第24話 はしゃぐ
アークス、クローナ、トワ、そしてオルガスの四人が皆と分かれて初めての夜。
その日の夜は野宿などではない。
一つの小さな『村だった』場所。
そしてその村にはもう誰も人は住んでいない。
「砦へ行くにはこの村を経由じゃな」
「はい、そうなりますね。ここは、『ショーヤの村』……だいぶ前にこの地の住民たちはエデンへ移っております」
「なるほど。ならば都合が良いな」
本来、軍を連れて行くのであればそれなりに日数のかかる距離にあった目的地の砦も、四人の少数精鋭で身軽であるために、予定よりもずっと早く距離を稼ぐことができた。
「今日はここまでじゃな。流石に暗い。それに一日中小走りしたので、この村で一休みしようぞ。夜明けとともに出れば、明日のだいぶ早い時間に砦に着く」
既に辺りも暗くなり、森へ入っても移動が難しくなる。
それに、少しは休んで英気を養っておかねば、肝心の救助活動に支障が出かねない。
トワの提案に、オルガスもクローナも特に反対はなかった。
「人の気配もなさそうだし……でも、勝手に泊っていいのか~?」
「ん? ぬわはははは、救世主殿は随分と遠慮深いのぅ。既にここは捨てられた地。誰の者でもない以上、有効利用すればよかろう」
「そういうことですね、救世主様。さ、こちらの民家で今日は過ごしましょう。夜はグッスリ寝て戴いて問題ありません、小生が見張りに立ちます」
「それに私も先ほど村の結界を発動させてきました。無人になっても術式だけは残されていましたので、利用させてもらいましたので、仮に誰かが入ってきてもすぐに分かります」
誰もいないので、勝手に人の家を使っても咎められることはない。
既に住民は日用品や家財道具などのほとんどを持ち出しているので、建物の中も何もないのだが、雨風を防ぐ屋根があるのは野宿をするよりもマシであり、四人は適当な家を使わせてもらうことにした。
「ああ、分かった。それに……俺、なぜかだけど、キカイが来たら俺も分かるし……ああ、それなら安心だな」
群から離れればもういつも気を抜けない日々になる覚悟はしていた。
常に神出鬼没というキカイがいつ現れるかもしれないからだ。
しかし、休む時には休まねば肝心な時に役に立たなくなる。
アークスも少しだけ気を緩めて、明日に備えることに反対はなかった。
旅に慣れていない……かどうかは記憶が無くてよく分からないアークスだが、それでもしばらくは野宿をしたり火を起こしたり食料を森や川で調達したりということにならないというのもホッとして、自然と笑顔になって頷いた。
「おお、あれは……」
と、そこで何かを思い出したかのようにオルガスが手を叩いた。
「姫様、あちらに共同浴場があるようです」
共同浴場。すなわち、風呂。
すると、トワもクローナも大いに喜んだ。
「ほほう! それはよいな! スッキリ、サッパリとできるではないか!」
「わっ、お風呂ですか! いいですね、入りましょう! 丁度体も疲れでべとべとでした!」
「へぇ、お風呂かぁ……って、お風呂使えるの?」
「お湯さえ入れれば問題ないでしょう。洗面用具は……」
「はい、私がちゃんと持ってきているので大丈夫ですし、お湯は私の魔法で出すので問題ないのです♪」
いつも戦場で男も女も関係なく戦い続けているクローナたちだが、それでも疲れた体に風呂というのは嬉しいものであった。
すると、気分がはしゃいでしまったのか……
「では、ほーれ、ぽいぽいぽいっとな♪」
「「「ッッッ!!??」」」
鼻歌交じりのトワが、その場で鎧を投げ捨てた。
下着のような胸当ての鎧やマントなのでアッサリと全裸に。
高身長で引き締まった体でありながら、女性的な柔らかさを感じさせる美尻と巨乳を丸出しにした。
「ちょっ?!」
「ひ、姫様、な、なにを!?」
「お姉さま、お行儀が悪いです!」
突然のトワの行為に慌てて顔を隠すアークスに、咎めるオルガスとクローナ。
だが、トワはケラケラと豪快に笑う。
