第13話 魔法書が読みたい
俺の日本での環境を思い出す……この世界で生きていくために、過去を整理する。
俺は小さい清掃会社の社員だった。主な仕事はビル清掃。本社でのオフィスワークも憧れていたけど、学歴もなかったしね……。会社員になって、まじめに働いていたが、上司や先輩からの虐めがあってストレスから抜け毛がひどかった。30歳のころにはハゲとなった。30歳からは中年太りが進んでいて、デブ……ハゲ……オッサンという「完成体」になった。
当然モテない…………。人並みに合コンとか誘われたことあるけど、完成体はダテではない。合コンにいっても、席のとなりには誰も座らないし。彼女なんて夢のまた夢だったよ。
合コンに行って、待ち合わせ場所のカフェにいったときに女性たちに「キャー!」と叫ばれた(当然悪い意味で)ときから、俺は恋愛を諦めていた。
だからと言って努力をして資格を取ったりして、挽回を図ろうとしたかというと俺は何もしなかった。怠惰な生活が大好きで、帰宅したら趣味のラノベを読んでアニメを楽しむのが俺の「すべて」。努力をしたとしても、徒労に終わるだけと人生を諦めていた。
しかしまさか、そのラノベの世界のような異世界転生するとは夢にも思わなかったけどね………………。
ふぅー…………こんな感じだったな、思い出すと暗くなるな。あ、涙が…………。
でも大事な作業だ、これから「何をしたいのか」過去「何がダメだったのか」を真剣に考えておく必要がある。もう、あんな人生は嫌だ。せっかく転生したんだ。やり直す。絶対おれはやり直す。
生前のような怠惰な生活は止めだ!一生懸命やり直してやる!
そう決意を新たに、転生して6ケ月が過ぎた。この頃になると、ハイハイが出来るようになっていた。自由きままに散歩している。家の中だけだけどね……外は危ないと両親も出さない。俺も出たくない…………転生初日に狼に襲われそうになったしね!
しかし家の中であれば、どこでも行ける。俺がハイハイをするようになってから、両親は大変そうだ。よく見失って大騒ぎをしている。
「あの子、ハイハイの速度が尋常じゃないのよ」
「はは、いいじゃないか。運動神経抜群なんだな」
「目を離すと、すぐ居なくなっちゃうから困るわよ」
両親の悩みのタネのようだ。俺は………………
また、言語も大体であれば理解するようになっている。マリーシアに絵本を毎日読み聞かせをされているので、読書もある程度可能だ。
家では カタコトであれば話せる。これには両親は驚いている。
「あなた!この子凄いわよ。半年で話し始めてる。天才かも!」
「普通じゃないのか?」
「お隣のお子さんなんて同じ月齢だけど全然よ」
「ヤマトは偉いなー、天才なんだな!えらいでちゅよー!」
何かする度に褒められて、チューされる。悪い気はしない。美人さんだしな。
親父のほうは止めて欲しい。まじで髭が痛いんだ。
しかし、両親は俺の発達は「天才」だと思っているようだ。まぁ、俺の場合 精神年齢が35を超えているせいもあるのだけど…………。
そうそう!言語と文字が少しできるようになったので、さらに家名と両親の名前が判明した。
俺の名前は…………発表します!
ヤマト=フォン=ドラギニス
母親は
マリーシア=フォン=ドラギニス
父親は
リカオン=フォン=ドラギニス
とことん龍に縁があるな、ドラギニスって…………。
一応、貴族らしい。貧乏貴族らしいけど…………まぁ、俺から見れば結構いい生活してる。木造3階建てだけど、屋敷って感じがするし。部屋は7つもある。
調度品とかも良いもの使ってる。電気は通っていない、中世あたりの文明らしい。
ちなみに俺達家族が住んでいる村の名前は「カタナール村」。人口は分からないが、それほど大きい村ではないことは判る。
俺が動き回り制御不能なので、困りきったマリーシアは、両親はメイドもこの前雇った。家事しながら育児するには、この家は広すぎるらしい。
メイドの名前は「ナタル」。
まだ15歳くらいで若い。しかし、この世界では15歳で成人らしい。背がちっこくて純粋そうで可愛らしい。髪はブラウンで整っている顔立ちだ。日本にいたら、アイドル並みだろう。マリーシアに比べたら霞んでしまうが、うちのママのレベルが高すぎるのだろう。それとも、この世界は美男美女率が高いのか?どうなんだろう。と思っていたら、たまにウチに来る来客の顔とか見るとそんなこともないらしい。ドラギニス家のレベルが単純に高かったらしい…………。
さてハイハイが出来るようになったので、俺は家を探索中に偶然リカオンの書斎に侵入したときがあった。たくさんの本棚の本を見上げるように眺めていると、背表紙に「魔法学入門」って本があった。俺はそれを見たときに衝撃をうけた。
おぉ!!!あれは!!!
