第33話 救世主へ
「大メチャカテー・チェンソー! うらあああああああ!」
この世の誰もが倒すことのできないはずだったキカイ。
それを、次々と破壊していく謎の男。
魔族ではない。自分たち獣人とも耳の形も違うし、尻尾もあるわけではない。
誰かは分からない。
しかし……
「ドリルランチャーッッ!!!!」
自分が、自分たちがこれまでやりたかったこと。
全ての怒りを込めてキカイ共を手当たり次第に破壊するという行為を自分たちに代わってしてくれる男。
自分たちに代わって怒りをぶつけてくれる男。
十体。二十体。次々とキカイたちが破壊されていく。
「あ、あなたは……一体……」
「す……すごいです……」
気づけば腰を抜かし、呆然とするアシリアとセフレナ、そして獣人たち。
その問いかけに応えぬまま、男は暴れまわる。
そして……
「その御方は、儂ら人類の前に現れし、救世主殿じゃぁ!」
「キカイ共、貴様らの無敵の時間は既に終わり! これより小生ら、魔族も獣人も含めて人類の反撃開始とさせてもらおう!」
広場に集まったキカイだけでなく、城門に集まって出入り口を封鎖していたキカイたちの一団が砕かれながら宙を舞った。
それは、男以外にもキカイを倒す者たちが現れたということ。
その人物は……
「あっ、ひ、姫様! あ、あの御方は!」
「あ……トワイライト姫! それに、オルガス大将軍ッ!!」
たとえ、異種族であろうとその存在と名は、全世界に知れ渡る、魔族最強の女二人。
そして、ようやくアシリア達は最低限の状況を知った。
「生きとるかぁ、アシリア姫よ!」
「トワイライト姫……き、来てくださったのですね……こ、こんなに早く!」
「うむ! 貴殿らの仲間の伝令、ちゃんと務めを果たして儂らの元へ辿り着いた!」
「ッ!?」
「あ奴は逝ったが、その最後の願いは儂らにちゃんと届いた! 貴様らで後でその伝令に多大な恩賞でもくれてやるのじゃ! おかげで、数は少ないが……儂、クローナ、オルガス、そして……儂ら人類の天敵たるキカイを無双する、救世主殿が駆け付けた!!」
間に合わないと思っていた。それ以前に、伝令は辿り着けていないとすら思っていた。
しかし、届いていた。
そして、その願いを過去の様々な争いのあったものの、魔族の王族自らが受け入れ、ここまで駆け付けた。
しかも、キカイたちを蹴散らす力を身に着けて。
「アシリア、セフレナ、ご無事ですか~!」
「あっ……クローナッ!」
「クローナ姫……」
そして、乱戦の中を潜り抜けてクローナがアシリア達の元へ。
「クローナ、こんなに早く……あなた自ら来てくれたのね……」
「ええ。いま手当をします」
こんな状況下でも優しく微笑むクローナに心の落ち着きを取り戻していく、アシリアとセフレナ。
クローナの魔法でキカイたちにやられた二人の怪我が癒えていく。
だが……
「ありがとう……助かったわ」
「いいえ、とにかく間に合ってよかっ……あ……」
クローナもそこで気づく。広場に横たわる巨暴部隊の遺体。そして、立ち往生する……
「トントロよ」
「トントロが……そうでしたか……」
間に合ったが、間に合わなかった命もあった。
その中には、クローナも知っている者も含まれていた。
そのことを知り、クローナも「覚悟はしていた」ものの悲痛の表情を浮かべる。
「うおおらあああああああ!」
一方で……
「ぬわははは、救世主殿はヤル気満々じゃな! また濡れてきた♥ 鎮めるために儂も暴れねばな! のう、オルガス! 戦終わりには救世主殿と乱交でもするか!」
「しょ、小生は昨日いっぱいシテもらっ……いや、別にだからもういいというわけでは、じゃなく、今はキカイを皆殺しが先!というか、トワ、もう救世主殿をぶん投げるなどやめるように!」
「いやぁ~、ヤバそうだったし、入り口が塞がれておったし……」
「いかに姫とはいえ、もう、その……救世主さまは、しょ、小生にとってもイイヒトなのだ……」
現れた救世主……アークス。そして、これまで自分たち同様にキカイを倒すことができなかったはずの、トワとオルガスまでもが、キカイを倒している。
「ねぇ、クローナ。どうしてキカイを……それに、彼は何者なの?」
その問いに、クローナは「むふー」と胸を張って答える。
「彼はアークス。私たちの前に現れた……キカイを倒すことができる……私たちの救世主です!」
「ッ!?」
その言葉にアシリアもセフレナも、そして獣人の残存兵や民たちも目を見開く。
救世主。その言葉の通り、自分たちの絶体絶命のピンチに駆け付け、人類の天敵であるキカイを蹴散らしている。
「そして、アークスは武器を造り出すことができます……今、お姉さまやオルガスが持っている武器がそれです……キカイを倒すことができる、対キカイ専用の武器です!」
「な、なんですって!?」
「アシリア……私たちはもう、キカイと戦うことができるのです! アークスと一緒に!」
そう言われて、皆がアークスの姿に注目する。
そしてまた、キカイを破壊していく。
「す……すごいわ……救世主……様……」
そのアークスから武器を与えられたというトワとオルガスと共に。
「きゅ、救世主さまだ……」