「いや~、部下の男どももおらんと思うとな。しかも、ワシらしかおらん無人の村で堂々と全裸になる……ぬはははは、一度やってみたかったのじゃ! 開放的で気持ち良いぞ~!」
「ちょ、トワ、お、俺も、男がいるんだけど!」
「ん? よいであろう? この乳も尻も救世主殿が自由にしてよいというたであろう? ほれ、救世主殿も脱げ~い。儂が背中を洗ってやるぞ~」
「ちょ、お、俺は男風呂に!」
「そんな遠慮するでない! 混浴じゃ、混浴♪」
「あ、だ、ちょ、まって!?」
逃げようとするアークスを捕まえて、ニヤニヤしながら衣服を脱がそうとするトワ。
その表情は飢えたサキュバスのようにいやらしい笑みと涎が見える。
「ちょ、お姉さま! アークスの御背中を流すのは私です! アークス、逃げてこっちに来るのです!」
「はいっ!」
「ぬわっ!? あ、おい待て!」
むくれたクローナがアークスに命じ、アークスは体を捩ってトワから逃れてクローナのもとへ。
そのままクローナはアークスの手を繋いで一緒に共同浴場へ走って駆けこんでいく。
「ぬお~、クローナめぇ! 姉の処女喪失を邪魔するとは良い度胸なのじゃ」
「……姫様……はしたのうございます。それに、救世主様はクローナ姫と良い雰囲気でしたし……」
直前でアークスを連れ去られ、悔しそうに全裸で地団駄するトワに、呆れた様子のオルガスであった。
だが、そんなオルガスに対してトワはジト目になり……
「ふん、知らんのじゃ。股が濡れて子宮が疼く以上、ワシも譲らんのじゃ。あと、オルガス……どんなときでも、二人になれば……」
「うっ……分かりま……いや、分かった。トワ。あなたはそこまで救世主様に惚れたのか?」
「うむ。ま~、恋と呼ぶにはワシももうそんな歳ではないし、クローナのように頭お花畑のような感じではないが……なんか単純に、あの小僧は強くてかわいいのと一生懸命なので、抱きたくなったのじゃ」
「……ッ……あなたは本当に……」
二人きりになった途端に、敬語もやめて、親しい友としての会話をするオルガスとトワ。
「なんじゃ~? 妬いとるのか~? 互いに良い男がおらずに夜に互いに股を擦りあって慰め合った幼き頃からの儂を取られたと~?」
「ふっ、何を言うか……別に嫉妬など……」
「あっ、それとも羨ましいと思うとるか? おぬしもあの戦いで救世主殿の力を目の当たりにして濡れたであろう?」
「な、なぜそれを!? っ、じゃ、じゃなくて……トワ……」
「ぬわはははは、幼き頃から素敵なお嫁さんになりたいと夢見たおぬしも強くなりすぎて男も近寄らなくなったが……ついにムフフのチャンスが来たという事じゃな」
「ちょっ!?」
「儂とオルガス、魔王軍最強にして難攻不落の処女膜が~♪」
「お、おい、トワ! そ、それは先を行きすぎだ! しょ、小生はもうそんな乙女の夢など捨てた! 今の小生は魔王軍大将軍としてキカイどもを打倒すること以外は――――」
「はいはい、はいはい、はいはい、はいはい」
「トワーっ!」
「ぬわはは、やーい、やーい、オルガスのえっち~」
「ちが、違うぅ! ええい、このお下品王女め! し、尻を出せ! 尻を叩いてやる!」
「やーい、こっこまでおいで~、お尻ぺんぺん♪」
「トワーっ!」
気づけば、風呂のことがこの瞬間だけ頭が抜け、オルガスは顔を真っ赤にして全裸のトワを追いかけまわす。
トワは村のど真ん中を走ったり、時には屋根伝いに逃げたりと、どこか楽しそうに心の底から笑いながらはしゃいで逃げ回っていた。
それは、普段は大人数の魔王軍の配下たちが居る中で、キカイたちとの戦いに僅かな光すら見えない日々が続いていたことで、トワの中で眠っていた感情だったのかもしれない。
キカイたちの戦いに希望が見え、さらには今は心の底から気を許せる友しかいない。
少しの間だけ、トワははしゃいだ。
その結果、少しの間、風呂にはクローナとアークスの二人だけ。
二人だけ――――――




