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第9話 子守歌

――俺は死んだのか……?


 深く暗い海の底のような世界で漂いながら、声が聞こえた。

 それは自分の声だとアークスは気付いた。

 するとその問いかけに答える声があった。


――死んでねえよ。ただ、普通ではなくなっちまったが……許してくれ……そうしなければお前は……あの事故で本当に……


 聞こえてくるのは自分に対する懺悔の言葉。

 本当に申し訳なさが滲み出ているような声だった。



――俺はもう……『人間』じゃないのかなぁ?


――『人間』だよ! お前はお前のままだ! ただ、色々な部分を人工物で代用してはいるけど……『人間』だ!


――それって『改造人間』ってやつなの?


――『人間』だ


――それって、『人間』って言うのか?



 誰と会話しているのか分からない。だが、態度や会話の様子から、その人物が自分ととても近しい存在であることがうかがえる。

 ただし、その者が誰で、どんな顔をしているのかも思い出せないのだが……

 


――バカ野郎! お前は人間だ! お前はこうして生きている! 悩むし、怒るし、笑うし、そりゃちょっと他人とは違うかもしれないけど、お前は生きている!



 生きている。

 それは誰の声かは分からない。 



――こんなんで……人間って言われても……


――に、人間だって! えっと、そう! 女の子とエッチなこともできるぞ! それに、お前は強くて何でもできるようになったぞ! 力持ちだ!


――……何でもって……


――何でもだ! おう、間違いない! お前の辞書に不可能という文字はない!



 その者の言葉に込められた想いが、アークスには非常に温かく、そして心に染み渡るような気がした。

 しかし、同時に切なくもなった。

 そして同時に……


「~~~♪」


 意識の中から聞こえる会話とは違う声が……いや……歌が聞こえた。

 温かく、優しく、癒されるような……でも……少し悲しい雰囲気がする。

 その歌に引っ張られるように、アークスの意識が海の底から引き上げられる。

 そこでようやく体の感覚が戻り、アークスはゆっくりと瞼を開けた。


「~~♪ あ……あら?」

「あんたは……」


 後頭部に感じる柔らかい感触。

 額に感じる優しく撫でられる手。

 そして、瞼を開けて真っ先に目に入ったのは、少し瞳に涙を浮かべていたものの、自分と目が合った瞬間に笑顔を浮かべる美しい少女。

 その表情に見惚れてしまい、一瞬言葉を失ってしまった。


「おめざめですか? おはようございます」

「あ、お、おはよ……えっと……クローナ……っ、お、お姫様だよな?」

「はい。ご無事で何よりです。お互いに。あと、クローナでいいですよ?」

「いや、でも……」

「でもではありません! 『クローナと呼びなさい』!」

「はい、呼びます……あれ?」

「はい、よろしいです♪」


 思わず名前を呼び捨てにしてしまったが、目の前の少女が姫という高位の身分であることを思い出して慌てるアークスだったが、クローナはそのことを一切気にすることなく、ただ目が覚めたアークスの様子に安堵しているようだった。


「こ、ここは……」


 見渡すと、外ではない。小屋? いや、天幕?


「昨日の森からだいぶ離れた山道です。あなたは丸一日眠っていたのです」

「一日……ッ、そうだ、あいつらは!?」

「大丈夫です。逃げ切りました。近くにキカイはいません」

「そ、そっか……俺、昨日は訳わかんなくなって気を失って……それで……」


 相変わらず失った記憶が戻ってはいない。しかしそれでも、目が覚めてからあったことについては覚えている。

 そして、気を失ったはずの自分がこうして生きているということは、守られ、助けられたからに他ならない。


「えっと、俺を看病してくれたのか?」

「ええ」

「そ、そっか……」


 お姫様に看病されていたことに気づいて戸惑うアークス。

 さらに、思い返してみれば、目覚める寸前に感じた後頭部の柔からかい感触。あれは膝枕?


「……? どうしたのです? 私の膝をジッと……あっ、そういうことですね!」


 思わずジッと正座しているクローナの膝を凝視してしまったアークスの視線に対し、あることに気づいたクローナはニマニマと笑みを浮かべた。

 


「アークス、安心してください!」


「え?」


「穿いてますよ?」


「ぶぼっ!?」



 出会った直後から諸事情によりノーパンだったクローナだったが、もう今はちゃんと下着を穿いているのだと、ペロッとスカートの裾をめくってドヤ顔をした。

 綺麗なシルクの白紐下着……


「って、女の子でお姫様がそんなことすんなよ!」

「……へ? あ、あああ、わ、私としたことが!? は、はしたないことでした!」


 慌てて声を荒げるアークスに、そして今の自分がやってしまったことに素で慌ててしまうクローナ。

 急に恥ずかしくなったのか顔を赤くしてしまう。


「ご、ごめんなさい、つい……あなたにはすでに色々と見られてましたし……」

「つ、ついで見せるの?」

「い、いえ、普段は決して……不思議です。なんだか、あなたには……って……ん~、どうしてでしょう?」

「い、いや、どうしてって言われても……俺が聞きたいというか……ま、まぁ、とりあえず」


 天然なのか、どこか抜けているのか分からないクローナの行動に焦ってしまったアークスだが、とりあえず……


「とりあえず、……その……助けてくれてありがとうな。クローナ」

「へ?」


 まずは礼を言わなければならない。

 自分を保護してくれたこと。

 さらに、キカイたちの脅威からこうして守ってくれたこと。

 感謝してもしきれないほどのことをしてもらったことを改めて認識し、アークスは頭を下げた。


「あ……あの……あなたは何も覚えていないのですか?」


 だが、アークスの例にクローナはポカンとした。


「え? うん、記憶はまだ……」

「そうではなくて……あっ、というより、私の方が本当に失礼でした! 『アークス』なんて馴れ馴れしく……『アークス様』に向かって!」

「……は? ……さま!?」

「はい、あなたは私たちをお救い下さる、希望の救世主様なのですから♪」

「……え?」


 アークスはまた気になる言葉をクローナから聞いた。

 救世主? 誰が? 思わず聞き返そうとしたとき……



「目が覚めおったか……救世主殿」


「あ、お姉さま。それに、『オルガス』まで」


「姫様! 自ら看病されると仰られましたが、男性と同じ空間に長居したら妊娠してしまいますぞ? 小生は姫様のそういった貞操観念には……いえ、救世主殿が相手ならこれはこれで……? ついに姫様にも! 御子様は何人に? 僭越ながら小生が教育係をさせて頂きます! 剣も勉学も文武両道の――――」


「あらあら、オルガスったら……」



 天幕が捲られ、外から二人が入ってきた。

 一人はトワイライト。


「あ、お、わ……」


 二人目はキリッとした目つきをし、尖った耳、長い黒髪、豊満な胸、肉付きの良い煽情的な体つきをした戦乙女。腰元には暗黒の剣。

 そして、目につくのは背中の黒翼。 

 すると、トワイライトが混乱しているアークスに向かい……


「では、救世主殿」

「……? 俺?」

「色々と聞かせていただきたいのじゃが……」


 まずは話をすることとなった。

 そして最初はやはり……


「まず……おぬしは何者だ?」


 その問いにアークスは顔を俯かせながら……


「俺もそれを知りたいんです……」

「なに?」


 自分の素直な気持ちを吐露した。



「てか、救世主殿ってなに?」

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