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第28話 悶々大将軍

 地震が起こっているわけでも、怪物が暴れて咆哮しているわけでもない。

 単純に、民家が揺れているのではと思えるほど激しく中でイロイロと起こっている。

 アークスとクローナとトワの三人は……


「……っ……まったく……いつまで『お楽しみ』なのだ……トワも、クローナ様も……救世主さまも」


 部屋に戻って「お楽しみ」な三人とは別に、一人ポツンと風呂に入って一休み中のオルガス。

 しかし、その心はどうしても三人が気になって仕方なかった。

 

「ええい、まだ戦時中! ましてやこれから獣人軍との同盟に従い命がけの救出作戦を実行しようというのに、チューチューズボズボと何を考えておるのか!」


 風呂の中で悶々としながらも、元来生真面目なオルガスは己を律しながらも主たちの振る舞いに憤りを叫ぶ。

 だが一方で、それはそれとして……


「はぁ……トワもクローナ様も……あんなに気持ちよさそうに救世主さまを……うぅ……」


 思い出しただけで込み上げてくる想いにオルガスもまた嘘が付けなかった。

 突如自分たちの前に現れたアークス。

 最初は半信半疑だったが、その男はこの世界の誰もが成していないキカイの打倒を果たした。

 それだけでなく、自分やトワに対してキカイを打倒する力を与えてくれた。

 そして最後には、雄々しく吼えて大量のキカイたちを葬り去った。

 そんなものを見せつけられて、何も思うなというのは不可能。

 トワにも見破られた。


「濡れた……」


 初めて異性に対して感じた想い。

 これから、少しずつゆっくりとアークスのことを知り、もしクローナとアークスが結ばれるようであれば心から祝福しよう。

 あの夜、クローナとアークスが可愛らしい口づけをしたのを覗き見したときのその気持ちに、嘘は無かった。

 だが、そんな自分に対してトワは違った。

 アークスを求めて貪った。

 そんなトワに触発されてクローナは色々な段階をすっ飛ばして大人の階段を上った。

 そしたら、トワもアッサリと合流し、今では三人寝室でお楽しみ中。

 それを見せつけられたオルガスとしてはたまったものではなかった。


「し、しかし、それにしてもトワもクローナ様も……大丈夫だろうか? も、もし、万が一……ややこができてしまったら……ややこ……子供……赤ちゃん……そういえば救世主さまも赤子のように……っっ~~~」


 自分にも他人にも厳しく、部下への命令や鍛錬も「鬼」だの「非情」だのと呼ばれていたオルガスは甘やかさない……というわけではなかった。


「はぁ……かわいかったな、救世主様……甘えられたい……小生も」


 オルガスは厳しくしているようで、甘い。

 全ては仲間や部下や主に対しての想いやりからこそである。

 そして、そんなオルガスにも夢がある。


「いかんいかん。そんなことよりも、もし二人が懐妊した場合だ……ま、まぁ、素性はよく分からぬが救世主さまはもはや疑いなき英雄ゆえ、魔王様も許すやもしれぬが……しかし、二人まとめては……まぁ、それだけ救世主さまの存在が重いと思えば……だが、となると小生が生まれてきた子供の教育係を……子供か……いつか小生も自分の子を……いかんいかん、そうではなくて」


 色ボケてしまった主たちの代わりに自分がしっかりしなければ……と思ったものの、気づけば数秒でオルガスも妄想の世界へ。

 何度も頭を振って冷静に正常に戻ろうとするも、全て無駄な――――


「ん? 誰だッ!!」


 しかし、次の瞬間、オルガスの表情が変わった。

 兵士としての表情に。

 この浴場に誰かの気配を感じた。

 しかし、この村には現在自分たちしかいない。

 トワか?

 クローナか?

