第34話 余裕……からの
もはや神に祈るのは無意味なことだと、アシリアを始めとして獣人も魔族もそういう思いを抱くものは少なくなかった。
むしろ、神がキカイたちを遣わして、自分たちを滅ぼそうとしているのではないかとすら思っていた。
しかし、絶体絶命の窮地で祈った時、とうとう神は自分たちの願いを叶えた。
この世に、自分たちの前に救世主を遣わせてくれた。
そしてその救世主は自分たちを救い、キカイたちを破壊するだけでなく、共に戦う力すらも自分に与えてくれた。
その想いに報わねばならない。
神に祈った時、自分の全てを捧げると誓った。その想いに嘘はない。
「ちゅっ……ふぅ、失礼致しました」
「あ、え、え?」
アシリアに突然足の甲にキスされ、何が起こったのか分からないアークス。
しかし、アシリアは真剣そのもの。
獣人たちも悲痛な表情ながらも「仕方ない」と受け入れているような表情。
そしてアシリアは、今度はゴロンと腹を見せて転がる。
「ちょっ、何やってんだ、ぱ、ぱ、パンツ見えて!」
それは服従のポーズ。
短いスカートから白い布がハッキリとアークスの位置から見えてしまう。
部下たちに風でまくれたスカートからチラリと下着が見られた時は顔を真っ赤にして声を上げたアシリアだが、今はそんなこと気にしない。
「私はアシリア……この身の全てを生涯未来永劫あなたのモノに……」
「は?」
「愛玩するもよし。粗末に扱うもよし。肉奴隷、肉人形、肉便器、好きなようにお使いください……ご主人様」
それは、多種多様な人種が存在する獣人族において、絶対的な服従の証明である。
それを、獣人族の頂点に立つ獣王の娘である姫が行うのである。
だが、相手は自分たちの救世主。
人類にとってそれほどの高位のものがしなければ釣り合いのとれぬ相手。
「ちょ、あ、えっと……いや、ど、どうすれば?!」
「ん~……むぅ……アシリアがアークスのペットになるのですか……」
「え!? クローナ、どういうことだよ!?」
訳の分らぬ状況にキカイと戦う時より動揺するアークス。
一方で、アシリアはキリっとした表情で立ち上がる。
「では、ご主人様。まだ首輪やら契りやらの儀式はまだですけど、それは後に。今はあなた様と共に戦わせて頂きたい!」
「え……あ~、もういいや! おうっ、一緒に戦うぞ!」
とりあえず、一緒に戦うというのならそれでいいと、アークスも細かいことを考えずに頷いた。
そして……
「聞きなさい! 今この場に居る者、そして天に召した我らが同胞たちよ!」
「「「「「―――――ッッ!!??」」」」」
アシリアはアークスから受け取った剣を掲げて叫ぶ。
「我らが宿敵であるキカイの脅威に対し、絶望しかなかった世界にようやく光が差し込んだ! ついに、我らの前に救世主さまが現れた! これより、全ての想いを乗せて人類の反撃開始の狼煙を上げる! 皆、我に……いや、私も戦い続けるわ! だから、もう一度立ち上がって、そして誇り高く吼えなさい! 力いっぱい!」
「「「「「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!!」」」」」
ビリビリと伝わる獣たちの熱気と野生の遠吠え。
キカイたちに反応も影響もない。
だが、自分たちに、そしてアークスたちの心を揺さぶる熱い声だった。
「メチャカテー! パイルバンカーッッ!!!!」
それに呼応するように、アークスも再び暴れまわる。
「ふふ、ご主人様に負けてられないわ! 今こそ、獣人たちの牙を見せてあげるわ! 獅子牙風風剣ッ!!!!」
「デリ――――――」
その後を離れてなるものかと、新たな力を得たアシリアが本領を発揮する。
獣のような獰猛さの中に、洗練されて研ぎ澄まされた技を融合させた剣を繰り出すと、キカイたちが次々とバラバラに刻まれていく。
「はは、すげーな、あんた!」
「ふふ、ご主人様、全てあなた様のおかげです」
「いや、俺は武器を造っただけで……ってか、敬語やめろ。ご主人様呼びも」
「何をおっしゃるのです、ご主人様。それはやめられません」
「いや、クローナともトワとも敬語無しだし……お姫様相手に敬語使われるのはどうも……」
「しかし、私がご主人様の――――」
頼もしく、もはやキカイは怖くないと高揚する気持ちは、いつしか戦いの中で雑談までする余裕まで生まれている。
二人はそんな会話をしながら次々とキカイたちを蹴散らしている。
「ぬわはははは、やりおるの~、アシリア姫も!」
