表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/35

第31話 狩られる獣人

「モ、モグラキカイ!?」


 このタイミングでモグラキカイが城内に侵入してくることは、アシリアたちにとっては完全な予想外の事態。


「こ、こいつら!? いつの間に……」

「やべえ、急いで民たちを遠ざけろ!」

「くそ、拘束しろッ!」


 士気最高潮で特攻準備をしていた巨暴部隊たちが思わぬ先手を取られてしまった。

 

「お前らぁ! 相手は数体だ! 力任せに取り押さえろ! 姫、セフレナ、もうモグラキカイが来ちまった以上、ここは保てねえ! 急いで号令を!」


 城壁からトントロが叫びながら飛び降りる。

 そう、こうなってしまえば、籠城する意味ももはやなくなってしまった。

 たとえ、今の時点ではモグラキカイの数は少なかろうと、これから後続も来るだろう。

 キカイを倒すことができない以上、モグラキカイを拘束したところで、もう時間の問題。


「分かったわ!」


不幸中の幸いだったのは、既にアシリアも籠城をやめることと、民たちにはいつでも動けるように準備させていた。


「おい、広場にモグラキカイが!」

「キカイ……う、うわ……も、もう、もう終わりだ……」

「あぁ、俺たちはここで死ぬのか……」

「ひぅ、おかーさん……おとーさん……」


 最悪なのは、キカイの侵入に民の獣人たちが恐怖で竦んでしまっていること。



「うおおおおお、テメエら、ビビってんじゃねえ! 男どもも、それでも陰嚢ついてんのかぁ! あたいらがどうにかしてやっから、逃げるぐらい自分の足でどうにかしやがれってんだぁ!」



 民たちの怯えた空気を察して、瞬時に荒々しい声を上げるトントロ。

 そう、ここから先、全員を救うことなど不可能。

 必ず何人かは犠牲を強いられる。

 一人でも多く助かるには、一人一人が逃げることを含めて民たちも全力を尽くすしかない。


「っ……勇猛なる誇り高き獣人族たちよ! お前たちの牙は……野生の脚は全てが飾りか! 誇りあるのならば、逃げることに臆するな! もはや活路は籠城をやめ、開門と同時に全速力で森へ逃げ込み、そして港へと目指すことだ!」


 アシリアも剣を抜き、即座に民たちを鼓舞する。

 

「自力で走れるもの、走れぬ老人や子供たちを抱え、その牙で少しでもキカイたちを怯ませ、その脚で振り切るのだ! 今こそ、私たちの野生の生存本能を見せつけるのだ!」


 アシリアは唇を噛みしめる。

 これほど情けない号令をするなど、考えたこともなかったからだ。

 相手を殲滅するために鼓舞するのではない。

 勝てない相手から全力で逃げようと鼓舞する。


「セフレナ、あなたも行くわよ」

「はい~」


 情けなく、しかしそれしか現状では手が無いからこそ、そしてそれでも救うことができない命も存在する。

そんな現状に、獣人族の王族として悔しいと、アシリアの瞳には涙が溢れている。


「な、なあ……」

「ああ、くそ、行くしかない……」

「子供だけは……子供だけは何としても……」


 その悔しい思いは、民たちにもちゃんと伝わるもの。

 皆が互いに頷き合い、何とか自分の脚で逃げる決意を固め始める。

 だが……しかし!!!


「デリート」

「ッッ!!??」


 そのとき、地中から広場に飛び出したモグラキカイしか見ていなかった者たちは誰も気づかなかった。

 警戒していたはずが、浮足立っていた。

 地中から、城壁の「中」を掘り進んで……


「この揺れ……ッ!」

「あっ!?」


 足元が揺れ出し、アシリアとセフレナはハッとする。

 そして、徐々にその振動が大きく、そして自分たちの元へと向かっているからだ。

 

「いけないわ、セフレ――――――」

「しまっ―――――」


 気づいたときにはもう遅い。

 おっとりしていたセフレナですら目を大きく見開き、その場から慌てて飛び退こうとしたが……


「デリート」

「ッ!?」


 足元から新手のモグラキカイが飛び出し、


「あ―――――」

「セフレナぁぁぁああああ!!」


 術士のセフレナの片腕を抉った。

 


「ああああああ、あっ、うっ!」


「「「「「セフレナさまああああああああああ!!!!」」」」」


 

 血が飛び散る。悲鳴が飛ぶ。

 獣人の兵士や民たちにとって、誰もが知り、尊敬し、そして頼りにし、何よりもこの籠城戦において生命線とも言えたセフレナが手傷を負った。


「デリート」

「うおおおおお、させるかぁああああ!」


 果敢にアシリアが剣を抜いてモグラキカイに斬りかかる。

 いや、斬るのではなく、剣の腹で叩いた。

 剣で斬りかかっても、剣が砕けるだけ。

 だからこそ、キカイ相手には叩くのが有効。

 それで倒せるわけではないのだが、少なくともキカイを衝撃で飛ばすことができるので、距離を取ることができる。


「セフレナ、しっかり!」

「っ、だ、いじょうぶです……急所は外れています……」

「ぅ……セフレナ……」


 大丈夫。そう口にするものの、夥しいほどの血が床に流れ、セフレナは大量の汗と苦痛の表情を浮かべている。

 急所を外したとはいえ、このまま傷を治療しなければ……


「あっ、しま! いけません!」

「え……あ……」


 だが、セフレナの怪我以上に最悪の展開が訪れる。

 それは、今のダメージにより、セフレナが展開していた結界が……


「うわあああ、も、門が!? あ……」

「ヤバイ、門が壊れ……外のキカイたちが一斉に!?」

「いやああああああああああああ!?」


 そう、結界が解除されてしまった。

 そして次の瞬間には大量の乾いた音と共に、強固な門に穴が開き、ひびが入り、そして砕かれる。


「そ、そんな……なんて……こと……」

「あ……あ……ああ!」


 一つしかない出入り口から、何十ものキカイたちがとうとう砦内に侵入を許してしまった。

 


「くっ、やべえ……隊長!」


「え……えええい、蹴散らせ! あたいらが活路を切り開く! モグラキカイは無視して、門から入ってきたキカイどもに一斉に突撃しろぉぉお!!!! 全体、突撃ぃいいいいいいいいいいいいいいい!!!!! 活路を切り開けぇええ」


「「「「御意ぃいいいいいいいいいいいいいい!!!!」」」」



 そして……



「「「「「デリート」」」」」



 凄惨な虐殺が始まる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↑面白いと思っていただけたら「★★★★★」をポチッとぶち込んでください!!
とても大きな励みとなります!!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