 それとも……


「えっ……ッ!? お、オルガスッ!?」

「なっ?! ち、ちんp……救世主様ぁ!?」

「ふぁ、な、ご、ごめん、入ってるとは知らなくて!」

「い、いえ、な、な、救世主様はどど、どうして!?」


 浴場に現れたのはアークスだった。

 誰も入っていないと思っていたのか、当然服を脱いで入ってきた。

 まさか、アークスとは思わず、しかも色々と気になっていた男の全裸姿に思わず取り乱すオルガス。

 しかし、自分の今の格好にも気づき、慌てて肩まで湯に浸かった。


「あ、お、俺、もう……二人がようやく満足してくれたみたいで、ぐっすり……でも俺もすごく、グチャグチャになったから……もう一度風呂に入って体を洗おうかと……」

「そ、そうでしたか、お、お疲れ様でございました。随分とお楽しみでしたね」

「うぐっ?! そ、そう、だよな……なんか、俺も結局そのまま……」

「あ、いえ、責めているわけではありませんぞ! そもそも姫様たちが望まれたことですので、むしろお疲れ様ですと!」


 どうやら、ようやく終わったようだ。

 本当に随分と長くお楽しみだったなと苦笑するオルガスだが……


「……ん?」


 僅かな引っかかりを感じた。

 

(……性の魔獣と化したトワを相手に、しかもクローナ様も二人がかりで長時間……ようやく解放されて二人はグッスリ……救世主さまは?)


 そう、アークスも少しやつれて疲れているように見えるが、それでも自分の足で歩き、普通に体の汚れを流そうと風呂に入りに来ているあたり、まだ元気が?

 そんな引っ掛かりが頭を過ったが……


「と、とにかく、俺出るよ! ごめん!」

「あ、いえ、救世主さま、そ、それには及びませぬ! ど、どうぞ遠慮なさらず……」

「い、いや、でも!」

「な、な~に、あの姫姉妹の至高の肉体のお相手をした救世主さまが、私めのような醜女に気を使うことなど―――――」

「は、は!? 何言って、あんたメチャクチャ美人なのに?!」

「ははは、なにを……ふぇ?!」


 慌てて風呂から出て行こうとするアークスを見て、引っ掛かりは頭の片隅から消えてオルガスはアークスを止める。

 別に気にするなと。

 だが、このとき、オルガスは失敗を犯した。


 普通に「自分はもう十分なので、自分が出ていく」


 この場合、そうすればよかったのだ。

 しかし、その判断を間違え、挙句の果てにアークスと一緒に入るということをしてしまったがために……



 主である姫姉妹から糾弾される?



 いや、違う。



 ただ、堕ちるだけ。






 現在、足腰立たずに精魂満たされ過ぎた姫姉妹のように……


「お、お姉さま……起きてますか?」

「お、おお……」

「……え、えへへ、調子に乗りすぎましたね……」

「うむ……救世主殿も後半から頑張ってくれたしのう……」

「が、頑張りすぎでしたけどね……」


 むせかえるような熱気と生臭さが満ちた民家の寝室のベッドの上で、一糸纏わぬ姫姉妹。

 

「……明日……大丈夫でしょうか?」

「……まぁ、寝れば…………一応、回復魔法を頼む」

「はい……ですね。しかし、アークスはお風呂に行っちゃいましたね……」

「なかなかタフな救世主殿じゃ……儂が先に果てるとはな……というより、回数が……男は一回~二回で終わりというのは迷信であったか……」

「ええ……何だかんだでずっと私たちのお相手を……」

「いずれにせよ、ちゃんと回復せねば……これで明日の戦で足腰ガクガクで失敗でしたでは、歴史に汚名を残すぞ」

「はい……ですね」


 最初は互いに張り合っていたのだが、その表情は何のわだかまりもないかのようにスッキリしていた。



「っ、とりあえず、明日の朝一で出発を考えるとノンビリ朝に風呂も入れぬし……体は疲れとるが、入るか」


「は、はい……ですね。今度はちゃんと入ります……」


「うむ。流石にこれでもう一回は……な」


「ええ、流石に『もう一回』はアークスでもダメになっちゃいますからね」



 そう会話をしながら、くたびれた体を起こして浴場へ向かおうとするクローナとトワイライト。


 しかし、そこで二人は―――――――――――

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