寂れた街の交差点
寂れた街の交差点、逢魔が辻のモノの怪。
どうか、私を喰ってはくれないだろうか。
都会の喧騒の中、スクランブル交差点を行き交う人波が全て同じに見えたあたりで、私は壊れていたんだと思うのだ。
何に疲れたわけでも、殊更、生活に困っていたわけでもない。ただ、青信号に向かって歩いていく、意味を失ってしまっていた。
どうせ、独り身だ。
思い切って仕事を辞め、田舎に引っ込んだものの、私の中の虚無感は満たされることはなかった。
親の形見の懐中時計を見ながら、夜更かしをする私に「逢魔が時には化け物が逢魔が辻には妖怪が悪い子を食べに来るんだよ」と脅かして来たもんだと思い出す。
宮司が居なくなり、すっかり廃墟になった無人の社から伸びる参道に夕陽が影を落とす。
交通量の少ない交差点で信号の作る長い影が化け物のように揺らいでいる。
寂れた街の交差点。逢魔が辻のモノの怪。
どうか私を喰ってはくれないだろうか。
山際に沈む夕陽の階調が道の先に見える。
深い群青に染められる空に星が瞬く頃には、私の心も夜に溶けてしまえばいいのにと。
寂れた街の交差点、私はただ立ち尽くした。