第4話 小旅行の始まり
天恵だった。籠るしか選択肢しか選べなかった私たちに降って湧いた望外の幸運は私たちを有頂天にさせるのに十分だった。一番嬉しかったのは久々の明るい顔が並ぶ夕ご飯だった。常に問題を抱える私達がずっと笑顔で夕飯を囲むことは無いから。
「二人ともお疲れさま」
陽莉の笑顔が眩しい。いつも柔らかい顔をしているが今日はさらにふにゃふにゃとした顔をしている。ここにいる誰よりも外に行くことを重荷に感じていたんだと思う。それが無くなる可能性が見つかったのだからあの笑顔もうなずける。
「それにしても豪運だな、鍵も車もまとめて見つけられるとか」
「神様だってたまには気まぐれを起こすわよ」
「それにしても、すごいな」
「すごいわね」
「おい、口角が上がりっぱなしだぞ。いつも間抜け面だってのに」
「え?そ、そうかな」
何となく自覚があった。でも陽莉の緩み切った顔を私もしていると思うと少し恥ずかしく思う。
「ま、たまにはいいだろ。こうなって一番の明るいニュースだろ。しかも車もガソリン満タンだってんだ」
「あとは、バッテリーが上がっていないことを祈るだけね」
「大丈夫?」
「大丈夫」
抜き足差し足、散歩しているゾンビに見つからないように歩く。あいつらは足が速くないけど、とにかく数が多い。二人どころか四人でも捌ききれない数がここらにいる以上、一人にだってばれるわけにはいかない。
「ふぅ」
「はぁ」
「とりあえず大丈夫そうだね」
「まぁ、たぶんね」
後は車が動くことを祈るだけ。キーを挿し、回す。
一回、二回、三回、四回。
まだ動かない。思わず二人で顔を見合わせる。ここで動かないことの失望は多きい。恐らく上から見ているであろう二人の絶望がここまで届いている気がする。
ブルン。
急に稼働したエンジン。元気に排気し始めた車が音を出す。こちらを見るゾンビ。こちらに足を向けるがもう遅い。私たちは外に向かって走り始めた。
「・・・肝が冷えたわ」
「ね」
とりあえず近くにあるらしい大学に向けて走り始める。誰がいるかもわからない。何かがあるのかもわからない。でも、私達にはもう後がない。だから進むしかない。