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第32話 神へ

「や、やめろぉおおおおおお!」


 覚悟はあった。

 戦争に出たり、命の危険が伴う任務を請け負ったり、それ以前に兵士となった時点で。

 しかし、その覚悟のうえで自分たちはどんなときでも互いに支え合い、笑い合い、時には切磋琢磨して時間を過ごしてきた。

 だが、その覚悟すらも、これまでの積み重ねも何もかもを、無慈悲にキカイたちは奪っていく。


「姫様~、危ないです」

「で、でも、私も一緒に戦って……」


 一緒に戦って……どうする?

 唯一の門は既に塞がれ、蹴散らすための巨暴部隊も既にキカイたちの前にひれ伏している。


「な、なんで、なんでこんなことに……」


 キカイは人の言葉を発しても、意思疎通はできない。

 命乞いも駆け引きも何も通用しない。ただ、殺すだけ。まるで人形のように。


「うおおおお、切り開け、おれたっ、ぷほっ!?」

「くそ、クソおおおおおおお!」


 そして、虚を突かれて先手を取られてしまえば、あとはキカイの武器で一斉掃射。

 強靭な獣人たちの肉体を簡単に抉り、撃ち抜き、そして命を奪っていく。

 

「うわぁ……だ、だめだ……に、逃げられねぇ……」

「くっ、せめて、せめて子供だけでも!」


 しかし、それでも僅かでもと……


「きょ、巨暴部隊、最後の意地を見せろぉおおお!」

「キカイ共にしがみついてでも、少しでも道をきりぶほっ!?」

「うらあああああああああ!!」


 だがキカイは獣の執念に怯むこともない。


「あ、あぁ……」

「…………」


 広場に居る仲間と民たちの陣頭指揮をと、城壁の下へと駆け付けたアシリアとセフレナは、あまりの凄惨で一方的な惨状に、もはや立ち尽くすしかなかった。


「……もう、終わりよ……」


 もはやこの場に居るほとんどの者たちが理解している。

 ここまでだと。

 死ぬことなど怖くないと思っていたアシリアも、何も抵抗できずに殺されることに恐怖を抱き始めた。

 自分たちは皆殺し。

 自分も兵も、民も、女子供に至るまで容赦なく。

 そんな無慈悲な虐殺から民たちを守るための自分は何も……

 

「姫ッ、顔を上げろ! あんたはあたいらの希望なんだ!」

「ッ!?」


 だが、膝をつきそうになったアシリアを、手傷を追ったトントロが無理やり支えて引き起こした。



「頼むよ! 勝てねえかもしれねえけど、最後まで戦ってくれ、あんたは! たとえ、逃げても、敗北しても、立ち上がらせてくれよ、あんたが! いつの日か、あいつらを倒せる日が来るまで、あんたが諦めるなって皆に言い続けてくれ!」


「トントロ……」


「それだけで……それだけであたいらは、殺されるんじゃない……戦って逝ける!!」



 女でありながらいつも粗暴で豪快で強いトントロが見せる、涙交じりの懇願。

 もう、この状況はどうしようもないかもしれない。

 しかし、終わるにしても最後まで戦って欲しいという願い。



「うえ~ん、ひめさまぁ」


「うえ、え、えう」


―――――ッッ!!??



 そんな時だった。

 広場の混乱の中で、幼い子供たちが泣きながら駆け寄ってきた。



「あ、あぶ―――――」


「デリート」


「ッ!?」


 

 同時に、キカイが悪魔の武器を幼い子供たちに向ける。

 間に合わな―――



「させるかぁぁああああああああ!!」


「あ―――――」


 

