どうしたのかしら?ヤマトちゃん?」
ニコニコと笑顔で俺の言葉を聞いているマリーシア。俺のことが可愛くて仕方ないという感じだ。いつもの光景。
「ぼく、まほう……いつれんしゅうするの?」
その言葉を聞いて、マリーシアはリカオンと顔を見合わせた。少し真面目な表情をして答えた。
「しばらく魔法のことは忘れなさい。ヤマトちゃん」
(……は?)
意外すぎて俺は絶句する。なぜに?!いきなり禁止!?
だって、全属性っていってマリーシア喜んでたじゃん!意味わかんねーし!!
「どうして?」とした俺はマリーシアの顔をみつめながら質問をした。
答えはこうだ。
「この前の司祭みたいに、ヤマトちゃんをどこかに連れていこうとする悪い大人が出てくるかも知れないわ。だから、大きくなるまで待ちなさい」
とのこと。
夫婦で話し合った結果、危ないことはさせないようにしようって結論に至ったんだってさ……大切な息子を国なんかに奪われてたまるか!ってことらしい。
(いや、言ってることは凄くありがたいんだけど、それは困る!これから魔人が襲ってくるというのに本末転倒だろ)
「でも……ぼくまほうを……」
「だーめ、みんな10才から習うんだから、それからでいいじゃない?ね?言うことを聞いてヤマトちゃん」
「……」
ここで魔人が迫っているから魔法をすぐに覚える必要があるとは言えない……。なぜ、そんなことを知っているのかと問い詰められても、女神のことは言えないからだ。
ぐ……親として子を想うからこその理由……反論しにくい……
じゃあ、いいや…………。本で勉強するから!俺が前世で読んだラノベの転生ものの物語も、結構自力でなんとかしてたし!
(あの書斎のカギさえ何とかすれば……)
と俺が思っているのを見抜いたのか……。マリーシアが宣言する。
「ちなみに!家の魔法本も全部燃やしたからね。遠慮なくスクスク育つのよ!私のヤマトちゃん」
「え?!」
マリーシアに先手を打たれた……やられた……。マリーシアは本気だ。リカオンも本気だ……、彼は本をすごく大事にしていたからである。この世界では本はとても高価なものらしい。それを燃やすとは、本気だと悟った。
マリーシアは、優しくておっとりしていそうだが抜け目がない。俺はそれ以上反論できなかった。目が笑ってないんだもん……。
その夜、俺は自分の赤ちゃんベッドの上で、悩みまくっていた。
(確かに両親の言うことは分かる。しかし、魔人が迫っているんだよ!何がなんでも自衛手段持たなきゃいけないんだよ)
まだ諦められない……魔法がダメなら格闘技でもやるか?
いや、この体では習ったところで赤ちゃんだし。
(うちの両親は過保護過ぎるんだよぉ!ありがたいけどさぁ!)
グルグル同じ思考を繰り返していて、俺の頭から湯気が出始めたときだった。
俺は、ふと右手の紋様を眺めた。
そういやこれって…………。
リリスや龍が出てきた翌日からあるよな……、不思議なことに洗っても消えないし。どうもマリーシアからも見えないようなんだ。
もしマリーシアが発見したら、俺の体についている紋様なんて。
「きゃあ!!!ヤマトちゃんの白い肌に入れ墨が!!」
と卒倒しているはずだ。しかし、マリーシアはまったく無反応である。これは見えていないとしか思えない。
(リリスの消滅と何か関係があるのかな。この紋様って……、何か意味があると思うんだ)
リリスか……あいつなら龍人族の長だったんだし魔法とか知っていたんだろな。教えてくれたのかな。しかし、もう会えないんだろうな……
俺はそのとき、何の気なしに口ずさんだ。
「リリス……」
すると、すぐにそれは起きた。
(なんじゃ?呼んだか?)
俺の脳の中に声が響いた。
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