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29. ご乱心


「はい! ジェレミー様、なんでございましょう?」


 アニエスはジェレミーから声をかけられたことに喜色の表情を隠せない。

 以前会った時には酷く素っ気ない態度をされたことを、もう忘れちゃったのかなぁ……。

 すごくポジティブだ。

 そこは本当に見習いたい。


「これに見覚えは?」


 手にしているのはあのブローチで。

 あれ? あれは宝物庫に返したんじゃないの?


「い、いいえ。存じ上げませんわ」

「ほう……。それはおかしいな。これはアニエス嬢が美香に手渡した物だ。今日ここに着けてくるようにと言い含めてな」


 ジェレミーがアニエスに話す声は、シンとした広間中に響いている。

 他の貴族たちも、耳を澄ませて聞き耳を立てているみたいだった。


「ジェレミーよ! それはどういうことだ? それは宝物庫にしまってあった物であろう?」


 思わずブローチを見た国王陛下が声を上げた。


「陛下、宝物庫に最近ネズミが入り込んでいるようなのです」

「な、なんだと⁉︎」


 国王陛下は顔を真っ青にしている。

 そりゃそうだよね、大切なものがしまってある宝物庫からただの伯爵令嬢の手にブローチが渡るっていうことは、誰かが盗みに入ったってことだもん。


「それで、アニエス嬢。どういうことか説明を」

「わ、私は存じ上げません! そ、そうだわ! 美香様が盗んだのよ! 神の使いである天使様なら簡単に宝物庫に入り込んで盗めるわ!」

「ジェレミー殿下、我が娘に限ってそのようにおかしなことは関係しておりません。恐れながら、美香様の思い違いか……または罠ではないかと」


 一体天使をなんだと思っているのか……。

 アニエスも、父であるリッシュ伯爵も好き勝手なことを並べ立てて喚いている。

 

「ジェレミー殿下! 私の姪がそのようなことするわけがございません! アニエスの言う通り、美香様がアニエスを陥れようとしたに違いありません! いや……そうだ、ジェレミー殿下ご自身が宝物庫に盗みに入ったのです! 美香様と懇意になさっていると聞いておりますぞ!」


 突然割って入ったのはこの国の宰相だった。

 リッシュ伯爵家のアニエスの伯父でもある。


「宰相、お前とリッシュ伯爵家は親類関係であったな? それにしても、最近は不思議なことが多い。この国の宰相が其方になってからというもの、重要な職にはリッシュ伯爵家の縁故の者が就き、そこを中心に汚職が蔓 蔓延(はびこ)っているそうだ。それに一番問題なのは()()()()()()()()()()()()()()()()()徐々に市場に出回っているということだ」


 ジェレミーの言葉に大広間はざわめきが広がった。

 まさかこの場で断罪が始まるなど、誰も予想していなかったのだろうから。

 でもこのように貴族たちが一堂に会することはなかなか無いことで、このタイミングがベストなのだとジェレミーは言っていた。


「私は知りませんぞ。そのようなことは偶然であって、全く身に覚えのないことです!」


 宰相も、リッシュ伯爵もアニエスももちろん認めようとはしない。


「陛下、あのアニエス嬢の身に付けているネックレス、イヤリングに見覚えはありませんか?」

「……あれは! 紅玉をあしらった国宝のネックレスとイヤリングではないか!」


 ジェレミーが国王陛下に問いかけ、陛下が慌てた様子で答えれば、皆の視線が一同にアニエスへと向けられて、アニエスはそこでも照れ臭そうに目を伏せて頬を染めている。

 貴女そんな場合じゃないでしょう!

 ……と思うけれど、それがアニエスなんだろう。


「おい、宰相! 一体どういうことだ? 私が売り払えと言った物の中にあのネックレスとイヤリングは無かったはずだぞ!」

「へ、陛下! 落ち着いてください!」

「お前、まさか儂に黙って勝手に国宝を持ち出したりしてるんじゃないだろうな⁉︎」

「陛下! 皆が聞いております!」


 宰相と国王陛下の会話から推察するに、国王陛下は宝物庫の国宝を宰相と一緒になって勝手に売り払っていたってこと?


「陛下、いえ……父上。国宝はあくまで国の物です。貴方の物ではない。貴方と宰相、そして仲間の貴族たちが協力して国宝を他国に売り払い、私腹を肥やしていることは、既に明らかなのです」

「ジェレミー! お前! 儂はお前の父親だぞ! どうして親である儂をそのように言うのだ⁉︎ そうか、分かったぞ! お前はやはり美香様と一緒になってロレシオを退けて国王となるつもりなんだな! それで儂と宰相が邪魔になったのであろう!」


 ジェレミーは、そんな国王陛下の言葉に一瞬傷ついた表情を見せた。

 それはほんの一瞬のことで、ジェレミーのことを常に見ている私だから気づけたのかも知れない。


「父上、もうおやめください。是非、宰相らとともに罰を受けて罪を償ってください」


 ジェレミーの言葉に、宰相も国王陛下もブルブルと拳を握りしめている。


「王太子よ! ジェレミーの乱心じゃ! 此奴は天使様である美香様に嘘を吐いて利用し、お前を退けて次期国王の座につこうとする不届き者じゃ! 儂や宰相がそのような(たばか)りごとをするわけがなかろう! お前もジェレミーが善良な美香様を騙して婚姻を結び、この国を手に入れようとしていることを知っておろう⁉︎」



 

 


 


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