 次の瞬間、トントロが爆発的な速度で子供たちの前に壁となって立つ。

 全身の筋肉に力を入れて、両手を広げて―――



「や、やめ――――」


「デリート」



 そして、その頭部を吹き飛ばされた。


「あ……あ……」

「ひ、い、……あ……」


 子供たちは口を開けたまま固まる。

 自分たちを守るように壁となって立つ、頭部のない体。

 しかし、頭部を失っても倒れることなく、両手を広げたまま往生していた。


「と、トントロぉおおおおおおおおおおお!!!!」

「ううわあああああ、隊長ぅううう!」

「あ、うわあああああああ!?」

「トントロ……さん……が……あ……あ」 


 獣人たちにとっての英雄でもある女兵士トントロの凄惨な死。

 彼女の部下や多くの民たちが涙の悲鳴を上げる。


「あ……あ……あ……」


 それは折れかかっていた獣人たちの心を完全にへし折るには十分すぎる悲劇であった。

 兵士たちから次々と力が抜けて、項垂れていく。

 だが……


「う、お、あ……ガアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!」


 百獣の姫の怒りの咆哮が響き渡った。



「ウワアアアアア、よくも、よくも、よくもぉぉおおおおお!!!!」


「デリート」


「うるさいッ! うるさいうるさいうるさいうるさい、うるさいわッ!!」


 

 高潔なる姫騎士として、常に凛とした姿を見せていたアシリアが、獰猛な野生の獣としての本性を剥き出しに、剣を振り回す。

 剣が折れたなら、拳で殴る。

 拳の骨が折れれば、爪を突き立てる。

 爪が剥がれれば、その足で蹴る。


「姫様……」


 並ぶキカイたちを次から次へと吹き飛ばし、なぎ倒し、転ばせる。

 怒りの本能に任せて暴れまわるその姿は、正に獣王の血族に恥じぬ雄々しさであった。

 

「はあ、はあ、は……キカイ共、許さないわ……絶対に!」


 だが、それでもキカイを殺すことはできない。

 倒されたキカイたちは何事も無かったかのように立ち上がり、一方で攻撃していたアシリアの方が、両腕が無残な血まみれに。骨が折れ、爪が剥がれ、もはや握りしめることすらできない拳。

 それを見て、兵も民たちも「やはりここまで」と誰もが絶望した。

 しかし、それでも……


「絶対に、このまま終われるわけがないわッ!!」


 痛みと怒りに肉体を支配され、怒りによって伸びた鋭い牙を剥き出しに、その瞳はまだアシリアは屈していない。

 勝てないのは分かっている。

 それでも、最後まで戦う。

 そして、願う。 


「神よ……どうか……どうか我が願いを、聞き入れよ!」


 それは、世界の人類の大半が既に「祈りつくした」と言える、神への願い。

 いや、それはもはや要求に近い物言いであった。



「どうか、どうかこの無念を晴らす力を、キカイを倒す力を与えよ! その願いが聞き入れられるなら、この私の身も心も命すらもいくらでも捧げよう! 私の全てを引き換えにして構わない! 命も、魂も、誇りも、未来も、私の全てと引き換えで構わない! どうか……どうか!」


「デリート!」


「こいつらを倒せるのなら、私は全てを捧げます! どうか、神よ!」



 牙を剥き出しにしても、睨んでも、一切怯まないキカイが武器をアシリアに向ける。


「姫様ぁああ!」

「あ、だ、だめ! 誰か、姫様を!」


 キカイたちは容赦なく、アシリアの命を奪おうとする。

 その最後の間際まで、アシリアはただ吠え続けた。神へ向かって。

 そして……



「巨大メチャカテーハンマー・プレスッッ!!!!」


「……え?」



 空から救世主が現れた。

 アシリアの願いを聞き入れた神が、救世主を世に遣わし、アシリアを殺そうとしたキカイ数体を同時に、巨大なハンマーでペシャンコに潰した。


「あんた、無事か!」

「え……あ……え?」

「ふぅ、トワに遠くからぶん投げられた時はびっくりしたけど、どうやら間に合っ……あ……」


 そして、現れた救世主は辺りを見渡し、倒れている巨暴部隊の遺体や、頭部を失った状態で立ち往生しているトントロの遺体を見つけ歯ぎしり。



「間に合……わなかったか……くそおおおおお、テメエら!!!!」


 

 その怒りの咆哮と共に、これまでアシリアや獣人たちの叫びに一切反応しなかったキカイたちが振り返る。

 だが、救世主はそのことに恐れることなく、


「デリート。デリ――――――」

「うるせええ!」


 再びキカイを叩き潰した。



「「「「「ッッッ!!!!????」」」」」



 その、絶対にありえないはずの衝撃と奇跡を目の当たりにし、言葉を失うアシリア達。


「お前ら、一人残らず抉って刻んで叩き潰し、そして喰らってやるッ!!」


 しかし、そのことに構うことなく、救世主は吼えて暴れる。


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