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第6話 潰れた教会で交わす睦言

 夜だったし、急いでいたこともあってあまり周りを見ずに入ったせいで気づかなかったが教会だったらしい。それにしてもゾンビが近くに多いせいでどうしようかと思った矢先に教会が見つかったのは天恵というしかないだろう。

「ここ、教会だったのね」

「んね。造りも頑丈だしここを拠点候補にしてもいいのかもね」

「もうちょっと柵とかほしいけど、まぁ及第点じゃないかしら」

会話している間にも外から呻き声が聞こえてくる。何か興味が惹かれるものでもあったのか朝起きたら大量のゾンビが溢れていたのだ。中に押し入ってこようとしないあたり私たちに気づいているわけじゃないみたいだけど。

「それにしても困ったね」

「全くね」

こちらに気づいていないだけマシだけどここから出られないことには変わらない。車まで走ってもいいけどそんなことをするには多すぎる。一応、食料とかは持ち込んだので多少は引きこもって居られるけど。

「ちょっと出られる感じじゃないわね」

「早く帰りたいけど、しばらくはここから出るのは無理な感じだね」

「そうね。それでも明日の朝には出たいところだけど」

危ないので窓を閉じ、二人で過ごすことにする。と言ってもすることがあるわけでもない。しょうがないので裏口とかの確認や他の部屋を荒らし、もとい探索してみることになった。

「どう思う?」

「んー。大丈夫だとは思うけど」

「念には念を?」

「そうね」

声も匂いもしないので恐らく私たちしかここにいないはずだけど念を入れて二人で探索することにする。

慎重に扉を開ける。誰もいない。というか何もない。夜逃げをしたかのように荒れた部屋の中には恐らく重要ではないであろう書類や物が散乱している。既にここにいた誰かは逃げた後らしい。

「何かありそう?」

「いくつか食料っぽいのがあったくらい」

「私も」

「上出来じゃない?食べ物も頑丈な家もあって」

美都は言葉とは裏腹に不満のある顔をしている。なにか不満な場所でもあるのだろうか。心配要素は多いけど、ここに来る途中で見た建物に比べたらかなりマシなはず。大火事でもあったのか焦げていたり崩れていたりと散々な様相だった。

「今まで見たなかだとすごい良い方じゃない?」

「それはそう、そうなんだけど」

「?」

「今考えてもしょうがないか」

一人で納得した美都はすっきりとした顔で部屋の探索に戻った。

結局他の部屋からもいくつかの食料を見つけることが出来たぐらいで、武器になりそうなものや誰かの日記みたいな今後役に立ちそうなものは見つからなかった。


それは最後の部屋を探しているときに見つけた。

「ねぇ、これって・・・」

「ええ、ウエディングドレスね。ずいぶん綺麗な状態ね」

そこにあったのは純白のウエディングドレス。幼いころは確かに憧れていたような気もする。いくつかあるドレスは多少ほこりがついているものの今すぐにでも着られそうなものだった。

「着ない?」

「着ない」

即答した割には顔にはウキウキした表情が隠せていない。シンプルな服を好んで着る美都だけど、実はフリフリした可愛い服が大好きだったりする。家には買っただけで一度も着られていない可愛い服が眠っているらしい。

「ねぇ、着ようよ」

「でも、」

「いいじゃん。どうせしばらくここから出られないし」

「そうだけど」

「さっき見た感じ、出るのは明日の朝ぐらいになりそうだし」

「し、しょうがないわね」

さも仕方がないから折れてあげるという体だが、激しく振られる尻尾が見えているし緩んだ口元が隠せていない。

「ドレスのサイズってどれなんだろうね」

「号数がどこかに書いてあるはずだけど。あった。姫乃だったらこれぐらいじゃないかしら」

「そうなんだ、ありがとう。詳しいの?」

「べ、別にそういうわけじゃないけど、ちょっと調べたことがあるだけ」

「ふぅ~ん」

ここまでわかりやすいのも珍しい。これはそうとう何回も調べた感じじゃなかろうか。一人でウエディングドレスについて調べている美都の姿を想像するとちょっと面白かった。

「うるさい、ほら後ろ向いて」

照れた美都に急かされるようにしてドレスの着付けをしてくれる。彼女の見立ては偶然か必然かぴったりで脱ぐ必要もなくそのまま着ることが出来た。そして当然のように彼女自身のドレスもぴったりだった。

いったいどれだけ調べたのだろうか・・・。

二人でドレスを着て、礼拝堂に向かう。なんとなく互いに向き合って、黙ってしまう。ドレスに身を包んだ彼女の姿はとても綺麗で、言葉を発するのがひどく無粋に思えてしまう。

「えっと、健やかなるときも病めるときも愛することを誓いますか?」

「・・・誰を?」

「そりゃ、私だけど。しょうがないでしょ、牧師なんていないんだから」

「フフ、それもそうね」

「ほら美都、健やかなるときも病めるときも私を愛することを誓いますか?」

「はい」

珍しくまっすぐ目につい引き込まれる。何か彼女に言おうとしていたのに、何も出てこない。

「姫乃、健やかなるときも病めるときも私を愛することを誓いますか?」

「はい」

私たちはまるで予定していかのように互いに唇を重ねた。



何回もここを読んでしまう。外をもっと見ていたら、学校の方を眺めていたら、もっと未来は変わったのかもしれないのに。過去の自分を恨んでもどうしようもないことはわかっているけど。

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