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第23話 約束

「空間魔法・異次元ポケット!」


 クローナが呪文を唱えると、目の前の空間に黒い渦が出現した。


「それは何なの?」

「はい、これは空間魔法。異空間に繋げ、ここにあらゆる道具を収納できて、自在に出し入れができるのです。家財道具も、日用品も、武器すらも。『生物』は無理なのですが」

「へぇ~、そんな便利なのが……」

「ええ。とはいっても一度に出し入れできる大きさや数には限りがありますので、何度も何度も使うことはできませんが、これで旅の大きなお荷物は私が運べます!」


 胸張って「えっへん」と誇らしげなクローナは、そのまま魔法で目の前にあったたびに必要な道具、食料などを一瞬で異空間に収納した。


「うふふふ、私は役に立つんですということを分かっていただけましたか? どんなもんだい、です!」

「お、おう……すごいな……」

「ならばよいのです♪」


 危険が伴う旅ゆえに、クローナのようなか弱そうな女の子を同行させるのは気が引けたアークスも、これでは何も言えず、結局頷くしかなかった。



「では、おぬしら。航海含めた避難民の移送は任せたぞ」


「「「「「承知しました! 命に代えても!」」」」」


「うむ、父上にもよろしくの。今度帰った時には婿を紹介してやるとな」



 その間に、簡単な引継ぎなどを終えてトワもまた準備ができた様子。


「ちょ、お姉さま! 違います! アークスは、アークスは~」

「ぬふふふふ、違わないぞ。姉妹とはいえ女と女。譲れぬ男に関しては容赦せんぞ~。救世主殿はワシの乳をえらく気に入ったようじゃしな」

「う、う~、アークス! アークスは大きなおっぱいじゃないとダメですか? 私、まだ小さいけどその代わり色々と頑張ります!」

「儂の尻も触り放題~、頬ずりし放題じゃぞ~」

「わ、私だってお尻は!」


 これから始まる四人の旅。色々と心配になってくる二人の姉妹の様子にアークスは頭を抱えてしまう。

 すると、そんなアークスに兵たちは肩を叩いた。


「じゃあな、あんちゃん! ぜってー生き延びろよ!」

「俺らも力つけてすぐに駆け付けるからよ!」

「姫様を頼みます」

「姫様、大将軍、救世主様、どうかご武運を」

「あ~……いくら救世主様といえど、姫様たちを泣かすようなことだけは……な?」


 この場で四人は軍と別れて行動することになる。

 これが今生の別れというわけではない。しかし、誰もそのことを口にはしないが、今の世の中どうなるかは分からない。

 だからこそ、彼らも後悔しないようにかけるべき言葉は一人一人かけようとする。

 そして当然それは、移住する者たちも同じだった。


「あ……アークス!」

「え? あ……」


 アークスが振り返ると、そこには昨日一緒に遊んだマセナを始めとする子供たちだった。

 しかしその表情は浮かない。

 それは、子供たちはアークスがキカイを貪り食う瞬間を目の当たりにしてしまい、ショックを受けたからだ。


「あ、あの……その……」


 アークスもそのことを気にし、気まずくなって昨日から話しかけることもできなくなっていた。

 

「昨日は怖がらせちゃって……ごめんよ……。俺はここでお別れだけど……元気でね」


 苦笑しながら当たり障りのないことしか言えないアークス。

 だが、マセナたちは唇を噛みしめながら一斉に、アークスに何かが入った包みを差し出した。


「アークス、こ、これ!」

「にいちゃん、持ってってよ!」

「わたしも!」


 最初何か分からずに戸惑ってしまうアークスだったが、とりあえずマセナから渡されたその包みを開けると、中には昨日倒したキカイの残骸の一部が入っていた。


「こ、これは……?」

「アークスに、お、おべんとう!」

「お、おべ……あ……」

「きのうは、びっくりしちゃったの! でも、怖くない! 怖くないから! 怖くないよ! だから……だから……」


 次の瞬間、マセナはアークスの腰に飛びついて、お腹に顔を埋めながら涙を流した。


「また、あそんでよぉ……きらいにならないで……」


 その言葉がアークスの内に染み渡った。

 その願いが、アークスの心を揺さぶり、同時に奥底から何か力が芽生えてきた。



「ああ、もちろんだよ! 嫌いにならないし、また遊ぼう! 獣人のお姫様も助けるし、いつか必ずあいつらの本拠地見つけ出して……そしていつか皆であいつらをぶっ潰す! そしたら、遊ぼう! また、遊ぼうよ! 俺、その日が来るように頑張るから!!」


「……ん……うん! やくそくだよ?」


「ああ、約束するよ! だって、俺の辞書に不可能という文字はないんだから!」



 アークスの中に強い決意が芽生えた。

 絶対にこの役目を成し遂げなければならないと強く思った。


「私も一緒に遊んでくれないと寂しいです! そのときは私も一緒に遊びます!」

「安心しろ、童たちよ。救世主様も姫様も、必ずやもう一度そなたたちと遊べるよう、小生も命をかける!」


 クローナもどこか嬉しそうに、オルガスも頷いて、二人でアークスを挟むように寄り添って、子供たちに誓う。

 その言葉を受けて、子供たちは皆が涙を流しながらも、笑って頷いた。



「さて……そろそろ俺たちも出発するぞ! 今日中に海に到達するぞ!」


「「「「おおおおおおっっ!!」」」」


「よし! 俺たちも行こうよ、クローナ、オルガスさん! トワイライト姫……じゃなくて、トワ!」


「はい! 必ずアシリアを救出です!」


「その通りです! 今より小生ら……いや、人類が命を守りながらも、反撃の準備開始! あと、小生にも「さん」はいりませぬ」


「うむ、では行くぞ! 救世主殿! ……不完全燃焼で悶々としている下半身は後でたっぷり愛でてやるぞ♥」



 人類のため。世界のため。そしてこの日の約束を守るため、各々の戦いと旅が始まったのだった。


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