残念ながら、その時俺はマリーシアに発見され、連れ戻されたんだが。
剣と魔法の世界とは聞いていたが、本当のようだ…………。魔法!憧れの魔法!それが使えると思うと興奮せざるを得ない。
「絶対、あの本は読むべきだ」と、俺はターゲットに狙いをつけた。
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それから数日、魔法学入門という本を、どうしても読みたい。絶対読みたい!!という気持ちでいっぱいだった。だって、魔法だぜ?魔法! アニメやラノベの世界でしか見たことがない魔法を学べるんだぜ? これは絶対読むべきでしょう!!
あれから何度か、父親の書斎に侵入を試みたが、マリーシアのガードが鉄壁で、書斎に近寄ることすらできない。メイドのナタルも、俺を見つけるのが上手い。すぐに発見されてしまう…………。くそう…………。
今日も俺の挑戦は続く。部屋の扉を開けようと手間取っていると、マリーシアに発見された。また失敗だ。
「もう、ヤマト。またパパの書斎に入ろうとしてる」
「入りゅー。パパの部屋入りゅー」
「はいはい、大きくなったらね!ヤマトはこっちよー」
てな具合で、すぐ捕獲されてしまう。
しかし、ここで諦めるわけにはいかない。夢の魔法使いになれるかも知れないのだ!
(こうなったら、夜起きてこっそり侵入してやる!)
そう固く誓う俺であった。
決行を誓った、その日の夜。俺はいつもよりも多めに昼寝をして、夜に備えた。夜になると、毎晩マリーシアが添い寝をしながら一緒にベッドに入る、そして俺が眠ると、夫婦の寝室に戻っていく。そのパターンだ。
案の定、その日の夜、俺は眠ったふりをしていたら、だまされたマリーシアは、俺にチュ!っと、オデコにキスをして部屋から出ていった。
(よし!チャンス到来!)
しかし、すぐ出るわけにはいかない。
しばらく、彼らが眠るまで待つんだ。
(………………………………)
ひたすら待つ俺。
(やばい……俺が眠くなってきた……くぅぅぅ……まぶたが落ちてくる)
このままでは寝てしまうと思った俺は、奥の手を出すことにした。
(こうなったら、奥の手だ。スキル解除、リリス召喚!)
俺はリリスの声と姿が見えるようにスキルを解除した。
すぐにリリスのオーブが見えるようになった。俺の周囲を旋回していた。
すると、リリスからすぐに返答があった。
(……ぬおぉ!!聞こえるのか!?眼の動きで判るぞ!オヌシ!うれしいぞ!!ていうか無視やめるのじゃ!ワシかなしい!…………フフフ、やはりワシがいないと不安なんだな。わかるぞ…………)
う!!久しい振りにスキルを解除してみたが、やっぱり超ウザイ!
いや、これはこれで眠気ざましには良いか………………
(おい!呼んでおいて無視か!?応えよ!)
相変わらず返事をしない俺にリリスは猛烈に怒っていた。しかし、応える義理はない、変に応えてしまうと魂を抜かれてしまうため、無視するのは変わらない。
俺はリリスの機関銃のような喋りに1時間ほど耐えたあと、時が満ちたのを確認した。お疲れ、リリス君。もう二度と呼ばないよ。心の中で、そうお別れを言いつつ、スキルを発動し、また見えないようにすることにした。
(じゃあな、バイバイ)
俺は最後にそれだけ告げると、スキルを発動させた。
オステリア神に話しかけるなと言われていたが、これくらいは良いだろう。
(………そんな、殺生な!ワシをワシをぉぉぉ)
消えていくリリス。グッバイアデュー!
シーン…………
(ふう、静かなもんだぜ。あいつ、いつ諦めるんだろうな……)
静かになったし、両親はすでに眠っているはずなので、俺は作戦を決行することにした。
(さて、ではでは魔法書を読みにいきますかね)
両親の部屋も音がしなくなってるから、眠ったのだろう
今日は「仲良し」が無かったんだな。いつも隣から、アンアン ギシギシうるさいのよ……、でも若い夫婦だしな、俺は仕方のないことだと思っているし、体が赤ん坊なせいか、その声を聞いても何も思わないけれどね………………。
俺は音を立てないように廊下に出て、ハイハイをしながら夫婦の部屋の前を通り過ぎる。そして、俺はとうとう書斎への侵入を果たすのだった。
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