「神様が……神様が……」
「救世主……」
「救世主様……」
この場に、クローナの言葉を疑う者などいなかった。
自分たちを救い、そして天敵たるキカイを破壊して回るアークスの姿に、
「「「「うおおおおおおお、救世主様バンザーーーイ!!」」」」
希望と歓喜の声を上げた。
「クローナ、ここは俺たちに! 今の内、他の人たちをもっと下がらせて!」
「はい、アークス! おまかせあれです!」
一頻り蹴散らし、一息つきながらアークスがクローナたちの元へ駆け寄る。
同時に、アシリアは思わず姿勢を正した。
「きゅ、救世主様!」
「……え……」
「わ、私は獣王の娘、アシリアと申します! こ、この度は……」
「あ、ああ、あんたがクローナの友達の……そっか……」
「は、はい。我々をお救い下さり、感謝の――――」
「今はそんなこといいじゃねえか!」
「……へ……」
「俺たちは間に合わなくて、死んじゃった人もいる……これ以上死なせないことを今は!」
「ッ、ぎょ、御意ッ!」
本来、姫として種族の最高位であるアシリアは人に頭を下げない。
しかしこの時、自然と体が動いた。
片膝をついて、手を合わせて、頭を下げた。
まるで、家臣が主にするかのように。
「っと、キカイがまだ結構いるから、俺はもう一暴れする。クローナも皆を誘導しながら、ピストルで援護お願い!」
「ええ、おまかせあれです! アークスに造ってもらった『対キカイ弾丸』で、穴あきです!」
そう言って、クローナは微笑みながら魔砲銃を取り出して、そのままキカイの腕や足の関節を狙い、撃ち抜いた。
「お、さすが!」
「ふふん、どんなもんだい、です♪」
そう、アークスは移動の途中で、トワとオルガスだけでなく、クローナ専用にも武器を与えた。
これまで使っていた魔砲銃から、アークスがキカイを素材に造り出した弾丸を打ち抜くことで、キカイを貫く。
「クローナ、あ、あなたまでキカイを……」
まさか、クローナまでキカイを倒せるようになっているとは思わず、驚きを隠せないアシリア。
そんなアシリアを見て、アークスもハッとした。
「そういえば、クローナ。このお姫様って、強いって言ってたよな?」
「え? はい、そうです。アシリアの剣は魔王軍が認める天下一品なのです!」
「そうか……なら……あんた、もう怪我とか大丈夫か?」
「え、あ、は、はい。クローナに治療されて……」
「そうか、なら……」
そう言って、アークスは両手を前に出し、義眼の瞳を光らせながら力を練る。
すると、アークスの手には、輝く剣が。
それは、キカイを素材に生み出した剣にして、
「これをあんたに」
「ッ!?」
「これで戦って欲しい」
アシリアへ渡す対キカイ専用の剣。
一瞬状況を理解できなかったアシリアだが、そんなとき、クローナが声を上げる。
「アシリア、その剣でキカイを斬れます! 試すのです!」
「え、あ、え……」
「速く!」
言われるがまま、手にした剣で近くにいたキカイに斬りかかるアシリア。
鈍重なキカイの間合いの中に入り込むのは、アシリアなら容易い。
それでも今まで何度も剣を振りぬいても剣が壊れるだけだった。
しかし、今は……
「デリ――――」
「なっ……あっ……」
容易く果実や野菜のように、アシリアの剣は、生涯初めてキカイの身体を両断した。
「な、あ、アシリアさまが……」
「アシリアさまがキカイを倒した!」
「あ、あああ! ついに、ついに!」
「アシリア姫が、救世主さまより賜りし剣で、ついにキカイを斬った!」
先ほどのアークスに対する歓声以上の歓喜の声。
獣人たちの希望である獣王の娘、黄金姫騎士アシリアが、ついに人類の天敵であるキカイを一体葬ったのだ。
その現実に、獣人たちが熱く声を震わせ、歓声と共に涙を流した。
「わ、私が、キカイを……斬った……キカイを……あ、あああ……嗚呼!!」
アシリアも最初こそ現実に呆然としたが、その手に残るキカイを両断した感触や、熱い空気、何よりも全身に行き渡る抑えようのない興奮を感じ、感極まり、全て理解した。
そして、
「救世主様……いえ……『ご主人様』……全てをあなた様に……」
「ん? は?」
アシリアは己の決意と誓いを示すために、アシリアは今一度剣を地面に突き刺し、そしてその場で四つん這いになって、アークスの足にすり寄り……
「数秒お時間を」
「ちょ、は、え、な、なにやって」
「片足だけで良いの。靴を脱いで素足を」
「は、えあ、は?」
この状況で一体何を? アシリアの突然の行動に訳が分からぬアークス。
「あっ、アシリア……あなた……」
「姫様……それが……姫様のお決めになられた道なのですね~」
しかし、クローナやセフレナや他の獣人たちは察した様子で、その状況を見守り……
「簡易的ではあるけれど……忠誠の儀式を……クローナ! トワイライト姫とオルガス大将軍に数秒だけ耐えてもらって!」
「ふぁっ!?」
そして、アシリアは……
「ちゅっ」
「ひゃっ!?」
その無垢で穢れのない舌で、アークスの蒸れた足の甲にキスをした
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