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9. ジェントルマンな国王陛下との謁見は


「とりあえず、美香は天使なんだから例え何をしたって誰にも怒られるようなことはない。安心して振る舞えばいいから」


 聞きようによっては誤解しそうな文言をサラリと言うジェレミーにドキドキしたけど、とにかく今から国王陛下とジェレミーの恋敵である王太子殿下に会うということに緊張を隠せない。


 まずもって王族に会うなんてことがなかなかないことだからね。

 緊張しても仕方ない。

 それに、王太子殿下はアニエスを巡って戦う相手になるわけだし。


 そうこう考えているうちに謁見室の大きな扉が開かれた。

 真っ赤な絨毯(じゅうたん)が真っ直ぐに玉座の方へと伸びている。

 遠く離れた玉座には、国王陛下とその隣に王太子殿下が座っているようだ。

 

 謁見室で先に王族の方が待っているということは、やはり設定が天使である私の立場というのはこの国では高いのだと知らされる。

 

 とにかく謁見室の入り口から玉座までが遠過ぎて、それ以上は何にも分からなかった。


 隣に立つジェレミーを思わず見上げると、ジェレミーは小さく頷いた。

 それからは二人並んで赤絨毯の上を玉座へと足を進めた。


 やがて玉座が目の前に迫った時、ジェレミーが(ひざまず)いたから私もそれに(なら)った。

 視線は玉座の下の方をずっと見ていたから、国王陛下たちの顔は見ていない。


「天使様、そのようなことなさらずともよろしい」


 威厳のある壮年男性の声が響いた。

 きっと国王陛下の声だろう。


「いえ、これで良いのです」


 私は設定こそ天使だけど、中身はただの女子高生なんだから。

 一国の王様に偉そうな態度をするなんてできないよ。


「そうか、天使様がそれで良いのならば。それで、名は美香様とおっしゃるのだとか?」

「はい。美香と申します」

「天使様が降り立つとは我が国にとっては大層な(ほま)れ。して、我が国へ降り立ったのには何か理由が?」


 ずっと頭を下げていたから、国王陛下の顔も王太子殿下の顔も見られてない。

 私はここで思わず顔を上げた。


 お姉ちゃんの小説を読んでその描写から想像はしていたけれど、国王陛下は黒髪に白髪混じりでオールバックの髪型、それに整った顔立ち。

 ジェレミーと同じ色の瞳で、目尻と口元には少し皺が目立ったいわゆるジェントルマンだった。


 さすがイケメン王子たちの父親といった風貌で、歳を重ねてもその美形は健在であった。


 ふと視線を横にずらせばこちらをじっと見つめる王太子殿下の姿が。


 これはまずい。

 お姉ちゃんがヒロインとくっつけただけあって、かなりの正統派イケメンだ。


 王太子殿下は、王妃譲りの銀髪に赤紫色の瞳を持っている。

 小説の中では、父親である国王陛下の色味を持たなかったことを憂いている描写もあったなぁ。


 長めの銀髪は一つに縛られて胸元に垂らされている。

 お姉ちゃんの好きな長髪だ。


「美香様?」


 小説の中でしか知らなかった二人にじーっと見入ってしまっていた私に、怪訝そうな顔をした国王陛下が声をかけた。


「あっ! すみません! えーっと……、理由ですか? 理由……」


 推しのワンコ系王子様であるジェレミーの恋愛を成就させて闇堕ちを防ぐために来ました、なんて言える訳ない。


「それはですね、……観光です」


 苦し紛れに出た言葉がよりにもよって『観光』だなんて、頭を抱えたくなった。

 そんなこと誰が信じるのか。


「なるほど! 我が国に観光にいらしたと! それは是非楽しんで帰っていただきたい!」


 思いの外、人の良さそうな国王陛下はニコニコと嬉しそうに笑っている。

 私の観光という言葉を信じたのは本当なのかどうか、それは知る術がなかった。


 先ほどから黙って隣に跪くジェレミーは、笑いを堪えているのか僅かに肩を震わせているように見える。

 やはり観光というのは無理があったのか。


「美香様、私もお声掛けしてもよろしいでしょうか?」



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