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第2話 夢と現と

 少し静かな廊下を歩く。各教室からは授業をしている音が漏れ聞こえる。授業よりも早めに学校に着くとなんとも言えない得をした気分になる。みんなが授業を受けている間に私はふらふらと散歩をし、気分が向けば誰もいない部室に顔を出したりコンビニに行ったりする。そうして授業時間をできるだけ怠惰に過ごす。なんだか無性に優越感があるのだ、別に何も悪いことなどしていないのだがなんだか自分だけ特別みたいな感じが好きだった。部室でぼんやりと携帯をいじる。多少の優越感はあれどやはり暇である。毎回そうなのだ。少しの優越感と襲い来る虚無の感情。もっと遅くに家を出ればいい話だがどうしてもこの感じが好きで来てしまうのだ。

チャイムが鳴るまでどうやって暇をつぶせばいいのか。今まで何回も考えた思考に沈もうとする。外が何か騒がしい。誰か有名人でも来たのだろうかと思い、外に出る。部室棟は奇妙に感じるほど静かで外の喧騒がどこか遠くに聞こえる。階段を下りきりやっと部室棟から出ようとする。なんだか体が重い。手が、肩が、足が、この先に行くなと訴えてくるかのようだ。心当たりを思い出せないその危機感を振り切り、やっとの思いで外へ出る。たかが外に出るだけ体力をずいぶん消費した気がするがやっとさっきからどんどん大きくなる呻き声に近づいている。

やっと部室棟から出れたと思ったら、喧騒がまるで夢のように消える。さっきまでの喧騒が嘘のように静かになった廊下を走る。この静寂に答えを求めてひたすらに走る。なんで走っているのか理由もわからないが足は止まらない。息切れも動悸も後回しにして走る。どこからか聞こえる呻き声を目指して走る。五階から一階まで、A棟からE棟まで、隅から隅まで走ってやっと見つけたそこに人はいた。座り込み、俯き、私の息切れに目を向けることも無く動かないその人に近づく。近づこうとして足元が少し滑ることに気づく、そして嫌な匂いがたちこめていることにも。足元を見ないようにして鼻につく不快な匂いを振り払ってその人に近づく。


突然振り向いたその人の顔はあちこちが齧られていて、片方が落ち窪んだ眼窩でこちらを見つめてくる。

叫ぶ。

いや、叫ぼうとした。この土壇場で喉が役目を放棄したらしい。どれだけ口を開けても息を吸っても私の口からは音一つ出てこない。

私が喉と格闘している間ににじり寄ってきたその男は何を求めえているのか私にその穴だらけの骨が覗く腕を伸ばす。その見た目の異常さは私の足を容易く手折り、逃げるという意思を破却させた。ゆっくりと、だが確実に近づいてくる男をただ見つめることしかできない自分。



「わああああああああああああ!!!!!!!!!!!」

自分の大声で目が覚める。

「大丈夫?」

目の前にいるのはゾンビではなく、同じ部屋の美都。外からわずかに聞こえる呻き声が私の意識を日常に引き戻す。こんな世界が日常だなんて嫌な現実だけれど、全身を流れる冷や汗と涙が自分の生存を知らせてくれる。

「ずいぶんうなされてたけど、嫌な夢でも見たの?」

「・・・うん」

相変わらず感情の乏しい顔だが心配してくれているであろうことは何となくわかる。頭をなでようとしてくれていたのか所在なさげに宙に浮かぶ美都の手を握り、なけなしの気力を振り絞って笑顔を作る。ちゃんと出来ているかは少し自信が無い。

「大丈夫だってば。今日は見回りでしょ?早く行こ」

私の不安と彼女の心配を断ち切るように立ち上がる。私が無理していることがわかるのか少し不満そうにこちらを見つめてくる彼女の視線を振り切るように部屋を出る。

「ほら、早く行かないと陽莉に怒られちゃう」

「・・・うん」


寝泊りしている四階から共同スペースとして使っている三階に行くと朝ごはんのいい匂いがしてくる。

「「おはよう」」

「おう、お二人さんやっと起きたのか」

ニカっとした笑顔で私たちを出迎えたのは夜々月祥子(ややづきしょうこ)。夜型であまり朝ごはんの時に起きていることは珍しい。

「祥子が起きてるなんて珍しいね」

「起きてるっつーか起こされたんだよ」

そう言って不満そうな顔を陽莉に向ける。朝型の生活を送る陽莉にとって昼まで寝こける祥子は理解できない存在らしく定期的に朝に起こされて言い合いをしている。

「祥子が寝すぎなのよ。どのみち夜は活動できないんだから早く寝てよね」

「別にいいじゃんか。迷惑かけてるわけでもないしさ」

「あなたが起きてこなかったらもしかして具合悪いのかなって心配になるの」

「大丈夫だから起こさなくていいってば」

「だめ、起こす」

「なんでそこだけ強情なんだよ」

放っておくといつまでも言い争いを続けて終わらないので、いいところでブレーキを掛けるのはだいたい私か美都になる。私はまだちょっと悪夢の衝撃から抜け出せていないので今日は美都に押し付けることにする。

「ほら、二人とも早くご飯食べようって、私と姫乃は見回り行くんだから」

「はいはい、ほら、陽莉食おうぜ」

「まぁこの話は二人がいないときでもいいもんね」

「・・・まだ続けるのかよ」


未だ終わらない言い争いを放っておき、私たちは見回りに行くことにする。

「じゃあ、行こっか」

「そうね。準備は大丈夫?」

「ばっちし!」

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