「ふふふ、小生も何度も手合わせしましたが、あの御方も救世主さまより武器を授かったのであれば、これほど心強い味方はいない!」
「さて、それにしても先ほどチラッとみたが、アシリア姫は服従の議をしとったぞ」
「う、うむ……まぁ、救世主様に対してなら仕方ないが……」
「まいったのう! 戦終わりの乱交は、儂とクローナとオルガスに加え、アシリア姫も混ざるのか!?」
「ちょ、トワ!? 乱交などより、一人ずつお相手してもらう方が……って、いやいや、そうではなくて、戦いに集中しろ!」
新たに戦線に加わったアシリアに頼もしく感じながら笑みを見せるトワとオルガス。
「皆さんこちらです! さ、今のうちに城壁の隅へ。今なら外へ逃げるより、中で大人しくしている方が安全です」
「はい~、姫様たちが~、頑張っている間に~です」
一方で民たちの避難誘導しているクローナとセフレナは……
「それにしても……むぅ……アシリアってば……アークスと後でエッチする気ですね」
「あら? クローナ様、不機嫌ですか?」
「だって、アークスとの両想いさんは私なのです。それなのに、お姉さまやオルガスに加えて、アシリアもだなんて……」
「あらぁ? そうなのですか~? 皆さん、あの救世主さまと交わっているのですか~?」
「アークスはエッチもすごいんです! すっごい激しい『好きエッチ』だったり、ちょっと『甘えんぼエッチ』もするんです!」
「あらあら~、それはすごいですね~……あんなに強くて……頑張ってて……お顔も可愛らしくて……あと、甘えんぼさんなのですか?」
「はい、エッチの時にアークスは赤ちゃんみたいに甘えたりします! オルガスなんてそれでメロメロになっちゃったんですから」
「あらあら……赤ちゃん……赤ちゃんみたいに~……うふふ……赤ちゃんみたいに……いいですねぇ♥」
のんきに、そして後に大変なことになる前振りのような話をしていた。
だが、それだけもはや形勢が完全に傾いていた。
「す、すげえ……すげえ! 頑張れ救世主様! 姫様! トワイライト姫! オルガス大将軍!」
「うおおお、皆の仇をとってくれぇ!」
「がんばれぇ! いけええええ!」
顔を上げた民や足手まといにならないように離れた兵たちも、何もできないのならせめて声援を送る。
それがまた、戦う四人の後押しとなっていた。
「トワ! オルガス!」
「トワイライト姫、オルガス大将軍!」
「おう! 二人とも派手に暴れておるのぅ」
「救世主さまもアシリア姫も、ご無事で!」
そして、乱戦からようやく一か所に集まる四人。もはやキカイ相手に無双し、傷一つ負っていない。
「トワイライト姫……この度は―――」
「待て待て、全て終わってからじゃ。残るキカイを掃討してからじゃ」
「……ええ、そうね!」
魔族と獣人、異なる種族の姫同士。本当は色々と話すことはたくさんあるが、流石にもう少し待ってから。
とはいえ、敵も残り少ない。
「ふふふ、もはやキカイ相手に恐れることが無くなったとは……救世主様! やはりあなた様より戴いたこの剣は最高です!」
「ああ、調子良さそうだな、オルガスも」
「今宵は存分に小生の膝でも胸でも使って甘えて頂きたい……っと、考えただけで鼻血と股濡れ……いえいえ、とにかく今宵はお楽しみに! ……アシリア姫のことは後でお聞きしますが」
「は、はは……」
四人は並び、そして残るキカイに目をやる。
「残るは……3じゃな」
「ええ……ん? それにしても、初めて見るわ」
「ふむ……『赤』、『青』、『黄』……色違いのキカイですな……しかし、形は通常のキカイと変わりませぬな」
「……こいつら……」
残るキカイは3体。
「そうだ、トワ、オルガス。こいつら全滅させないで撤退させたら……」
「ん? おお、そうじゃったな。例の……ファクトリーへと……か」
「ああ」
「う~む、とはいえ、どうせこやつらの後をつける前に、民たちをエデンへ移送――――」
そう、ここで目の前のキカイを倒すだけでは、また新たなキカイが生まれて襲ってくる。
それよりも有効なのは基を断つこと。
だからこそ、ある程度は倒しても、ここで全滅させるのではなく……と、アークスが告げようとした……
「警戒レベルアップ。α、モード変更」
「警戒レベルアップ。β、モード変更」
「警戒レベルアップ。γ、モード変更」
そのとき、残り三体となった『赤、青、黄色の色違いのキカイ』たち。
「「「「…………え?」」」」
これまでは奥で待機しており、
そして……
「「「α、β、γ、変形合体」」」
「「「……は?」」」




