新米船頭、川下りに家族をのせる
ある日の事。
船頭になったら、誰しもが思うことではないでしょうか、家族を乗せたいと、今回は私がはじめて家族に舟にのってもらった時のお話です。
私が船頭になって一年目晩秋の頃、家族と川下りをしました。
あれはコロナ前で、私はまだまだぺーぺー(今も、笑)でした。
船頭部屋で足袋を履き、法被をはおり、帯をぎゅっとしめる。それから、ばっちょ笠を目深にかぶり部屋をでます。
乗船場の桟橋を歩き、竿置き場からよく使う竹竿を持ち、停めてある舟のデッキに立ち、深呼吸をします。
奥さん、お父さん、親父、母、私の妹夫婦、奥さんの妹夫婦の家族が笑顔で乗り込みます。
「さあ、行こう!」
みんなを乗せた舟は、会社船頭のみんなに挨拶をし、子どもたちは手を振って出発します。
私が操船する舟は、ゆっくりと川をすべります。
11月30日だったかな、もう一日待てば12月でこたつ舟となる、まあまあ寒い日です。
しかし、その日は天気に恵まれて、思ったよりは寒くありませんでした。
まだ、マスクもしなくていい。
そんなあたりまえの日常の時。
わいわい、がやがやと賑やかに舟は進みます。
子どもたちは目を輝かせ、きょろきょろと川やお堀を見渡します。
「こらシュウあぶないって」
私は船べりから顔を覗かせて、川を見つめる甥っ子に注意をします。
当然、家族を乗せているので、仕事モードに入る訳もなく、いつもの勝手とはいきません。
ガイドもほどほどにみんなの様子を見ながら、舟は川からお堀へと入る城堀開門橋へと近づきます。
「狭い~」
と、みんながわーわー口々にいいます。
「大くんだいじょうぶと」
隣の奥さんがぼそり。
「みんな気をつけて、船べり、木枠のところ触っちゃ駄目だぞ、舟の中に身体入れといてね」
こつん。
橋の壁に舟がこすれました。
「あたったー」
子どもたちは満面の笑み。
「へたくそー」
と、親父。
「へたくそー」
と、奥さん。
「ここは難しいとこなんよ」
私はそう言いながら、竿持つ手に力を込めます。
朝晩秋のちょっぴり肌寒いお堀を舟は進みます。
しかしながら徐々に陽が射してきて、渡されたブランケットも不要になってきました。
天候にも恵まれて、ラッキーだなと私は心から思います。
3番目にくぐる石橋は狭くて低くて橋です。
「今度は当てないでよ」
と、プレッシャーをかける奥さんに、
「それは風次第っ!みんな今度は舟の周りと頭の上に注意だぞ」
私は、竿を小刻みに動かし調整、なんとか当たらずに通り抜けます。
「おお~」
と、みんなから安堵ともとれる不思議な歓声があがります。
「どゆこと?」
私は苦笑いです。
それから・・・。
ところどころ、ガイドをしたり歌をうたったり、いい感じに舟は掘割を進みます。
内堀に入り、しばらく進み水路が開けてくると「まちぼうけ」の像が見えてきます。
私は一つ咳払いをし、
「では、ここで一曲「まちぼうけ」♪まちぼうけ~・・・♪」
そこに甥っ子シュウの声、
「おっちゃん、アマゾンカード知っとる?」
誇らしげに言う彼の手にはライダーカードがありました。
「えっ、えっ、なに?なんで?今言う」
戸惑う私に、みんなは大爆笑です。
私もつられて大笑い。
思えばあっという間でした。
そうこうしている内に舟は到着しました。
出発時は、かなり緊張していた私も、みんなが無事下船してほっと笑顔です。
この後は、ここ沖端で柳川名物うなぎのせいろむしで昼食です。
「じゃ、また後で」
私は、そう言うと、外堀のほうへ舟を回します。
外堀に舟を係留させる場所がある為、奥さんと一緒に向かいます。
短い距離ですが、2人っきりの舟の中、
「良かったね」
奥さんが微笑みます。
「うん、天気よくて、無事に着いてよかった」
私は返します。
「ほう」
奥さんは私の顔を覗き込みます。
「ん?」
「ほほう、満足ですか」
奥さんはにんまり。
「はい。とても満足ですよ。ありがとう」
私は正直に答え、微笑み返しました。
舟はキラキラ陽光に照らされ、外堀へと向かいます。
(とても嬉しい日だ。ありがとう)
私は心の中で、みんなに感謝をしました。
思い出深いですね。